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シンガポールの国家予算案2025 ~税金、助成金編~
目次
シンガポール予算とは
2025年の予算案は2月18日に発表され、生活費の軽減や企業支援策、持続可能な成長を促す政策が盛り込まれた。政府は、会計年度(4月~3月)の歳入歳出の着地見込みと翌年度以降の予算案を策定し、財務大臣が国会に提出する。その中でシンガポールでの企業運営で押さえておくべき税制と助成金に関する主なポイントをまとめる。
税金・助成金関連の主なポイント
①企業の事業運営コスト増に対する施策: 事業運営コストの負担軽減へ、税制優遇と賃上げ補助を継続
・法人税リベート
企業の事業運営コストを支援する施策の継続については、まず、法人所得税(CIT)リベートおよびCITキャッシュグラント(現金補助)は、2024年度と同様に適用され、最大SGD40,000の優遇が受けられることとなった。
・賃上げ補助制度
また、賃上げ補助制度(WCS)も延長され、基本給SGD4,000以下のシンガポール人および永住権保有者を雇用し、SGD100以上の昇給を行った企業に対し、翌年3月に政府が補助金を支給する仕組みとなる。2025年度は昇給額の40%、2026年度は20%が補助される。
なお、2025年3月に支給されるWCS補助金は2024年の昇給分である点に留意が必要である。政府はこれらの施策を通じて、企業の負担を軽減しながら雇用の安定を図り、賃上げを促進することで労働市場の活性化を目指している。
②企業のグローバル化とM&Aを支援する施策:税制優遇と助成金制度を延長
・M&A(合併・買収)の促進に向けた税制優遇や助成金制度
M&A関連の所得控除は2030年12月末まで延長され、買収金額の25%が税務上控除されるほか、M&A取引費用の2倍を控除できる制度も継続される。
・キャピタルゲイン(CG)非課税制度の見直し
見直しにより、「20%以上、24カ月以上保有した株式の売却益が非課税」とするルールが恒久化。さらに、優先株式も対象に追加され、グループ全体での保有比率で判定可能となる。これらの改正は2026年1月から適用される。
・海外市場進出を支援する200%課税控除制度
2030年末まで延長され、SGD150,000を上限に適格支出の2倍を損金算入できる。
・新規市場参入企業向けのMRA Grant(市場準備助成金)
2026年3月まで延長。こちらはローカル資本30%以上が条件となるため、多くの日系企業は適用対象外となるが、ローカル企業はこうした助成金を活用しながら海外展開を進め、競争力を強化している。シンガポール市場での競争環境を理解し、それを踏まえた戦略的に事業展開することが求められる。
③証券市場の活性化のための施策:上場促進のための税制優遇
・シンガポール証券取引所(SGX)でのIPO(新規株式公開)の現状と対策
シンガポール証券取引所(SGX)では、IPO(新規株式公開)件数や調達額が過去10年で最低水準を記録しており、市場活性化が課題となっている。これを受け、シンガポール金融管理局(MAS)は昨年、証券市場の活性化に向けたタスクフォースを設置し、具体的な対策を進めている。
・税制優遇
今年の予算案では、上場予定企業に対する税額控除が発表された。これにより、上場にかかるコストの一部が軽減され、より多くの企業がSGXでの上場を目指しやすくなることが期待される。
さらに、市場の流動性を高めるため、SGX上場株を運用するファンドマネジメント会社に対し、税制優遇措置を導入。新たに設立されるファンドマネジメント会社は、優遇税率の適用を受けることが可能となり、SGX上場株を運用する場合には、適格所得に対する免税措置も講じられることが発表された。
④イノベーションとインフラストラクチャーのための施策
国家生産基金(National Productivity Fund)について、政府は人工知能(AI)や量子コンピューティングの分野への投資を促進するため、新たな予算を追加、国家生産性基金に30億シンガポールドルを追加投入し、AIや量子コンピューティングなどの先端技術分野での多国籍企業誘致を強化。
これは、シンガポールが今後、どの分野を重点的に成長させるかを示しており、現地に拠点を持つ日系企業にとっても重要な示唆となる。これらの分野と親和性のある事業を展開している企業は、今後の動向を注視する必要があるだろう。
また、ローカル企業の成長支援策として、AIソリューションを含むさまざまな支援が強化されることも発表された。ただし、これらの制度はローカル資本30%以上が要件となるため、日系企業が直接活用することは難しい。
その他事業運営費用
①労働力の強化とスキル開発
- 中央積立基金(CPF)の拠出率引き上げ: 高齢従業員向けのCPF拠出率がさらに引き上げられ、労働力の持続可能性を支援。
- スキル開発の推進: 労働者が生涯を通じてスキルを向上させるための教育プログラムや助成金が拡充。
②持続可能な都市の構築
- 気候変動対策: 2050年までの「ネットゼロ排出」目標を達成するため、気候変動に対応したインフラへの投資が進められている。また、海面上昇への防護策も強化されている。
- 環境関連の投資: グリーン経済の促進に向けた政策が導入され、企業の脱炭素化を支援する取り組みが進められている。
シンガポール予算2025の概要と主要施策
シンガポール政府は、経済成長の持続、企業支援、人材開発、産業イノベーションの促進を目的とした総合的な財政政策を発表しました。
約S$14億(約1,540億円)の新規投資を含み、特に半導体・バイオ医療・金融・企業支援・求職者支援に重点を置いています。
- 半導体R&D施設とバイオ医療R&D → 未来的なクリーンルームや研究者
- 企業支援(投資ファンド・M&A促進) → 成長する企業やグローバル展開するスタートアップ
- 労働市場改革・求職者支援 → スキルアップや面接を受ける求職者
- 地域経済活性化 → 活気ある商店街や地元のイベント
1. 産業イノベーション支援
① S$500M 半導体ナショナルファブリケーション施設
- 2027年までにJTC nanoSpace @ Tampinesに開設
- 先端パッケージング技術の開発を支援
- スタートアップ・中小企業(SME)の競争力向上
- シンガポールを半導体技術のグローバルハブへ
② S$500M バイオ医療R&D投資
- A*Star(シンガポール科学技術研究庁)の研究施設をOne-Northエリアに拡大
- 低コスト・高品質の細胞治療技術開発(STAMP 2.0)
- 細胞治療の臨床応用を加速するプロジェクト(PACTMAN)
- R&D企業のGDP貢献が10年間で15%→24%に増加
2. 企業支援・資金調達の強化
① S$200M 長期投資ファンド(Long Term Investment Fund)
- 成長に時間を要する企業向け
- 有機的成長・M&Aによる成長の両方を支援
- ニッチ市場・新興産業向け「忍耐強い資本(Patient Capital)」を提供
② S$1B プライベートクレジット成長ファンド
- 高成長企業向けの「非希薄型(Non-Dilutive)」カスタマイズ融資
- 国際的なM&Aや大規模な海外投資に活用可能
- 専門的な金融アドバイザリーサービス(M&A戦略、財務管理など)
- 2025年第3四半期に詳細発表
③ 企業規制の簡素化
- 申請処理期間を原則30営業日以内に短縮
- 事業ライセンスの有効期間を最低3年以上(可能なら5年)
- 新規事業には暫定ライセンスを発行
- 複数の政府機関による重複申請を簡素化
- SME向け新窓口「SME PEO」を3月26日より本格稼働
3. 労働市場改革・求職者支援
① Sパス(S Pass)の最低給与基準引き上げ
- 一般職:S$3,300(従来S$3,150)
- 金融業:S$3,800(従来S$3,650)
- 40代半ばでは最高S$4,800(一般職)/ S$5,650(金融業)
- 2025年9月1日より新規申請者に適用
- 2026年9月1日より更新申請者にも適用
- Sパスのレヴィ(雇用税)もS$550 → S$650に増額
② SkillsFuture求職者支援(Jobseeker Support)
- 非自発的失業者向け
- 月S$1,500(1カ月目)→S$750(4〜6カ月目)
- 2025年4月開始
- 21歳以上のシンガポール人が対象
- 2026年Q1から永住者も対象
- 求職活動の要件あり(履歴書更新、キャリアフェア参加、研修受講など)
③ SkillsFuture中途キャリア研修手当
- 40歳以上のシンガポール人対象
- パートタイム研修:月S$300支給
- フルタイム研修:過去12カ月の平均収入の50%(上限S$3,000)
- 適用期間:最大24カ月
- 2025年よりパートタイム研修にも拡大
4. 地域経済活性化
① Vibrant Heartland Programme
- 2025年4月1日より1年間実施
- 商店街組合の地域イベントを支援
- 標準プラン:S$3,000補助
- 拡張プラン:S$200,000補助
- 子供向けワークショップ、ゲームイベント、地域フェスティバルなど
② ビジュアルマーチャンダイジング(VMP)プログラム
- 補助額をS$12,000 → S$60,000に増額
- デジタル・ビジュアルマーケティング研修を拡充
- 店舗改装の支援対象を拡大
5. 今後の展望と課題
① 外部環境リスク
- 自由貿易体制の圧力(貿易戦争リスク)
- サプライチェーンの混乱・事業コスト増大
- 投資信頼感の低下・経済成長鈍化の可能性
② 国内課題
- 土地・労働力・カーボン制約の強化
- デジタル・グリーン経済の新ビジネスモデル創出
- 新興市場(アジア・東南アジア)での成長機会
6. まとめ
- S$500M 半導体R&D施設・S$500M バイオ医療R&D投資 → 技術革新とグローバル競争力強化
- S$200M 長期投資ファンド・S$1B プライベートクレジットファンド → 企業の成長と国際展開を支援
- Sパス最低給与引き上げ・求職者支援・研修手当拡充 → 労働市場改革と人材育成
- 企業規制簡素化・地域経済活性化プログラム → 企業の負担軽減と地元経済振興
- 地政学的リスクに対応しながら、持続可能な経済成長を目指す
シンガポール政府は、「高度技術産業の成長」と「人材育成」を軸に、グローバル競争力の維持と国内経済の活性化を進める戦略を打ち出しました。
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