香港
香港・クロスボーダー取引における租税回避に対する税制を強化する香港政府
2022年税務(改正)(特定の国外源泉所得に対する課税措置)法案(以下「当該法案」)が10月28日に官報で公示され、11月2日に立法会に提出される。
当該法案を通じて、二重非課税から生じるクロスボーダー取引における租税回避に迎え撃つため、香港の税制はより最適化及び強化されることとなる。香港政府はまた、企業の税務コンプライアンス負担を最小限に抑え、二重課税の可能性を軽減し、税の明確性を高め、香港の税制における競争力を維持するために、一連の関連措置が適切に導入される予定である。
当該法案は、以下に記載する一定の免除要件が満たされていることを条件として、多国籍企業体(MNE企業体)が香港で受領する特定の外国源泉(オフショア)受動的所得、すなわち利子収入(Interest)、配当(Dividends)及び株式持分に関連する売却益(Gains from the disposal of shares or equity interest、以下「譲渡益」)、並びに知的財産権に派生する収入(Income from intellectual properties、以下「IP収入」)、に対する課税が免除となる新たなオフショア受動的所得非課税(Foreign-sourced Income Exemption、以下「FSIE」)制度を創設するものである。
当該法案による新たな制度は利益の源泉の決定に影響を与えない範疇であり、香港の源泉地課税の原則を維持している。この新しい制度の下では、納税者が香港において実質的な経済活動を行っている場合、香港で受領する特定のオフショア受動的所得に対して、引続き課税が免除されることとなる。
香港政府のスポークスマンは、「国際金融センターとして、香港は常に、国際課税における責任ある協力的なプレーヤーであることを誇りに思っている。当該法案は、国際課税基準と一致しており、法人納税者が特定の税管轄区域で優遇税制を享受するには、当該税管轄区域で実質的な経済活動を行うことを要求しつつ、シェルカンパニーが二重非課税を通じて税制上の行き過ぎた優遇措置を得るのを防止する」と述べた。
欧州連合(EU)は、2021年10月以降、オフショア受動的所得に対する非課税措置に十分な実体要件と厳格な乱用防止規則が存在していないという理由で、香港をウォッチリストに追加している。EUは香港に対し、2022年12月31日までにFSIE制度を改正するコミットメントを促し、その改正制度を2023年1月1日付で発効することを求めた。香港が非協力的な税管轄区域としてEUによるブラックリストに登録されるのを防ぐため、香港は2021年10月、2023年1月に新しいFSIE制度を実施することを目的として、2022年末までに税法を改正することを公約した。
香港政府のスポークスマンは続けて、「当該法案は、2022年6月にEUの企業課税に関する行動規範グループ(Code of Conduct Group、以下「COCG」)によって確認された立法の構成要素に基づいて作成されている。COCGから伝えられた通り、EUが公布したオフショア受動的所得非課税制度に関するガイダンスとそのパラメーターに十分な配慮が払われている」と付け加えた。
2022年6月中旬以降、香港政府は、税務専門家、地元及び外国の商工会議所、各業界及び専門機関、並びに金融サービス業界の代表者と、立法提案に関する広範な協議を行ってきた。
「利害関係者は一般に、法改正に着手する必要性を認識し、コンプライアンスの負担を最小限に抑え、税の明確性を提供し、香港の競争力を維持するための香港政府の積極的な措置を歓迎している」、と香港政府スポークスマンは述べた。
新しいFSIE制度は、オフショア受動的所得に関して二重非課税を達成することを目的としている、シェルカンパニーによる香港の税制の悪用の可能性を防ぐため、経済的実体要件を導入している。
香港にて貿易、専門職もしくは事業を行っているMNE企業体のみが、新しいFSIE制度の対象となる。個人及び地元企業は影響を受けない。
既存の優遇税制の恩恵を受けている納税者は通常、新しい税制の対象外となる。規制対象の金融機関が規制対象の事業を行うことで生じるオフショアの利子収入、配当並びに譲渡益は、そもそもこの制度の下では課税対象とはならない。
新しい制度の下で、オフショア利子収入、配当並びに譲渡益に関連する免税を申請するMNE企業体は、十分な数の適格な従業員を雇用し、香港で適切な運営費を負担することにより、経済的実体要件を満たす必要がある。純粋持株会社である MNE企業体は、株式の保有及び管理、並びに香港の会社条例における提出要件の準拠のみを含む、緩和された経済的実体要件の対象となる。
オフショアのIP収入については、納税者は経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development、以下「OECD」)によって公布されたクサスアプローチ(Nexus Approach)を遵守する必要がある。当該課税免除措置は、適格IP資産に起因する適格な研究開発(R&D)費に密接に関連する。
二重課税の可能性を軽減するために、一連の強化及び軽減措置が導入される:
- オフショアの配当金及び譲渡益を受取る納税者が免税申請しやすくするための経済的実体要件に代わる手段としての資本参加免税措置(注);並びに
- 香港と租税条約を締結していない税管轄区域で納付された税金を含む、特定のオフショア所得に関して香港以外で税金を支払った納税者に対する税額控除。
さらに、コンプライアンスの負担を最小限に抑え、税の明確性を向上させるために、事業活動に適した4つのアプローチが採用される:
- 経済的実体要件が満たされていることを証明するために、納税者が必要不可欠かつ基本的な情報と申告書のみを提出することを要求し、これによってコンプライアンスの負担を軽減する簡素化された申告手続きを採用;
- 税の明確性を向上させるために、納税者が経済的実体要件を遵守しているか否かについて、香港税務局(Inland Revenue Department、以下「IRD」)による最大5年間有効な事前裁定を発行;
- 当該法案が官報に掲載された後、納税者の納税義務を確認し、税の透明性を高めるために、IRDのウェブサイトに実例を含む行政管理ガイダンスをアップロード;並びに
- IRD内に、技術サポートを提供し、コンプライアンスを支援するために納税者からの問い合わせに対応する専任チームを設置。
当該法案の官報掲載後の新しい制度の導入準備を支援するため、この新たな制度の影響を受ける納税者は、当該法案の官報掲載中の移行措置として、経済的実体要件が満たされているか否かに関する「局長による意見書(Commissioner’s Opinion)」を申請することが可能である。また、納税義務をより適切に判断するために、IRDのウェブサイトに公開されている特定のガイダンスも参照できる。
当該FSIE制度は、香港の競争力を維持するものであり、各機能は次の通り:
- 4種類のオフショア受動的所得のみを対象とする一方で、オフショア能動的所得はここでは対象外;
- MNE企業体のみを対象とし、地元の独立企業及び純粋に地元のみのグループは当該制度の対象外;
- 経済的実体要件(オフショア利子収入、配当及び譲渡益に適用)またはネクサス要件(IP収入の場合に適用)が満たされている場合、対象となるオフショア受動的所得が何れかの税管轄区域で課税対象であったか否かを考慮する必要なく、当該オフショア受動的所得を非課税とする取扱い;
- 株式持分から派生するオフショア配当や譲渡益を受領するMNE企業体が、資本参加免税措置を通じて免税を申請し、税負担を最小限に抑えることができる別段の免除規定を設置;並びに
- 納税者による二重課税の可能性をさらに低減するため、事業活動に適した「ルックスルー」アプローチの下で、オフショア配当及び関連する基礎となる利益に対して支払われた外国税に関して、納税者が税額控除を申請することが可能。
香港政府は、香港でのR&D活動を奨励するための香港源泉のIP収入に対する税制優遇措置の検討や、株式もしくは持分の処分に関連するオンショア取引の税の明確性を高めるための適切な措置の開発を含め、香港の税制の競争力をさらに強化する方法を引続き模索する。
香港政府のスポークスマンは、「当該法案が立法会を通過したら、香港をウォッチリストから外すようEUに要請する」、と述べた。
当該法案の全文は、金曜日(10月28日)に官報のウェブサイトに掲載され、閲覧可能となる。
注釈:
資本参加免税措置の条件は、関連する配当もしくは譲渡益が発生する直前の少なくとも12ヶ月間、投資先企業の株式または株式持分の少なくとも5%を保有している、香港居住者(または香港に恒久的施設を持つ香港非居住者)であることとなっている。
原文:Government to strengthen regime against cross-border tax avoidance、2022年10月26日更新