国際会計税務・相続
[クロスボーダー’s TAX] 第14回 読者の皆さんからの質問
クロスボーダー’s TAX ~港・中・日の個人所得税を解説~
第14回 読者の皆さんからの質問
今回は、このシリーズを読んでいただいている皆様から頂いたご質問の一部をQ&Aとして取り上げてみます。個人所得税の納税者として、特に節税方法や軽減策に関する問い合わせを多く頂きました。
Q1.当社は、香港と中国に現地法人があります。駐在員に対して住宅を無償提供する場合、香港と中国で取り扱いに違いはありますか。
《A1》 香港と中国では税務上の取扱いが異なります。香港では、会社が従業員に無償で住居を用意する場合や全額を実費精算する場合には、現物給与としての扱いとな り、給与総額の原則10%を給与所得に加算しなければなりません。「家賃」の10%と誤解しやすいですが、「給与総額」ですのでご注意下さい。したがっ て、同じ家賃の住宅でも、従業員の給与水準によっては加算される額は異なってきます。家賃が高額な場合や給与支給額が比較的低い方には節税メリットがより 大きいといえるでしょう。
一方、中国では、無償提供や実費精算の場合は、合理的な範囲である限り全額が免税扱いとなります。
なお、会社から従業員に対して、住宅手当として現金支給し実費精算等もしていない場合には、香港、中国にかかわらず、その全額が課税対象となります。このケースに該当している方は、節税の余地がありますので、支給方法や精算方法を検討されてください。
Q2. 香港税務局から税額通知書が届きました。翌年分も前年実績の給料を基準に計算しているようですが、現在は退職して無職です。翌年分もそのまま払わないといけませんか。
《A2》 香港では、実際の税金の納付時期が、その対象となる給与支給時期からするとかなり遅くなりますので、翌年分も同額の所得があるものと見做して税額を算定す る予定納税制度がとられています。通常では、予定納税分は次の申告時期に確定税額から控除されて精算されることになりますが、ご質問のケースのように、翌 年度の給与が明らかに減額の見込まれる場合や、人的所得控除の追加(子供が生まれた等)がある場合には、税務局に対して書面で申し立てることで事前に予定 納税額を減額することも可能です。
Q3. 今年7月から中国での免税規定である183日基準がなくなったと聞きましたが、本当でしょうか。
《A3》中国での免税規定は、3つの基準全てについて合致すればこれまでとおり適用されます(駐在員事務所代表などの例外はある)。3つの基準をもう一度おさらいしてみましょう。
- 滞在期間が暦年で183日以内
- 給与支給が中国国外の雇用主から支給
- 最終的に中国の法人等で負担がない
ご質問の意味するところは、今年7月に公布された「中国国内に住所を有さない個人所得税に関する通達」(国税発〔2004〕97号)に関連したものと思われます。この通達は、これまで地域によって実務上の取扱いが様々であった中国非居住者の個人所得税について、滞在期間別に税額の計算方法を明示したもので、具体的には下記の表のあるとおりです。
当該通達のa.で 183日以下のケースの記載があるために、183日基準がなくなったとの話がでてきたと思われますが、これはあくまで中国国内で支給される給与がある場合 (すなわち、3つの免税基準を満たしていない場合)ですので、中国国内支給(負担)の給与がない場合は、従来どおり免税扱いです。実際に計算式でも「当月 国内支給給与」がゼロであれば、税額もゼロになります。
中国に住所を有しない外国籍個人所得税(滞在期間別の税額計算方法)
a. 中国滞在期間が183日以下の場合:
税額=(当月合算給与×適用税率-速算控除額)×
(当月国内支給給与÷当月合算給与)×(当月中国内滞在日数÷当月日数)
b. 中国滞在期間が183日超、1年未満の場合:
税額=(当月合算給与×適用税率-速算控除額)×(当月中国内滞在日数÷当月日数)
c. 中国滞在期間が1年以上5年以下又は董事・高級管理職の場合:
税額=(当月合算給与×適用税率-速算控除額)×
[1-(当月国外支給給与÷当月合算給与)×(当月中国外滞在日数÷当月日数)]
※ここで、合算給与とは中国国内および国外の合算給与課税所得のことです。
以上
文・中小田聖一(NAC代表)