香港 利得税

香港・知的財産所得に対する税制優遇措置 – パテントボックス制度

パテントボックス制度(制度)

知的財産は、知識集約型経済における企業にとって不可欠な資本となっている。産業及び研究開発(R&D)部門、並びにクリエイティブ産業が知的財産を創造し活用することを奨励することで、知的財産取引の発展が刺激され促進される。R&D及び知的財産取引活動の強化は、例えば、企業が基盤となる技術もしくは知的財産を取得し、製品及びサービスのR&Dを実施し、新たに開発された技術または発明に対する特許保護を取得し、自社内あるいはライセンスを通じて特許の商業化を追求することで、知的財産のさらなる創造と活用につながり、それによって製品やサービスのアップグレードを促進し、バリューチェーンを向上させるビジネスチャンスが創出される。知的財産取引活動が盛況となると、知的財産の法律、評価、管理、コンサルティング並びに代理サービスなどの専門サービスがさらに活発に発展する機会も生み出すこととなる。

多くの税管轄区域では、産業及びR&D部門、クリエイティブ産業、知的財産ユーザーがより多くの知的財産取引活動に従事することを奨励するために、「パテントボックス」制度などの税制優遇措置を採用している。香港では、適格知的財産収入(適格IP収入)からの特定の課税所得に対して、利得税の減免を提供する2024年税務(改正)(知的財産所得に対する税制優遇)条例が2024年7月5日に制定された。

当該制度に基づく税制優遇措置

当該制度に基づく特定の要件を満たす納税者は、適格IP収入から得た納税者の課税所得の優遇部分に対して、5%の優遇税率で利得税を課すことができる税制優遇措置の対象となる(税制優遇措置)。

当該制度は、2023年4月1日以降に開始する査定年度に適用される。

当該制度の要件

当該税制優遇措置を享受するには、納税者は以下の要件を満たす必要がある:

  • 納税者は適格者であること;
  • 納税者は適格知的財産から適格なIP収入を稼得していること; 並びに
  • 適格知的財産に関して選択が行われている。

適格者

「適格者」とは、ある適格知的財産から適格なIP収入を得る権利を有する人を指している。

適格知的財産の所有者以外の人であっても、その人がその財産から収入を得る権利を有している限り、適格者の対象となり得る。例えば、適格知的財産を使用するライセンスをその所有者から取得し、その後、適格知的財産を別の人にサブライセンスしてサブライセンス料を得るライセンシーは、「適格者」の範疇に該当する。ライセンシーは、適格知的財産に関して適格な研究開発費を支出し、当該制度におけるその他の条件を満たしている場合、税制優遇措置の恩恵を享受することができる。

適格知的財産

経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development、以下「OECD」)によって採用されたネクサスアプローチに従い、適格知的財産から得られる収入のみが、制度の下でネクサス比率に基づく優遇税制の恩恵を享受することができる。ネクサスアプローチにおいては、優遇税制の対象となる適格知的財産は、それらの知的財産資産が法的に保護され、同様の承認及び登録プロセスの対象となる場合、特許及び機能的に特許と同等であるその他の知的財産資産に限定される。

香港では、当該制度の競争力を高めるために、よりリベラルなアプローチが採用されている。例えば、適格知的財産には、特許及び植物品種権の申請、並びに香港内外で付与された特許及び植物品種権が含まれる。

「適格知的財産」は、税務条例(Inland Revenue Ordinance、以下「IRO」)の附表17FD の第1条(1)で、R&D活動から生成される以下の知的財産のいずれかを意味すると定義されている:

  • 適格特許;
  • 適格植物品種権; 並びに
  • 版権条例(第528章)または香港以外の法律に基づいてソフトウェア内に存在する著作権。
R&D活動

R&D活動とは、以下の通りである –

  • 知識を拡張するための自然科学もしくは応用科学の分野における活動;
  • フィージビリティスタディの目的、もしくは市場、ビジネスあるいは経営調査に関連して行われる体系的、調査的または実験的な活動;
  • 新しい科学的または技術的知識と理解を得る見込みで行われる独自の計画的調査; または
  • 商業的に生産または使用される前に、新しいもしくは大幅に改善された材料、デバイス、製品、プロセス、システムあるいはサービスを生産または導入するための計画もしくは設計に研究結果あるいはその他の知識を適用することである。

「R&D活動」の詳細については、税務局(Inland Revenue Department、以下「IRD」)の税務局解釈実務指針第55号「研究開発費の所得控除」の段落6~9を参照して頂きたい。

適格特許

適格特許とは、以下の通りである –

  • 専利条例(第514章)に基づいて付与された特許、または香港以外の区域の特許当局によって付与された特許で、その特許出願の提出日が指定日以降である場合、当該特許は標準特許(R)ではない。香港以外の区域の特許当局によって付与された特許への参照事項は、特許当局による実用新案の登録、並びに特許当局によって発行された実用証明書及び発明者証明書が含まれる; または
  • 専利条例(第514章)に基づいて行われた特許出願、または香港以外の区域の特許当局に提出された特許出願で、その特許出願の提出日が指定日以降である場合、当該出願は標準特許(R)出願ではない。特許出願が国際出願である場合、香港以外の区域の特許当局に提出された特許出願への参照事項は、その域内の審査が進められる特許当局で、当該特許出願に対し有効に域内の審査が進められている点である。

「特許当局」とは、香港以外の区域に関して、その区域において特許出願を受理もしくはは処理する、または特許を付与する管轄当局を指す。

「標準特許(R)の出願」並びに「標準特許(R)出願」は、専利条例(第514章)第3条において定義されている。

以下の表現は、専利条例(第514章)第2条(1)において定義されている:

  • 短期特許の出願及び短期特許出願;
  • 標準特許(O)の出願及び標準特許(O)出願;
  • 国際出願;
  • 特許協力条約;
  • 短期特許;
  • 標準特許(O);
  • 標準特許(R);
  • 実体審査。

出願日

IROの附表17FD第1条(1)では、異なる種類の特許に対して「出願日」の異なる意味が以下の通り規定されている:

  • 香港以外の区域の特許当局に提出された特許出願、または香港以外の区域の特許当局によって付与された特許に関して –
    (a) 特許出願もしくは特許の出願が、特許当局で有効にその域内の審査段階に移行した国際出願である場合 – 特許協力条約第11条の目的における国際出願と一致する国際出願日; または
    (b) その他の場合 – 出願が提出される特許当局によって受理された特許出願もしくは特許の出願日;
  • 標準特許(R)出願または標準特許(R)に関して –
    (a) 専利条例(第514章)第4条(2)(b)の意味において対応する指定特許出願が、対応する指定特許当局において、有効にその域内での審査段階に移行している国際出願である場合 – 特許協力条約第11条の目的における国際出願と一致する国際出願日; または
    (b) その他の場合 – 標準特許(R)出願を対応する指定特許出願の出願受理日; あるいは(専利条例(第514章)の第38条の意味において)標準特許(R)の出願のみなし出願日;
  • 標準特許(O)出願または標準特許(O)に関して – 標準特許(O)出願もしくは標準特許(O)出願に対し、専利条例(第514章)の第37M条(2)または第37Z条(2)に基づいて付与される出願日; あるいは
  • 短期特許出願または短期特許に関して –
    (a) 短期特許出願もしくは中華人民共和国(People’s Republic of China、以下「PRC」)で国内での審査段階に入った国際出願に基づく短期特許出願の場合 – 短期特許出願もしくは短期特許の出願の出願日とみなされる専利条例(第514章)第125条(5)で規定されている国際出願日; または
    (b) その他の場合 – 短期特許出願もしくは短期特許の出願に対する専利条例(第514章)第114 条もしくは116条に基づいて受理される出願日。
    「指定日」とは、改正条例の施行日から24ヶ月の期間の満了日を指している。言い換えると、指定日は2026年7月5日である。
適格植物品種権

適格植物品種権とは、以下の通りである –

  • 植物品種保護条例(第490章)に基づいて付与された権利、もしくは香港以外の地域の法律に基づいて存続し対応する権利; また
  • 植物品種保護条例(第490章)第2条で定義される申請、もしくは香港以外の地域の法律に基づいて存続し対応する申請。
ソフトウェアに存在する著作権

当該制度において、著作権で保護されたソフトウェアとは、版権条例(第528章)もしくは香港以外の地域の法律に基づいて、ソフトウェア内に存在する著作権を指す。著作権で保護されたソフトウェアの登録は、版権条例(第528章)や外国の法律では一般的に義務付けられていないが、適格知的財産とみなされるためには、関連する法的保護の範囲内に該当しなければならない。

適格IP収入

「適格IP収入」とは、以下の1つ以上の項目に該当する収入を指す:

  • 以下に関連する適格知的財産から得られる収入:
    (a) 当該財産の展示もしくは使用、あるいは展示もしくは使用する権利(香港内外を問わず); または
    (b) 当該財産の使用(香港内外を問わず)に直接的もしくは間接的に関連する知識の伝達、あるいは伝達する約束;
  • 適格知的財産の販売から得られる収入;
  • 組込みIP収入、すなわち、製品もしくはサービスの販売価格に、適格知的財産に帰属する価格が含まれている場合 – その販売収入のうち、公正かつ合理的な基準における財産価値に帰属する価格; 並びに
  • 適格知的財産に関連して得られる保険、損害賠償あるいは補償の金額。

組込まれている知的財産収入を確定するために、適格知的財産に帰属する収入は、IROの附表17FD第7条(3)で定義されているOECD規則の要件及びガイダンスとの整合性を最も確保する方法で計算される必要がある。

選択の手順

基本的な特徴

適格者は、選択の手順を通じて、適格知的財産に関する税制優遇措置を選択することができる。選択の手順の主な特徴は以下の通りである:

  • 当該選択は書面で行う必要があり;
  • 当該選択は、一度行うと、その選択を行った査定年度とそれ以降のすべての査定年度に適用される(つまり、毎年の選択は不要);
  • 選択後は取消しできない。

特定の適格知的財産に関する選択に対する追加要件

特定の種類の適格知的財産に関する選択には、以下の追加仕様及び/または要件が適用される:

  • 付与された特許及び分割特許出願の場合、特許出願(元の特許出願)である適格特許に関して選択が行われた場合、その選択は以下の項目に関しても行われたものとみなされる:
    (a) 元の特許出願に従って付与された特許; 並びに
    (b) 元の特許出願の分割特許出願及びそのような分割特許出願に従って付与された特許;
  • 付与された特許及び分割特許出願の場合、特許出願(元の特許出願)である適格特許に関して選択が行われた場合、その選択は以下の項目に関しても行われたものとみなされる:
  • 標準特許(O)、標準特許(O)出願、短期特許あるいは短期特許出願ではなく、出願日が指定日以降である適格特許の場合、IROの附表17FDの第(3)及び(4)で定義されている、対応するローカルの特許がない限り、選択は有効とはならない; または
  • 植物品種保護条例(第490章)第2条で定義される付与でも出願でもない適格植物品種権で、その出願日が指定日以降である場合、IROの附表17FDの第6条(3)及び(5)で定義されている、対応する現地植物品種権がない限り、選択は有効とはならない。

「分割特許出願」とは、以下の通りである –

  • 専利条例(第514章)に基づいて行われた特許出願に関して:
    (a) 標準特許(R)出願に対し専利条例(第514章)第22条(1)に基づいて提出された分割特許出願の記録を入力するリクエスト;
    (b) 標準特許(O)出願に対し専利条例(第514章)第 37Z 条に基づいて提出された分割標準特許(O)出願; または
    (c) 短期特許出願に対し専利条例(第514章)第116条に基づいて提出された分割短期特許出願; あるいは
  • 香港以外の区域の特許当局に提出された特許出願に関しては、その出願に適用される特許当局の法律、法律文書または規則に基づいて提出された分割特許出願。

分割特許出願への参照事項には、その出願に関するその後のすべての分割特許出願が含まれる。

適格IP収入から得られる課税所得の優遇部分

ネクサスアプローチは、5%の優遇税率で利益税が課される課税所得の部分を決定するために採用されている。当該部分は「優遇部分」と呼ばれる。

ネクサスアプローチとは

ネクサス要件とは、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development、以下「OECD」)が、2015年に公布された税源浸食及び利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下「BEPS」)に取り組むための行動パッケージ(BEPS行動5報告書)の行動5の下で最低基準として採用したネクサスアプローチを指す。ネクサスアプローチは、OECDの有害な税慣行に関するフォーラム(OECD Forum on Harmful Tax Practices)によって採用され、個々の税管轄区域によって導入されたIP収入に対する優遇税制の有害性を評価している。BEPSに関する包括的枠組みの加盟国であり、IP課税制度を有するすべての税管轄区域は、ネクサスアプローチを採用するか、準拠していない制度を廃止している。

ネクサスアプローチでは、適格知的財産資産を開発するために納税者が負担した総支出の割合を適格支出として定義するネクサス比率に基づいて、適格知的財産資産からの収入のみが優遇税制の対象となる。研究開発(R&D)費の割合は、実質的な経済活動を表す指標であり、優遇税制を享受する収入と、その収入に貢献する支出との間に直接的な関連性があることを確認しようと設計されたものである。

当該制度の下では、ネクサス要件に関連する規定は、BEPS行動5報告書の第4章に規定されている要件及びガイドラインへの準拠を最もよく確実に保証する方法で解釈される必要がある。

R&D比率とは

2022年修正条例における「R&D比率」の定義は、BEPS行動5報告書で言及されているネクサス比率に基づいている。R&D比率は、次の算式に従って計算され、100%を上限としている:

F = EE × 130%EE + NE

公式中:

FはR&D比率を指し;

EEは適格IP収入が関連する適格知的財産に関して発生した適格R&D支出を指し;

NEは同じ適格知的財産に関して発生した非適格な支出を意味する。

R&D比率は、MNE事業体が受け取った適格IP収入の例外部分を計算するために使用される。これは、次の算式に従って決定される:

P = I × F

公式中:

Pは例外部分を指し;

Iは適格IP収入からの課税所得を指し;

Fはそれらの課税所得に適用されるR&D比率を意味する。

R&D比率を決定するためのR&D支出とは

所得に関連する適格知的財産に関するR&D比率を確認する目的で、R&D支出(設備投資を含む)は次のように分類される:

R&D費 EE* NE#
実施されたR&D活動
・MNE事業体による
・非関連者による
・香港居住者である関連者による
 - 香港内で
 - 香港外で
・香港非居住者である関連者による

* EEには、利子の支払い、如何なる土地や建物に対する支払い、または如何なる建物の改装、増築もしくは拡張に対する支払い、並びに適格者が適格知的財産もしくはその財産に係る権利を他人から取得するために発生した支出(資本的支出)は含まれない。

# NEには、適格者が適格知的財産もしくはその財産に係る権利を他人から取得するために発生した支出(資本的支出)は含まれる。しかしながら、利子の支払い、如何なる土地や建物、または如何なる建物の改装、増築もしくは拡張に対する支払いは含まれない。

経過措置

経過措置として、適格者は、EEと総支出(つまりEE+NE)が3年間の移動平均に基づいて計算される比率を適用することが許可されている。これは、納税者がネクサスアプローチの一般原則に準拠しながら、追跡及び追跡要件に適応するための十分な時間を確保することを目的としている。3年間の移行期間の後、MNE事業体は、3年間の平均比率の使用からR&D比率への移行が必要となる。

当該措置の移行期間は、2023/24年度から2025/26年度までの査定年度の適格者の基準期間である。

適格者がR&D支出を追跡及び追跡してR&D割合を計算するために十分な記録を保持していない場合、当該経過措置の利用が可能である。読者は、BEPS行動5報告書の付属書Aに記載されている追跡及び追跡のための経過措置の例を参照可能である。

特定の状況下での税制優遇措置の撤回

税制優遇措置の撤回

査定年度(関連年度)において、対象となる知的財産に関して特定の状況のいずれかが発生した場合、以下の税務上の取扱いが適用される:

  • 当該税制優遇措置は、当査定年度及びそれ以降の査定年度の適格知的財産から得られ適格IP収入には適用されない;
  • 当査定年度に先立つ査定年度に、当該税制優遇措置が付与された適格知的財産から得られる課税所得の優遇部分はすべて、関連する年度の適格者の商取引、専門業の提供または事業の取引収入とみなされる; 並びに
  • 前述の取引収入に対する納税額を計算する際、査定官は、優遇税率で対象となる優遇部分に対し既に既に課されている税金を考慮する。

税制優遇措置が撤回される状況

指定された状況は以下の通りである:

  • 特許である適格特許が無条件に取り消される;
  • 特許出願である適格特許が放棄、拒否または取り下げられる;
  • 権利である適格植物品種権が取り消されるか、もしくは存続しなくなる;
  • 出願である適格植物品種権が失効、拒否または取り下げられるか、あるいは存続しなくなる; 並びに
  • 出願日が指定日以降である適格特許または適格植物品種権に関して、IROの附表17FD第19条に指定された条件が満たされていない。

納税者の義務

適格者は、以下の事項を行う必要がある:

  • 適格IP収入を、当該収入が発生した査定年度の利得税申告書及び所定のフォームで申告する;
  • 当査定年度に利得税申告書が発行されていない場合は、「税制優遇措置が撤回される状況」の項で指定されている状況のいずれかが発生した査定年度の基準期間の終了後4ヶ月以内に、利得税が課される旨を税務局局長に書面で通知する; 並びに適格IP収入に関連する取引、行為または業務の記録を、少なくともそれらの取引、行為、または業務の完了後7年が経過するまで、あるいはIROの附表17FDの4条に基づいて選択を行ってから7年が経過するまで保管する。

優遇税率と二層制の利得税率

IROの第14条(5)に従い、適格者が附表17FD第4条に基づいて選択(つまり、税制優遇の選択)を行った場合、適格者は二層制の利研区税率の対象にはならない。

改正条例の施行前に2023/24年査定年度の利得税申告書を提出した納税者への特別注意

2023/24年査定年度の利得税申告書の関連条項(BIR51の項目7.14またはBIR52の項目7.9)で「はい」のボックスにチェックを入れて当該税制優遇を申請する意思を示した納税者には、所定のフォーム(IR1482)の提出手順が郵送で通知される。

当該税制優遇を申請したいその他の納税者は、利得税申告書の提出時にIR1482を電子的に提出する必要がある。

詳細情報

税務条例

OECD資料

知的財産局資料

農業・漁業・保全局資料

原文:Tax Concessions for Intellectual Property Income – Patent Box Regime(2024年7月5日更新及び8月29日レビュー)