国際会計税務・相続

[日本・中国・香港 税制比較] 第2回 法人税その1

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第2回目は、一般事業会社の法人の所得に対する課税について比較します。税目では、日本の法人税、中国の企業所得税、香港の事業所得税(Profits Tax、中国語名「利得税」)です。細かな内容はそれぞれ異なりますが、基本部分は、日本と中国は似通っており、香港は日本や中国と比較すると特徴的な点がいくつかあります。

1.基本項目の比較

表1は法人所得課税の基本項目の比較です。日本の法人所得課税には、法人税のほかに地方税である事業税と住民税がありますが、この連載では法人税のみを比較対象とします。

まず①の税率ですが、基本税率が一番低いのは香港です。基本税率のほかに日本と中国は軽減税率が設けられています。日本の場合、期末資本金額が1億円以下の法人に対し、年800万円以下の所得金額には22%の税率が適用されます。平成21年度の税制改正の大綱には、来年度より2年間、この22%を18%に引き下げることが盛り込まれています。中国では小規模低利益企業に対しては20%を、ハイテク企業には15%の税率が適用されます。小規模低利益企業の条件は、工業企業の場合は年間課税所得が30万元以下、従業員数100名以下、かつ資産総額3,000万元以下の企業で、その他の企業の場合は、年間課税所得が30万元以下、従業員数80名以下、かつ資産総額1,000万元以下の企業です。また、ハイテク企業の条件は、中核的な自社知的財産権を有し、製品(サービス)は《国家が重点的に支援するハイテク分野》が規定する範囲に入っている、ハイテク製品(サービス)による収入が企業の当年の総収入の 60%以上を占めることなど種々の条件があり、ハイテク企業の認定を受けるハードルは高いものとなっています。

②の納税義務者は、その分類により③の課税所得の範囲が異なってきます。日本と中国は自国の法制度に基づき設立された法人については全世界の所得が課税対象となりますが、香港の場合、香港源泉の所得のみが課税対象となります。香港源泉の所得の意味は、香港内で生じた或いは香港からもたらされた事業所得をいいます。そのため香港の法人は、海外で発生した所得(オフショア所得)や利子、株式の配当、株式の売却などにより生じたキャピタル・ゲインは課税対象外となっています。

④の課税所得の計算ですが、日本、中国、香港とも、会計上の税引前利益に税務上の調整を加えて税務上の利益(=課税所得)を求めます。代表的な調整項目について表3にまとめましたので後ほど解説します。

⑤の課税年度は、会計年度が1年である場合、日本及び香港はその会計年度が課税年度となります。中国の課税年度は暦年ですが、企業の会計年度も暦年であるため、日本、中国、香港とも基本的には課税年度は会計年度と一致することになります。

⑥申告納付は、日本と中国の制度は似通っていますが香港は少し異なります。まず“制度”ですが、日本と中国は、納税者自らが所得や税額を税務局に申告し、申告により確定した税額を自ら納付する申告納税制度を採っていますが、香港では、納税者自らが申告書を記載し税務局に提出するものの、税額の確定は税務局が行う賦課納税制度を採っています。次に“確定申告”の申告及び納付期限ですが、日本は課税年度終了後2ヶ月以内、中国は翌年5月末までです。賦課納税制度の香港は、通常4月1日に政府より税務申告書が発行、送付され、発行日から1ヶ月以内が提出期限となっています。

ただし、会計事務所など税務代理人を選任している場合には、税務代理人から延長申請を行うことを条件に表2の期限まで延長できます。
また、“予定納税”ですが、日本の場合は半期に1度中間申告を行い、前期納付税額の半分の税額若しくは中間決算による申告税額を半期末後2ヶ月以内に納めます。中国の場合、四半期(3,6,9,12の各月末)ごとに仮決算を行い求めた税額を翌月15日以内或いは税務局指定日までに申告納税します。これに対し香港では、翌課税年度の課税所得は当期と同額とみなして、当期の確定税額の納付時に翌課税年度分の予定税額を前払いすることになっています。(通常2回に分割して予定納付します。)

表1-基本項目の比較
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表2-香港の事業所得税申告期限(法人)

決算月 延長可能期限
4月~11月決算 延長不可(4月30日)
1月~3月決算(黒字の場合) 11月15日
12月決算(2007年の場合) 8月22日

2.調整項目の比較

一般的な事業会社が課税所得を算出する際の代表的な調整項目を表3に記しました。
減算項目とは、会計上は収益とされますが税務上は収益とされないため課税所得から減額させる項目などをいいます。日本の受取配当金で国外関連者からのものは課税と記載していますが、平成21年度の税制改正の大綱には、外国子会社配当益金不算入制度の導入が盛り込まれ、外国子会社からの配当のうち95%は非課税となります。中国の場合、国外関連者からの受取配当金は課税となりますが、現在の日本と同様に外国税額控除の制度があります。香港は、株式の配当金や株式の売却などにより生じたキャピタル・ゲイン及び海外を源泉とするオフショア所得は課税対象外のため減算の調整を行います。

加算項目は、会計上は費用とされますが税務上は費用とされないため課税所得を増額させる項目などをいいます。次回は、加算項目の比較をしたいと思います。

表3-調整項目の比較
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