シンガポール 暗号資産・仮想通貨
シンガポールの暗号資産の税務~IRASのデジタルトークンガイド
IRAS(シンガポールの税務当局)のe-Tax Guideでは、デジタルトークンの所得税の取扱いについて説明します。主な内容は以下の通りです。
目次
1. デジタルトークンの3つの分類
- 支払トークン(ペイメントトークン)(ビットコインなどの暗号通貨)
- ユーティリティトークン(サービス利用権)
- セキュリティトークン(株式や債券などの投資商品の性質)
2. 主な課税方針
- 支払トークン: 無形資産として扱い、トークンの取得時は物々交換取引として課税。時価で評価され、対価との差額が課税対象。売却時は、売却利益は課税対象。
- ユーティリティトークン: トークンの取得時はサービスに対する前払費用として扱い、サービス受領時に、サービスの時価に基づき課税(取得価額との差額が課税対象)。
- セキュリティトークン: 株式や債券などの投資商品の性質のため、トークンの取得時は課税されず、配当金や利子などの受領時にも、キャピタルゲインであれば課税されない。
3. ICO(新規仮想通貨発行)(Intial Coin Offering)の課税
- 支払トークン: 状況により課税
- ユーティリティトークン: 繰延収益として取扱い、トークン販売時は課税されず、サービス提供時に、課税。
- セキュリティトークン: 資本性取引として非課税。
4. その他の重要事項
(1) マイニング収入の課税
①法人の場合
- 営利目的で設立される法人のマイニング活動は、事業として扱われます。
- マイニング機器購入時点や最初の商業活動開始時点から、事業開始とみなされます。
- マイニング費用は、発生時点で損金算入可能。
- マイニングしたトークンの売却時に課税。
②個人の場合
- 原則として、趣味・娯楽として扱われる(非課税)
- マイニング費用は、所得から控除不可
- ただし、体系的・継続的に利益を得る目的がある場合は、事業とみなされ課税
(2) エアドロップやハードフォークの取り扱い
エアドロップ
- 商品やサービスの対価として受取らない場合は、非課税
- サービスの見返りや期待して受取る場合は、課税
- トークン取引業者の場合、売却益は、課税
エアドロップは、暗号資産プロジェクトが、無料で、トークンやNFTを配布するマーケティング手法。
主な目的: コミュニティ拡大、新規ユーザーの獲得、プロジェクトの認知度向上、トークン保有者への報酬提供
受取条件の例: 特定のトークンの保有、ウォレットでの取引履歴、SNSでのプロジェクト支援、コミュニティ参加
ハードフォーク
- 追加で受取るトークンは臨時収入として非課税
- ただし、トークン取引業者の場合、売却益は課税
ハードフォークとは、ブロックチェーンのプロトコル変更により、チェーンが2つに分岐する現象。
主な特徴: 既存チェーンと新チェーンが並存、分岐前の取引履歴は両方に保持、新旧のトークンが別々に存在、コミュニティの合意が必要
代表例: Bitcoin → Bitcoin Cash (2017)、Ethereum → Ethereum Classic (2016)
(3) 記録保持義務
以下の情報を記録・保管する必要がある:
- 取引日
- デジタルトークンの受取・売却数量
- 取引時点でのデジタルトークンの価値
- 使用した為替レート
- 取引目的
- 売買取引の場合の取引先情報
- ICOの詳細
- 事業費用の領収書/請求書
(4) 国際取引の源泉地決定
以下の要因を総合的に考慮:
- シンガポールにおける物理的な拠点(オフィス、従業員)の有無
- ICOのマーケティングと宣伝活動の実施場所
- ICO参加者が、主に、シンガポール国内/国外のどちらに基づいているか
- ブロックチェーン技術の開発者が、シンガポール国内/国外のどちらに基づいているか
また、セキュリティトークンの場合:
- 利子所得:貸付が行われた場所
- 配当所得:配当支払会社の税務上の居住地
- 特殊なケースでは、個別の事実関係に基づいて判断
全体的に見て、シンガポールの税制では、税負担を最小限に抑えることで、仮想通貨の取引を促進しています。
キャピタルゲイン課税がないため、仮想通貨の種類によっては、売却等で利益を得ても、税金はかかりません。ただし、仮想通貨取引が事業の一部である場合、その利益には法人税(17%)が課されます。
また、商品やサービスの支払に仮想通貨を使用する場合は、物品サービス税(GST)が免除されますが、仮想通貨の売買や換金に関連する手数料には、GSTが課されます。
(注)上記取扱いは、出稿当時のもので、最新実務と異なる場合がありますので、ご注意ください。
お問い合わせ、ご相談は、錦戸(fm@avicnac.com)まで、ご連絡ください。
錦戸 傑宜(Nishikido Takanobu) / AVIC NAC PTE LTD
シンガポールにて、シンガポールとマレーシアの日系企業のASEAN進出および事業展開支援に特化したサービスを提供しています。日本の公認会計士として、監査経験、12年以上のスタートアップのCFO経験を持ち、EC、Fintech、IoT/AI、エネルギー、創薬など、幅広い業界での実務経験を有しています。日本での実務経験とシンガポールでの実務知識を組み合わせ、現地法人設立から、会計・税務対応、内部統制構築、資金調達まで、包括的なビジネスサポートを行っています。特に、日本とシンガポールの商習慣や制度の違いを熟知し、両国の架け橋となることで、クライアントの円滑な海外展開を支援しています。