国際会計税務・相続

[クロスボーダー’s TAX] 第15回 香港、中国、日本、納税するならどこが有利か?

クロスボーダー’s TAX ~港・中・日の個人所得税を解説~

第15回 香港、中国、日本、納税するならどこが有利か?

2003年10月 からスタートとしたこの連載も、いよいよ最終回となりました。第一回の国際課税の基本的な考え方から始めて、個人所得税の規定、ケーススタディ、Q&Aと 解説を続けてきましたが、今回は最後をまとめるにあたって実際の給与所得税額の計算例をもとに香港、中国、日本の税金負担の軽重について分析してみましょ う。

ここでは、サラリーマンZさん が、香港、中国、日本のいずれかにて勤務すると想定して、それぞれの地での負担すべき税金を試算してみます。Zさんの給与所得は年額50万香港ドル相当額 で他に所得はなく、専業主婦の奥様と小学生のお子さん二人がいると仮定し、為替換算の簡便化のために1香港ドル=1人民元=14日本円とします。

給与所得の税額計算における基本形は、いずれの国においても、
所得税=(給与―各種控除)×税率

です。したがって、各国での税額の違いは、給与からの控除項目の内容・金額(図表のB)と税率(図表のD)を比較すれば見えてくるといえます。
では、実際の税額計算のシミュレーションを見てみましょう。

図表 個人所得税比較(年収7百万円、扶養者は妻と子2人) 単位:HKドル

香港 中国 日本
給与総額 A 500,000 500,000 (*2) 500,000 (7,000千円)
所得控除等 B 260,000 48,000 244,286 (3,420千円)(*3)
課税対象所得額 C=A-B 240,000 452,000 255,714 (3,580千円)
税率(超過累進)D 2~20% (*1) 5~45% 10~37%
所得税額 E=C*D 37,200 96,500 27,571 ( 386千円)
実効税率 F=E/A 7.4% 19.3% 5.5%

(*1)給与総額A×標準税率16%での税額と比較して低い方が納税額となる。
(*2)中国では月単位で税額を計算し年末調整等もないので、ここでは年収を単純に12ヶ月で均等割りして月単位で計算したものを合算した。
(*3)所得控除では、給与所得控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除を考慮し、それ以外の医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除などその他はついてはないものとした。また現在実施されている定率減税も考慮していない。

いかがでしたでしょうか。なんと日本での税金が一番低いという結果となりました。そんなはずないと思いの方もいらっしゃるでしょうが、実のところ、世界の主要各国と比較しても個人所得税だけを比べると日本はかなり低い方に分類されるのです(但し高額所得者の場合を除く )。これは、給与から引かれる所得控除などがかなり高いことと、累進課税といっても、実際に適用される税率は平均的なサラリーマンの給与水準であれば、10%か、せいぜい20%にとどまるからです。

しかしながら、日本では、国に納 める所得税に加えて、地方税である住民税(市町村民税と都道府県民税の合計)もかかってきます。この住民税も税額の算出にあたっては主に所得に応じて計算 されますので、納税する側の感覚からすると所得税と同じといえます。これを考慮すると、上記のケースでさらにHK$20,143(282千円)の負担が加わり、実効税率は9.5%まで上がります。
これで比較するとやはりタックスヘイブンといわれる香港が一番安く、次に日本、そして中国は一番重く、日本の2倍以上の税額となりました。

日本について、さらにいえば、所 得税、住民税に加えて、第2の税金ともいわれる社会保険料も忘れてはなりません。厚生年金保険、健康保険、雇用保険等で、通常で給与の10%以上が個人負 担となります。この負担を将来の資産や妥当なコストとして納得できればいいですが、将来のさらなる料率アップや年金破綻のニュースをきくと、やはり重税感 を感じざるを得ません。

以上
文・中小田聖一(NAC代表)