国際会計税務・相続
[日本・中国・香港 税制比較] 第1回 税制の概要
今月から数回にわたって、日本、中国本土、香港の基本的な税制について、比較しながら分かり易く解説していきます。第1回目は、税制の概要です。
1.税目及び基本税率の比較
表1は、日本、中国本土(以降、この連載では中国とします。)、香港の主要な税目の比較です。
税目をみますと、法人の所得に対する税金は、中国、香港では地方税がないこと、個人の所得に対する税金は、香港では給与に対する税目とその他の所得に対する税目が異なること、流通課税では、香港には日本の消費税に相当するものがないことが特徴的です。
税率は、法人の所得に対する実行税率は日本が突出していることが分かります。個人の所得に対しては、香港では給与に対する課税が累進税率と標準税率のいずれか有利な方を選択できることが特徴的です。単純に税率だけを比較すると日本の所得税の税率は高いようにみえますが、扶養控除など各種控除額が税額計算に大きく関係しますので、どの地域が有利かについては次回以降に解説したいと思います。
流通課税は、中国の増値税が高税率となっています。増値税は物の販売や輸入などを行う際に課される税金ですが、還付率が度々変更されるなど何かと話題の多い税目です。
<表1>
課税の対象 | 日本 | 中国 | 香港 | |
1 | 法人の所得 (所得課税) |
法人税 事業税 法人住民税 (実行税率40.87%) |
企業所得税 (25%) |
事業所得税 (16.5%) |
2 | 個人の所得 (所得課税) |
所得税 (累進課税5~40%) |
個人所得税 (累進課税5~45%) |
給与所得税 (標準:16%、累進課税2~17%) 事業所得税 (16%) |
3 | 資産の譲渡等と輸入 (流通課税) |
消費税 (5%) |
増値税 (基本17%) 営業税 (3%,5%が主。一部20%もあり) |
– |
*1:流通課税には他に、特定の物品に対して課税される中国の消費税、香港の物品税があるが、日本の消費税と性格が異なることから省略している。
*2:税率は、日本及び中国は2008年度、香港は2008/09年度の税率。
2.税収の比較
グラフ1は日本、中国、香港の税収の構成です。比較年度は異なりますが、日本及び香港は所得課税による収入が過半を占めるのに対して、中国は流通課税が6割以上を占め、その中でも増値税の占める割合が高いことが特徴となっています。
日本では、法人所得課税の実効税率が高い、消費税の税率をアップするといった議論がありますが、停滞気味の経済環境のなかで税収を確保するためには、ある税目の税率を下げれば、他の税目の税率を上げる、或いは税目を増やすことになることはやむを得ないといえます。
<グラフ1>
[日本:2006年度] | [中国:2007年度] | [香港:2007-08年] |
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また、税収額の比較は表2の通りです。
日本の税収額はまだ中国よりも多いですが、前年度比では中国、香港の伸びが著しいです。
経済成長の伸びがここからもみてとれます。
<表2>
日本
2006年度 (前年度比)
|
中国
2007年度
|
香港
2007-08年
|
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原通貨額
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90.6兆円 (104%)
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4.94兆CNY (131%)
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2,007億HKD (129%)
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換算額
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90.6兆円
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76.6兆円
|
2.81兆円
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換算レート
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-
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1CNY=15.5円
|
1HKD=14.0円
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(注) グラフ1、表2とも以下の資料を参考に作成。
- 日本:総務省 国税・地方税の税収内訳
(法人税は、法人税、事業税、法人住民税の合計。所得税は所得税と個人住民税の合計) - 中国:国家税務総局 税収収入統計
- 香港:香港特別行政区政府税務局 税収概況
3.租税条約
税金に関する規定には、自国の法制度によるものの他に、二国間の取り決めによるものががあります。この取り決めは、二国間の二重課税の回避及び脱税の防止のために、日本と中国の間は租税条約として、中国と香港の間は租税協定として、個人の所得及び法人の所得について規定されており、原則的に自国の法規定に優先して適用されます。なお、日本と香港の間には租税条約はありません。
一例として183日ルールの規定があります。中国の個人所得税法の規定では、非居住者の賃金給与につき次の①②③の条件を満たせば納税義務は発生しませんが、日中租税条約及び中国香港間の租税協定では①の滞在期間は183日と規定されています。
- 中国における滞在期間が暦年で連続若しくは累計90日以内であること
- 賃金給与は中国外の雇用主から支払われていること
- 賃金給与は中国内の会社等の負担とされていないこと。
但し、この183日は、日中租税条約では暦年単位でカウントすることになっていますが、中国香港間の租税協定では暦年単位ではなく、いずれかの12ヶ月間でカウントする規定となっていますので注意が必要です。