M&A
[M&A] 親会社よりグループ資産の8割が中航科工の傘下へ
(2009年8月26日 Sinaファイナンス:中航科工母企80%資產注旗下より)
中航科工(香港上場)の親会社である中国航空工業集団(以下、“中航G”)資本運用部部長李平氏によると、親会社はこれから3~5年にグループ資産の8割を上場している子会社の21社(H株とA株)へ資本注入。そのうち、中航科工にRMB1,500億相当の資産が投入され、“完全な航空業バリュー・チェーン”として事業再編が行われる。すなわち、3~5年のうちに発動機や航空システムの設計・製造、飛行機の製造・組立、など事業部門が投入され、本格的な航空業者になる方針。しかも、軍用航空事業が投入される可能性も十分ある。
また、中航科工副総裁の李耀氏によると、上半期に子会社の昌河自動車を分割したが、下半期にもう1社の哈飞自動車(国資委の許可待ち)を切り離せば今後完全に航空事業に集中できる。前期にRMB13億の赤字を出した自動車事業を分割して、事業再編により会社の利益体制が改善されるとの見込み。
一方、“大飞机项目”(国産の大型飛行機生産計画)に対して同社の投資金額がRMB190億を予測し、そのなかRMB50億が親会社からの出資で、中航科工を取り組んで事業参画・入札との予定。
目次
背景
この会社はあまり知られていないと思いますが(中国航空の子会社によく間違われる)、まず会社概要や業績を簡単に紹介します。
1. 中航科工
- 会社規模:資本金=RMB46億、本社=北京、社員数=約2.8万人
- 株主:中航G=61%、EADS(欧洲宇航防务集团)=5%
- 時価総格(総資産):HK$44億(HK$233億)
- 業績:売上RMB163億(赤字RMB11億)
- 業務内容:中国にて自動車、二輪車、小型飛行機、ヘリコプターの設計・開発、製造、販売。
小型自動車の販売台数で計算すれば、中国では4位の自動車メーカー。
中国唯一のヘリコプターが量販できる業者、民用飛行機製造業では中国のトップ。 - 事業部門:自動車(売上の7割強)と航空事業(売上の3割強)
- 連結子会社:約13社(うち4社が上海上場)
- 主な提携先:エアバス(仏)A320機の天津組立事業(天津总装线项目)への20%出資(JV)
2. 中航G
- 会社規模:資本金=RMB640億、本社=北京、社員数=約40万人
- 背景:中国中央政府出資企業(国务院国资委に所属される国有大型企業)。
2008年11月に、元の中国航工第1集団と中国航工第2集団が合併。
2009年7月に、フォーチュン500強企業の426位に入り。(中国軍事防衛企業の初登場) - 総資産:RMB2,900億
- 業績:売上=US$217億、利益=US$5.7億
*2017年のグループ目標は売上RMB1万億の企業になる。 - 事業内容: 軍事防衛、発動機、ヘリコプター、輸送機、不動産、物流、など10事業部門。
航空産業技術だけでなく、情報システムや科学研究を行うR&D施設が全国33ヵ所。 - 子会社:約200社(21社が上場、うち3社が香港上場)
3. “大飞机项目”(国産の大型飛行機生産計画)
2007年に立案された“大飞机项目”は近年中国政府の重大な産業育成政策の一つです。
2008年5月、“大飞机项目”の事業会社が上海に設立され、資本金がRMB200億です。
筆頭株主が国务院国资委(35%)で、上海市政府(25%)、中航G(25%)、中国アルミニウム(5%)、宝鋼(5%)、中化(5%)から出資され、正式社名は“中国商用飞机有限責任公司”です。
“大飞机”(大型飛行機)とは、100トン以上の輸送機(軍用航空機を含む)で、150席以上の旅客機を指す。現状、RMB600億相当の研究開発費が投入されたそうです。2014年に試作機を完成させ、2016年に認証獲得をして国内線の空に飛ばせる、という事業目標。このプロジェクトに対して10~15年の時間を使って、RMB2,000億相当の投資金額を投入する見込みです。
【疑問1】親会社による事業再編のニュースにしか見えないが、何が特別ですか。M&Aには何の関係があるのか?
<解答1> 確かに中航科工は3年連続赤字を出して減収減益の状態になっているが、いつか事業再編のニュースが出ても全然可笑しくない。だが、親会社の主導した“大飞机项目”のお陰でグループの組織・事業再編が加速された。年内に自動車事業を分割して、本格的な航空業者になって会社の“行き先”が明るく見えてきた。しかも、親会社がRMB1,500億相当の資産(航空事業)を投入してもらい、将来の資産が一気に6倍くらい大きくなる。
それに、中航Gのなかで海外の航空事業プラットフォーム(海外の旗艦子会社)”という位置付けが明確され、国内航空事業(製造・生産部門)のホールディング・カンパニーになって重要な地位を占める。言うまでもないが、その最も重要な役目が海外資金調達にある。近いうち、中航科工には大型の第三者割当増資を行う必要がある。(親会社からRMB1,500億相当の資産を買うため)
このニュースは中国のM&A事情を知るには、とても良い実例です。
(1)周知のとおり、中国の企業形態は国有企業(央企)、民間企業(民企)、三資企業(外資)を3つ分かれます。
その産業地図やM&A活動はその企業形態や規制(制限)によってその結果や手法が変わってきます。民企や外資は国有の資産(国営企業)を買収してその企業支配権を獲得するケースが非常に少ない。逆に政策や政府主導による国企が企業買収をするのが最近よく見られる。例えば、最近中国企業による海外の資源企業のM&A案件(2009年9月1日:宝鋼が豪州鉱業者Aquilaの株式15%取得)が挙げられる。
中航G(中航科工含む)の組織再編はまさに政府主導によるものです。政策意向の一つは、国企の間の重なった産業を統合させること。特に過剰競争の鉄鋼産業や自動車産業が挙げられる。よって、“哈飞自動車”と“昌河自動車”との統合(両社とも中航科工の子会社)とか、“昌河”が中国No.3の自動車メーカー“長安自動車”に吸収合併(両社とも鈴木自動車と提携関係あり)とか、“哈飞➝東風自動車”、“哈飞+PSAプジョー”、など様々なM&A噂があった。中航Gの自動車事業はどのように再編されるか、中国の自動車産業地図に影響を与えることが間違いない。
一方、航空事業の最近の動きでは、中航G系の“西飞国际”が米国グッドリッチ社と合弁会社を設立してランディング・ギアやナセルを製造。(今年8月12日にサイン式)そして中航科工の子会社“洪都航空” は今年8月20日に航空資産買収目的でRMB25億を増資した。よって、これから数年も中航GのM&Aニュース(産業統合、提携、など)がどんどん出てくるだろう。このケースは、むしろ中国航空産業再編の幕開けです。
(2)上海の株式市場(A株)が完全に開放(国際化)されるまでに、中国企業は香港上場をさせて資金調達を行うのが主流となる。中航科工が航空事業の中核企業として位置付けされた理由の一つは、海外投資者を向けて大型の融資が可能であることである。また、香港子会社を橋架けして海外M&Aや資本提携などの活動がしやすいこともある。(中国国内の法定や規制に比べて、香港では国際流のビジネスや法律が通用する)
(3)当グループは2010年末までに80%の資産を証券化・資本化させたいという目標があり、中航Gの事業再編関連の増資・融資などがRMB3,000億に上ると予測され、証券・銀行大手にとっては実に美味しい話です。そして、最近中航G系の銘柄はすでに注目され、“大飞机项目”概念というものが間違いなくこれから数年も投資テーマの一つです。
【疑問2】中国版のボーイングになれるのか。
<解答2> ボーイング社の予測によると、これから20年に世界全体の旅客機需要が約2.8万台、約USD2.8万億の市場規模です。そのうち、中国の航空会社が3.4千台を買うとの予測。もう一つの予測では、2020年に中国国内線の国産旅客機需要が2千台である。1台の飛行機に発動機が2部そして予備発動機が1部にすれば、発動機だけの需要はもう6千部で約USD360億の市場規模となる。2020年に中国の航空産業の市場規模はUSD1,800億に上る。
この背景で、中国の独自開発で国産旅客機を造るニーズがある。(もちろん、ボーイングやエアバスから技術提携をしてくれるわけがないだろう)そして部品製造などの周辺産業を育成すれば、すごく大きな経済効果でもある。(アメリカの経験で言えば、航空産業がGDPの15%を貢献して1500万以上の雇用を作ったそうです。あと、ボーイング機の部品の7割が外部アウトソーシングだそうです)
“大飞机项目”はこれから数年に中国経済の大きなテーマの一つに違いない。“大飞机项目”に関わる企業の株価が高く評価されるだろうし、関連産業の企業買収活動や海外技術提携などが増えるだろう。10~20年をかけて研究開発に力を入れれば、中国の国産旅客機は成功すると思う。
10~20年先にボーイングやエアバスに勝てなくても(国際市場での話)、中航Gが中国国内市場を制せば十分大きな経済利益をもらいだすと思う。(しかも、独占だ)
(完)
<免責声明> 本資料の情報やデータはあくまで作者個人の意見を示し、情報共有を目的として作成されたものであり、貴方のリスク・検討すべき投資事項等を網羅的に示唆するものではありません。本資料のご利用に際しては、貴社ご自身の判断にてなされますよう、また必要な場合は、弁護士、会計士、税理士等にご相談のうえお取扱い頂けますようお願い申し上げます。