香港 お金の管理
[お金の管理] (2)為替管理のポイント-2
前回は仕入の例で取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差による為替差損について説明しました。また、為替差損を少なくするための基本的な考え方についてもお話しましたが、まずはその応用編です。
- 買掛金の場合には支払を早めると資金繰り上望ましくないという話にもなりますが、売掛金の入金時期を早めることができれば、資金繰り上でも為替対策上でも望ましい結果になりますので一石二鳥です。
- 現在の人民元のように一本調子で上昇を続ける通貨建てでの取引については、仕入は早く支払い、売上は遅く回収した方が有利です。ただ売上を遅く回収するなんて現実的ではありませんので別の方法を示しますと、早く回収した後そのまま人民元で持っていても同じ損益になります。
- 人民元建てや日本円建てで仕入れて、US$建てやHK$建てで売り上げる営業形態ですと、現在のドル安局面では為替差損は避けられません。つまり、強くなっている通貨建てで仕入れて弱くなっている通貨建てで売るビジネスモデルは、為替対策上、最悪です。
このように応用してみるといろいろ考えさせられると思いますが、今回の最後にスッキリさせたいと思います。
さて、もう一つの為替差損益の発生原因として、(2)期末時点の外貨建債権債務の評価替え、があります。これは会社によっては損益に大きなインパクトがあるのですが、その性質上予測ができないものですから予算に織り込むことができず、決算してみてビックリ、ということになります。
こちらの計算方法は至って単純です。外貨建ての売掛金や買掛金、借入金は全て取引時点の為替レートで帳簿上計上されているのですが、期末にはその為替レートを見直し、期末日レートで評価替えする、というものです。参考までに図表1をご覧ください。
(図表1)
仕入時点 | 期末時点 | 決済時点 | |
---|---|---|---|
仕入金額(円建て) | 1,200,000円 | ||
記帳レート(社内レート) | 120円/US$ | ||
決済レート(銀行レート) | 110円/US$ | 100円/US$ | |
仕入金額(US$建て) | 10,000US$ | ||
支払金額(US$建て) | 10,909US$ | 12,000US$ | |
為替差損(US$建て) | 909US$ | 1,091US$ |
つまり、いったん期末時点で外貨建債権債務を全て決済したと仮定した場合、為替差損益はいくらになるか?という計算を行うわけです。このとおり理屈は簡単なのに、なぜ損益にそんなにインパクトがあるかというと、外貨建債権債務の残高がどうしても大きくなってしまうからです。売掛金や買掛金にしても普通2か月分以上の売上・仕入相当の金額が残高となりますし、借入金にしても多額となることが普通ですから、多少の為替レートの変動でも計算すると大きな金額になります。また、誤解しやすいのですが、現預金も金銭なので対象となる一方、棚卸資産は債権債務ではないので対象外です。
この為替差損益を避けたいのであれば、外貨建取引をやめるしかありません。と言ってしまっては身も蓋もないので、取引通貨を何建てで行うべきなのかについて私見を述べたいと思います。この問いに対する答えが、これまで説明してきた為替差損益の問題に対する根本的な解決策に直結してくると考えています。
まず、日本企業であれば、「お金を増やす」ことを考えた場合、その前提として円を増やすことを想定しています。日本企業が経営してお金を増やし、株主に還元する場合には円で配当します。つまり、最終的に円が増えないことには投資が成功したとは言えないのです。そのため、日本企業はできることならば全て円建てで取引したいのです。
しかし、日本企業の海外現地法人が全て円建てで取引できるでしょうか?他の通貨圏でビジネスをする以上、それは無理な相談です。取引先との力関係やその国の規制、取引の性質によって使用できる通貨は限られてきます。
ただ、いくつかの通貨の中から選択できる場合、どのような通貨を選ぶべきでしょうか?まずは円といつでもほぼ同じような為替レートで換金できる、安定した通貨を選ぶべきでしょう。そのため、これまでは国際通貨として最も安定していた米ドルが利用されてきました。しかしここ数年の下落をみると、安定感が従来に比べてぐっと減ってきているように感じます。一方、円に対して価値の上がっていく通貨はどうでしょう?企業グループ全体として見た場合、円に対して強くなっている通貨を貯めていけば、最終的に円換算した場合円が増えることになります。つまり、企業グループ全体で、円に対して強い通貨を稼ぎ、弱い通貨で支払っていけば、企業グループ内に円が増えて残ることになります。円に対して強い通貨は持っているだけで円を増やしますし、弱い通貨は持っているだけで円を減らすということを十分に認識する必要があります。もちろん、強い弱いは企業と関係なく変動するものですから、為替動向をウォッチして臨機応変に手を打っていかなければなりません。これは現地法人の採算自体にも大きな影響を与えるものですから、経営者として必要なことです。
また、このことを十分に理解すれば、親会社からの円建て借入金から発生する現地法人の為替差損益がいかに多額でも、グループ全体からすれば全く無意味であることがお分かりになると思います。日本本社はグループ全体の損益管理を全て円建てでしていますが、円建てで連結すればこの為替差損益は相殺されるので、円で換算した損益への影響はゼロになってしまうからです。
このように、前回説明した現地法人だけで管理できる為替差損益もある一方、企業グループ全体として「お金を増やす」もしくは「お金を減らさない」という観点から考えなければならない為替差損益もあります。意外にも為替が会社のお金に深く関わっていることをご理解いただけたでしょうか?