香港 国際会計税務・相続

[タックスヘイブン] (7) 判例紹介「管理支配基準」

(この話は途中までフィクションです。)

むかーしむかし、あるところに、木材の卸売業を営む日本の会社がありました。会社はたいそう繁盛していましたが、稼いでも稼いでも法人税として半分くらいもっていかれてしまいます。あるとき、社長さんは香港は法人税率がとっても低いらしいという話を聞き、これだ!と思いました。

「香港に会社を作ってやればいいじゃないか」

でもよく調べたらすぐに、日本にタックスヘイブン対策税制というのがあって、適用除外を受けるためには4要件を満たさなければならないということも分かりました。でも大丈夫。当社にとって事業基準、非関連者基準は全く問題なし。実体基準も香港に実際にオフィスを構えて従業員をおいてシッピング等の書類作成業務をさせればいいだろう。そして管理支配基準も現地に常駐で取締役を置いておけば一丁上がり!ところが・・・。

税務署から適用除外は認められないとして、更正処分を受けてしまったのです。争点になったのは管理支配基準。条文上は、「その事業の管理、支配及び運営を(香港法人が)自ら行っているものである場合」となっているのですが、税務署は「お宅の場合、事業の管理、支配及び運営は実質的に日本法人が行っているので、ダメ」と解釈したのです。

社長からすれば、現地に取締役も常駐させてその裁量で香港法人を管理していたはずなのに、満たしてないとは到底納得いきません。当然裁判で争うことにしました。ところが裁判では以下のような反撃に合い、地裁も高裁も負けて敗訴が確定してしまったのです。

  • 香港法人の取締役会及び株主総会は、すべて日本法人の本社で開催されていた。
  • 香港法人の取締役四名は、いずれも日本法人の取締役を兼任しており、また、香港法人に常勤している取締役は一名だけであった。
  • 売買の取引条件の決定、輸送、クレームの処理などはすべて日本法人が行い、香港法人は日本本社に従い、外形的に契約の当事者となって右木材の売買契約を締結し、代金の決済、差金と称する金員の支払及び融資に伴う諸手続を行っていたに過ぎない。
  • 日本法人は、香港法人の取引先に対する前渡金又は貸付金及び船積みごとの取引金額等すべての取引内容をノートに記帳し、各取引先ごとの債権債務を管理していた。
  • 香港法人の役員の人事は、日本法人の取締役会で審議され、決議されており、その取締役会には、香港法人の駐在取締役は出席していなかった。
  • 香港法人の駐在取締役の給与改訂が日本法人の社内の稟議で決定されていた。
  • 香港法人の事務所の借り換えに係る許諾、新事務所の内装の内容及び予算、新事務所の披露等について、その都度香港法人から日本法人に対して稟議の申し出があり、日本法人のもとで決定されていた。
  • 日本法人は、香港法人が日本法人以外の者との木材取引によって得た利益から「ノーハウ利用料」の名目で金員を得ていた。

つまり、香港法人の行うサービス業務の内容は、いずれも日本法人と取引先との間で取り決められる契約の内容により自動的に確定し、定型的に処理できるものばかりでした。したがって、香港法人が日本法人から独立して行う業務というものは全く存在しなかったというべきであり、香港法人が本店の所在する香港でその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたものとはいえない、とされたのです。

またこの裁判では、100%子会社なんだから管理支配状況なんてどこでもこんなもんでしょう、という主張もなされましたが、「条文にそう書いてあるんだからダメ」とにべもなく一蹴されています。

管理支配基準については、通達や他にもいくつかの判例がありますが、ポイントは①日本本社からの独立性の度合いと②重要な意思決定の場所、になると思います。子会社である以上、完全な独立性などはあり得ない一方、その事業の管理、支配及び運営を自ら行う必要がある、という相反する要件も満たさなければなりません。つまり、突き詰めていくと香港法人の存在意義そのものの話になりますので、管理支配基準を検討する際には、単に要件的な部分だけでなく、どういう位置づけにしたいのか、またそのための管理支配体制はどうするか、という観点での検討が必要になると考えています。