国際会計税務・相続

[クロスボーダー’s TAX] 第一回 国際課税(個人の税金)の考え方

クロスボーダー’s TAX
~日・中・港の個人所得税を解説~

第一回「国際課税(個人の税金)の考え方」

業界業種を問わずボーダー越えの ビジネス活動が当たり前となってきた最近ですが、香港、中国、日本と行き来きする機会が増えるにしたがって頭を悩ますのが個人の税金問題です。そこで、こ のシリーズでは数回にわたって“クロスボーダー”の観点から日本、中国、香港の個人所得税について解説していきます。

「日・中・港の個人所得税」と一 口にいっても、税法の条文解釈の難解さに加えて、各地域での税法体系や定義の違い、複数地での課税問題、さらには地域(特に中国)によってはローカルルー ルの存在や弾力過ぎる運用などがあり、専門家からみても大変厄介な問題です。最初から枝葉末節な通達を読んでみても誤った理解をしてしまいますので、第一 回目の今回はまず各国の個人所得税法の根底にある国際課税の基本理論をみていきましょう。

国際課税の考え方には、大きく2 つの原則があります。一つは「居住地国課税」と呼ばれるもので課税を納税者の住所・居所を基準に決定します。これに対して、課税が納税者の住所・居所とは 関係なく所得の源泉地を基準にするのが「源泉地国課税」です。言葉ではわかりにくいので、図表1で具体的に確認してみましょう。

まず、香港は、源泉地国課税主義 を採用していまして、香港に住んでいるかどうかよりも香港に所得の源泉があるかどうかがポイントになります。たとえ香港の居住者であっても、日本や中国に 源泉のある所得は、香港では課税対象からはずれることになります。香港法人の申告の際にオフショア申請するケースがあると思いますが、これはまさにこの考 え方(オフショア=香港域外 ⇒非課税)からくるものです。

他方、日本や中国では、居住地国 課税主義を中心にしながらも源泉地国課税の考え方も加味しています。すなわち、日本(中国)の居住者であれば、日本(中国)内か外かを問わず全世界所得に 対して課税してきますし、さらに、たとえ非居住者であっても、日本(中国)に源泉所得がある場合には課税対象とされます。

図表1.納税義務者と課税の範囲

香港 域内源泉所得 域外源泉所得
非居住者 ×
居住者 ×

大きな相違点

日本・中国 域内源泉所得 域外源泉所得
非居住者 ×
居住者

国境を行き来されていて税金に悩 まれた時には、まず各国地域の課税権スタイルを把握した上で、その国地域で居住者・非居住者いずれに該当するのか、次に、その所得の源泉がどこにあるのか を確認してみてください。この表の理解で、最も重要な最初の問題(課税されるのかどうか)はクリアできると思います。

なお、居住者・非居住者の区分では、居住者の定義が必要となりますが、これは各国により異なります。ここでは、「居住者は、その国内に住所を有しているか1年以上居住している個人」と理解していてください(この点は次回以降、詳細に説明します)。
また、所得の源泉地の区分では、 実際の支給地と混同されるケースが多いので注意が必要です。所得の源泉地とは、「給与のように労働役務を提供し、その対価として得た所得は、原則として役 務の提供地に所得の源泉があったと判定する」ということで、どこで働いたかがポイントになります。給与支給場所や支払通貨とは必ずしも一致しません。例え ば、中国工場で働いた対価の給与の一部を、日本本社や香港法人から支給されたとしても、その所得の源泉地は全て中国ということになります。

以上


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