香港 利得税

香港・賃貸物件の原状回復に係る所得控除並びに建物及び構築物に関する損金算入

このページの内容は、立法会による審議の対象となっている2024年税務(改正)(賃貸物件の原状回復に係る所得控除並びに建物及び構築物に関する損金算入)条例草案に基づいている。読者は、当該法案可決後の最新の動向に注意を払うことをお勧めする。

財政司司長は、2024/25年度予算案の中で、香港政府がリース物件を元の状態に復旧するために発生した費用(以下「原状回復費用」)に対する所得控除を導入し、2024/25年度から商業用もしくは工業用の建物または構築物に関する年間所得控除(以下「年次償却」)の損金算入可能な期限を撤廃することを発表した。

これらの2つの提案を実施するため、2024年税務(改正)(賃貸物件の原状回復に係る所得控除並びに建物及び構築物に関する損金算入)条例草案(以下「法案」)が2024年10月18日に官報にて公布された。

法案の詳細情報

原状回復費用の所得控除

税務条例(第112章)(Inland Revenue ordinance、以下「IRO」)第17条(1)(c)において、資本的性質の支出は、利得税を課される個人の課税所得を確定する目的で控除してはならないと規定されている。一般的に、不動産の独占的占有を付与するリースは資本資産であり、当該リース取得に要した費用(原状回復費用を含む)も資本的性質である。従って、原状回復費用は現在、利得税の対象となる課税所得に対する所得控除の対象外となっている。

香港で事業を運営するために、企業が建物(事務所や店舗など)をリースすることは一般的であり、リースの満了時もしくは早期解約時に、通常建物を復旧する必要がある。従って、原状回復費用は、企業が移転、拡大あるいは縮小するたびに発生することとなる費用である。原状回復費用は資本的性質ではあるが、2024/25年度予算案では、企業の税負担を軽減するために、原状回復費用の所得控除を認めることが提案されている。

提案されている所得控除の範囲を広くする必要性と不正な損金算入のリスクとのバランスをとった結果、以下の条件をすべて満たす場合に、原状回復費用に対する所得控除が認められる可能性がある:

(a) 原状回復費用が実際に本人によって負担されたものであること;

(b) 所得控除を損金算入する本人が関連するリース契約における借主であること;

(c) 所得控除を損金算入する本人に対し、リース期間の満了時もしくはリースの早期終了時に、リース対象の建物を元の状態に回復させる、または原状回復費用を(全額または一部を問わず)支払う義務があること(明示的か黙示的か、リースに起因するかあるいはリースの貸主と借主間の別途契約に起因するかを問わず);

(d) 原状回復費用は、香港公認会計士協会が随時発行し、施行されている香港財務報告基準第16号(リース)もしくはその他の同様の会計基準に基づいて作成された規定とは関係はない。言い換えると、原状回復費用を使用権資産の一部として認識する会計規定、またはそのような規定による償却は所得控除の対象とはならない; 並びに

(e) 損金算入される原状回復費用の額は、個々の状況に応じて合理的である。

提案されている所得控除は、2024年4月1日に始まる税査定年度以降に適用される。

原状回復費用の所得控除に関するFAQ

商業用もしくは工業用の建物または構築物に対する年次償却

IROに基づき、商業用もしくは工業用の建物または構築物の建設に要した資本的支出に係る権利を有する納税者は、関連する支出の4%あるいは関連する支出の残余額の一部 (状況に応じて) に対して年次償却を損金算入することが可能である。いずれかの税査定年度において、建物または構築物への特定の事象(すなわち、売却、取壊し、または使用の中止など)が発生した場合、当該査定年度における納税者の課税所得は、バランシング・チャージ(差額課税)または所得控除(総称して「バランシング・アジャストメント(差額調整)」)によって調整される。

現在、商業用もしくは工業用の建物または構築物に対する年次償却を損金算入できる最長期間は、対象となる建物または構築物が最初に使用された税査定年度から起算して25年間あるいは50年間とされている(以下「使用期間」、耐用年数とは異なる規定であり、改正前の税務条例上では、対象となる不動産が建設されてから最初に使用された年度から25年間/50年間が年次償却の期限とされている)。

商業用もしくは工業用の建物または構築物が使用期間の満了前に売却された場合、売り手の課税所得はバランシング・アジャストメントの対象となり、買い手は使用期間内の残りの年数にわたり、売却直後の支出に係る残高に基づき、年次償却を損金算入することが可能である。しかしながら、建物または構築物の使用期間の満了後に売却された場合、売り手は依然として、バランシング・アジャストメント(当該調整がバランシング・チャージである場合、以前に付与された損金算入額が益金算入される税効果)の対象となる。その一方で、商業用もしくは工業用の建物または構築物を購入した時点で使用期間が満了しているため、買い手は年次償却を損金算入する権利を有さないこととなる。

年次償却を損金算入できる期限により、使用期間の満了前と満了後に同じ金額の資本的支出を行った、商業用もしくは工業用建物または構築物の買い手に対する税務上の取扱いにおいて不均衡が生じることとなる。

長期的には、このような不均衡な状況により、買い手が古いもしくは中古の建物または構築物を購入する意思を阻害する可能性がある。ビジネスを促進しやすい環境を整えるために、財務司司長は、2024/25年度予算案の中で、香港政府が2024/25年度以降、商業用もしくは工業用の建物または構築物に対する年次償却の損金算入可能な期限を撤廃するべく、以下の通りIROを改正すると発表した-

(a) もし、商業用もしくは工業用の建物または構築物(使用期間が満了していないもの)が、2024/25年度より前の税査定年度の基準期間中に買い手によって取得され、使用されている場合、買い手はIROの既存の規定に従って同じ方法で計算される年次償却を享受する権利がある。

(b) もし-:

(i) 納税者が2024/25年度の基準期間の開始前に工業用の建物または構築物を取得したが、対象となる建物または構築物の取得時に使用期間が満了していたため、年次償却が付与されなかった; または

(ii) 商業用もしくは工業用の建物または構築物(使用期間が満了しているかどうかに関係なく)が、2024年4月1日以降に開始する税査定年度の基準期間中に、買い手によって取得され、使用されている場合、
2024/25年度以降、売却直後の残りの支出残高が全額損金算入されるまで、買い手は当該支出残高の4%に相当する年次償却を享受する権利がある。

(c) (a)及び(b)に記載されているいずれの場合であっても、売り手はIROの既存の規定に従ってバランシング・アジャストメントの対象となる。

商業用もしくは工業用の建物または構築物に対する損金算入に関する詳細情報

実例

原文:Tax Deductions for Leased Premises Reinstatement and Allowances for Buildings and Structures、2024年10月18日更新及び10月29日レビュー