香港 香港会計税務

[香港会計税務] 香港における新会社条例による会計上の影響其の三

香港において新会社条例(第622章)が2014年3月3日より発効し、会計上2015年3月期から(正確には2014年3月3日以降に開始する会計年度、つまりは2015年3月2日付以降の期末決算時)の決算書作成時に影響を受けることとなりますが、今回は資本の部に関連する事項について取り上げます。

以前は会社設立時や株式発行の際、額面を登記する必要があり、その後当該額面よりも会社の株式の価値が下がり、会社が新株を割引発行する場合においては、①裁判所の許可を得る、もしくは②異なる株式の種類(優先株式など)を発行するほか手段がなく、また、減資を実施する際も、①有償減資の場合は、形式上自社株購入及び株式消却を合わせた手続きとなるため、特別な会計監査を受ける必要があり、②無償減資の場合は、裁判所の許可を取り付ける必要性があるなど、非常に複雑かつ手間のかかる手続きとなっていました。

2014年3月3日以降それらが緩和もしくは撤廃されることより、会計及び税務上の取扱いに相違点が出てくる可能性もあるため、留意すべき代表的な項目について整理しています。

1. 額面株式制度の廃止


従前の会社条例(第32章)の下では、株式には必ず額面が存在していましたが、新会社条例では当該額面が完全に廃止され、以降無額面株式のみを発行可能となり、プレミアム株や授権資本の概念が撤廃されています。また、原則資本剰余金や資本償還準備金の概念も撤廃されているものの、会計処理上は償還のタイミングを考慮し、一時的な認識が必要と考えられます。なお、当該移行による変更登記などは不要で、2014年3月3日以降自動的に無額面株式に変更されています。
<表1-1> 株式の無額面化とプレミアム株廃止の影響

払込資本額面1ドル100株
及び
1株に対し5ドル払込(移行前)
払込資本100株(移行後)
資本金 100 資本金 500
株式プレミアム勘定 400
未処分利益 80 未処分利益 80
資本合計 580 資本合計 580
発行済株式 100 発行済株式 100

従って、既存の株主による増資や新たに新株発行が実施される際、1株当たりの額面の影響を受けることはないため、その払込金全額がそのまま資本金勘定に貸方計上されることとなります。

<表1-2> 増資もしくは新株発行による影響

払込資本100株から20株を6ドルで発行 払込資本120株(増資後)
資本金 500 資本金 620
未処分利益 80 未処分利益 80
資本合計 580 資本合計 700
発行済株式 100 発行済株式 120

次に、株式併合及び株式分割をした場合の影響については下表の通りです。ここでは5株を1株に株式併合する場合と、1株を2株に株式分割する場合を例に挙げます。1株当たりの純資産額への影響がみられることが一目瞭然だと思いますが、会社の安定性その他を目指す経営方針により、判断される項目の1つでしょう。

<表1-3> 株式併合による影響

払込資本120株から24株に減少 払込資本24株(株式併合後)
資本金 620 資本金 620
未処分利益 80 未処分利益 80
資本合計 700 資本合計 700
発行済株式 120 発行済株式 24

<表1-4> 株式分割による影響

払込資本120株から240株に増加 払込資本240株(株式分割後)
資本金 620 資本金 620
未処分利益 80 未処分利益 80
資本合計 700 資本合計 700
発行済株式 120 発行済株式 240

各々の登記手続上は場合によっては煩雑なケースもありますが、会計上の取扱いとしては非常にフレキシブルかつ簡易に理解できる内容になっているかと思いますので、他にも株主による債権放棄やDES(デット・エクイティ・スワップ)による増資の会計上の処理は特段新会社条例発効前後で変わらないこともあり、各々の登記手続を含め、ここでは割愛します。

2. 減資と自社株購入の手続


新会社条例の下、有償無償を問わず減資(Reduction of Share Capital)手続及び自社株購入(Share Redemptions and Buy-Backs)手続は、裁判所の認可なく実施することが可能となっています。減資手続と自社株購入(ここでは資本金利用の場合)の手続の内容比較については、下の表2の通りです。特別な項目としては、支払能力報告書(Solvency Statement)の作成が要求される点が挙げられます。

<表2> 減資と自社株購入(資本金利用)の手続の流れ

手続内容 減資・自社株購入(資本金利用)
会社定款内容の確認 – 対象会社の取締役は、減資もしくは自社株購入に際し、会社定款で制限していない点を確認し、もし制限があれば、臨時株主総会での出席者の75%以上の特別決議(合意)を経て会社定款を修正する必要がある。
支払能力報告書 – 対象会社の取締役は、当該手続完了後、如何なる債務も履行可能であること、万が一当該手続後12カ月間以内に解散をする意思がある場合、解散手続開始後12カ月間以内に如何なる債務も履行可能であること、もしくは解散手続後の12カ月以内決済期限が到来するすべての債務(偶発債務や将来発生すると考えられる債務含む)を履行可能であること、を取締役決議を経て承認し、その要件と根拠を記した証明書に日付・取締役氏名・署名を付し発行しなければならない。
株主による承認 臨時株主総会開催の場合は、取締役はその開催通知を発行し、支払能力証明書日付から15日以内に臨時株主総会で減資もしくは自社株購入に係る75%以上の特別決議(合意)を必要とする。
公告 – 対象会社の有担保債権者すべてに、書面にて通知しなければならず、上述特別決議後の7日間以内に、公司註冊處(会社登記処)にて第1回登記申請手続を実施し、官報に掲載され、同じタイミングで英語及び中国語の新聞で同内容を正式に発表しなければならない。
登記 – 上述公告期間(5週間の株主及び債権者異議申立期間)経過後、2週間以内に会社登記処へ第2回登記申請手続を遂行しなければならない。

☆関連規定 – 香港新会社条例第210~225条並びに同条例第233~273条、他

上表の通り、手続面では支払能力を明瞭に示すことが要求されているため、特別決議内容こそ異なりますが、ほぼ同様の手続を踏むと理解して頂ければと存じます。

3. 減資の際の会計処理

減資手続後に考えられる会計処理については、大きく分けて①有償減資、②株式償還を一時留保、及び③無償減資の3パターンが考えられ、各々の減資手続後の結果、並びに仕訳は次の通りになると考えられます。

<表3> 減資の際の資本構造への影響

120ドルの減資に係る会計処理例
減資前 ①有償減資 ②株式償還、一時留保 ③無償減資
現預金 400 280 400 400
その他資産 300 300 300 300
純資産 700 580 700 700
資本金 620 500 500 500
資本償還準備金 120
未処分利益 80 80 80 200
資本合計 700 580 700 700

まず、①有償減資の場合は、減資登記を完遂直後に株式償還(現金分配)されるため、単純に資本金と現預金が、ともに120減少することとなります。

① 借方)資本金 120
     貸方)現預金 120

次に、減資手続を完了したものの、②株式償還を一時保留する場合は、新会社条例上、原則としては資本剰余金や資本償還準備金の概念が撤廃されているものの、一時的に資本剰余金もしくは資本償還準備金として留保することが考えられ、資本金が120借方計上されて、資本剰余金もしくは資本償還準備金に120貸方計上されると考えられます。しかしながら、新会社条例第214条には、減資手続後に即時に分配が実施されない場合、実現利益と同等とみなすとされています。

② 借方)資本金 120
     貸方)資本償還準備金 120

さらに、③無償減資の場合は、減資登記を完遂直後、株式償還(現金分配)が不要であることは既知であるため、単純に資本金120がそのまま実現利益として、未処分利益勘定に組み込まれることとなります。

③ 借方)資本金 120
     貸方)未処分利益 120

上述3パターンの例を比較して頂くことで、香港側での処理については、理解して頂きやすいと考えますが、一方で減資手続を進めていくに当たり、親会社側の会計税務処理についても、前もって確認が必要と考えられます。

4. 自社株購入の際の会計処理

自社株購入手続後に考えられる会計処理について、ここでは①資本金利用、及び②未処分利益の利用の2パターンに触れます。各々の自社株購入手続後の結果、並びに仕訳は次の通りになると考えられます。

<表4> 自社株購入の際の資本構造への影響

20株を60ドルで自社株購入に係る会計処理例
自社株購入前 ①資本金利用 ②未処分利益利用
現預金 400 340 340
その他資産 300 300 300
純資産 700 640 640
資本金 620 560 620
資本償還準備金
未処分利益 80 80 20
資本合計 700 640 640
発行済株式 240 220 220

まず、①資本金利用の場合は、自社株購入登記を完遂後に自社株式自体を継続的に保有することはなく、その直後に株式償還(ここでは現金分配)されるため、単純に資本金と現預金が、ともに60減少することとなり、減資に近い結果が得られます。

① 借方)資本金 60
     貸方)現預金 60

次に、②未処分利益利用の場合、法人側としては会計上資本金の数値には影響がなく、配当金を実施した際の会計処理とほぼ同様となりますが、株数自体は減少しているため、以降一株当たりの利益(Earnings per Share)などに影響を及ぼすこととなり、取締役の経営判断の上、実施するケースが考えられます。

② 借方)未処分利益 60
     貸方)現預金 60

なお、①資本金利用による自社株購入については、先述の減資手続同様、支払能力報告書の作成や公告が必要となりますが、②未処分利益利用の場合は、総会の特別決議が必要となるものの、支払能力報告書の作成や公告は義務付けられていません。

5. 減資と自社株購入の税務上の取扱い

ここ香港における税務条例(Inland Revenue Ordinance: 税務條例)上、香港利得税(法人及び個人事業)は、香港で事業を行う者に課され、原則として納税者の居住性による区分はなく、その課税範囲は、「香港での事業活動から生じる香港内源泉所得」、つまりはレベニューネイチャー(Revenue Nature: 營業性)の損益と規定されており、一方でキャピタルネイチャー(Capital Nature: 資本性)の損益については、非課税取引としての取扱いを受けることとされています。法人所得税課税後の未処分利益を含め、資本の部の変動に関連する事象は、すべて後者のキャピタルネイチャーの取引となるため、税務上の影響は特段受けない、と考えられます。

一方で親会社側では、当該減資や自社株購入による会計税務上の影響が発生する可能性があります。例えば、当該親会社が内国法人である場合、日本側の会計上では、①取得原価に含まれる含み損益(以前は外貨換算調整勘定で処理)を、為替差損益として純損益に計上する方法と、②入金額(円貨)を出資の払戻しとして取得原価から直接減額し、取得原価に含まれる為替の含み損益を純損益に実現させない方法、の2通りの処理があり、税務上は、減資資本金額、みなし配当及び株式譲渡損益の計算及び認識が必要となるケースが考えられるため、事前の確認が肝要です。

6. 株式譲渡に関連するその他法規

香港では、債権者の権利を守ることを目的とした、事業譲渡(債権者保護)条例(Transfer of business (Protection of Creditors) Ordinance: 業務轉讓(債權人保障)條例)が存在することを繰返し言及してきましたが、支払能力を証明する必要がある点より、減資や自社株購入もまた、当該条例に関連すると考えられますが、減資や自社株購入の手続上は、官報掲載や新聞での公告まで要求されているため、当該手続上問題なく債権者保護を満たすことが出来ると考えられます。

以上、香港における新会社条例下で、2014年3月3日以降に開始する会計年度に適用される、資本の部に影響する事項について、勘案すべき点を要約し列挙しました。グループの規模や経営方針によって、取られる組織再編事象は多岐に渡ると考えられますが、ここ香港での法定手続はもちろん、親会社側の会計税務処理にも大きな影響を与えかねないため、専門家との相談を取り入れながら、慎重な確認が必要であることをご理解頂ければ幸甚です。