香港 国際会計税務・相続
[タックスヘイブン] (8) 最終回まとめ~今後の香港法人への影響
これまで解説してきたとおりタックスヘイブン対策税制はかなり複雑な仕組みとなっていますので、実務に当てはめる際に留意しなければならない論点はかなりあります。そのため当連載もダラダラとどこまでも続いてしまいそうな勢いではありましたが、近年の主要な改正点は一通り解説できたこともあり、今回の緊急集中連載としての目的は一応達成できたと勝手に解釈致しまして、縁起のいい第8回をもちまして当連載を締めくくりたいと思います。従いまして、最終回は今後のタックスヘイブン対策税制及び香港法人への影響を、全くの私見ではありますが、展望してまとめたいと思います。
1.タックスヘイブン対策税制の位置づけ
日本企業の海外進出・国際化が進む流れは、現状の社会情勢からすれば当分変わらないものと思われます。そうであれば、日本の課税当局としても国際間取引に着目して課税強化することが自然な方針となりますから、第一義的に軽課税国を利用した租税回避防止を趣旨としているタックスヘイブン対策税制による課税も強化されることになるかと思います。
タックスヘイブン対策税制の調査には、専門的知識を有する人員とそれなりの時間が必要となることから、これまでは主に大企業から中企業を中心になされている印象がありましたが、現状の日本企業の国際化に沿って課税当局も国際調査人員を強化していることや、軽課税国との間で情報交換条項の入った租税条約の締結が急速に進んでいること、また近年の改正によりタックスヘイブン対策税制の趣旨に沿ったターゲットの絞り込みが進んだことから、該当する海外子会社については従来よりも厳しく正確な調査が行われるものと考えられます。従って、従来の税務調査では指摘されていないからという安易な理由ではなく、現状でなんらかの問題が生じていないかについて、社内で一度見直しを行ってみてはいかがでしょうか?
また、タックスヘイブン対策税制自体ここ5年間は毎年改正されており、今後も改正が続くのかという点も興味がありますが、平成22年の改正で今回対象税率を25%以下から20%以下まで下げたり持株要件も緩和したり、部分適用対象金額の導入をしたり、と大幅な見直しを行ったことから、今後しばらくは小幅な改正にとどまるものと予想しています。
2.香港法人への影響(統括会社)
平成22年の改正で統括会社に関する適用除外要件の緩和がなされました。今後香港法人を使ったこの統括会社の活用が積極的になされていくのかという点は興味深いところですが、私見では現状の規定では一部の大企業や日本本社にこだわらない企業に限定されるのではないかと考えています。
と言いますのも、アジアの統括会社という視点で考えた場合、日本企業であれば地理的にアジア諸国は日本本社からある程度は統括できるため、わざわざ香港もしくはシンガポールに統括要員及び拠点を置いて地域を統括するという手法は逆に統括コストアップとなる恐れがあるからです。これがヨーロッパの統括会社やアフリカの統括会社ということであれば地理的にも価値が高いはずですが、アジアの場合は本社機能とアジア地域統括機能は同じ場所に置いておいた方が管理はしやすいといった面もあるため、上述のような結果になる可能性が高いと思われます。
3.香港法人への影響(来料加工)
広東省型来料加工形態の香港法人については、現状多くの係争になっていることからも分かるとおり、製造業か卸売業かの判断についてまだ統一的な結論は出ていません。既に裁判所で争われているものも少なくとも数件はあることから、数年内にはなんらかの結論が出るものと思われますが、現状では卸売業として適用除外で申告している場合には課税当局と見解が相違する可能性が高いと思われます。
4.香港法人への影響(卸売業)
卸売業で最も留意しなければならないのは管理支配基準です。前回も述べたとおり、香港で「事業の管理、支配及び運営を自ら行っている」という事実をどのように捉えるかによって課税当局と納税者との間で見解の相違が出やすい部分であり、特に値決めの部分等で日本本社の影響を受けやすい業種が卸売業だからです。1で述べたような課税当局の課税強化に備え、会社としても過去の判例等をもとに、きっちりと見解を主張できるような体制にしておく必要があると思われます。
当連載が日本のタックスヘイブン対策税制の理解の一助となれば筆者としてうれしく思います。いつも駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。