香港 香港会計税務
[香港会計税務] 2015-2017年二年間の香港予算案税金措置から見る傾向
目次
- 2015-2017年二年間の香港予算案税金措置から見る傾向
- 1.2015/2016年度の利得税(法人及び個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントでの所得税額の軽減措置
- 2.子女扶養控除、基礎控除、父母祖父母扶養控除並びに介護老人福祉施設控除額の上限増額措置
- 3.海外へ支払う支払利息の損金算入基準の明確化と企業財務センターの運用
- 4.プライベート・エクイティ・ファンド(PEF: Private Equity Fund)に対する利得税額免除範囲拡大
- 5.航空機リース事業の発展促進のための税務上の優遇措置の検討
- 6.知的財産権の購入に係る資本的拠出額の税務上の損金算入可能範囲の拡大
- 7.事業ライセンス関連費用の免除措置
- 8.その他の免除措置
2015-2017年二年間の香港予算案税金措置から見る傾向
香港財政司司長の曾俊華(John Tsang Chun-wah)は、2016年2月24日(水)に発表した2016/2017年度政府財政予算案の中で、税金措置を提案しています。不動産価格高騰に対する抑制策として発効した印紙税増税により、税収が予測の7倍にも達した2015/16年度に引続き、今年度も潤沢な財政備蓄を背景に、香港市民への税還付支援は前年度同額で継続し、高齢者、低所得者及び障害者への追加支援を盛込み、一般市民の健康維持を含む生活向上並びに次世代育成などをさらに推進すべく、子女、父母祖父母の扶養への措置を拡大しています。一方で、企業が直面している経済低迷を受け、商業登録費の免除を始め、旅行代理店、宿泊施設、飲食店並びに食品行商人などのライセンス関連費用も、前年度の半年分免除から全額免除など、観光・飲食業界を中心に経済支援を打ち出した内容となっています。当該税金措置の過去2年間の傾向について、下記の通り解説します。
1.2015/2016年度の利得税(法人及び個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントでの所得税額の軽減措置
2014/2015年度と金額及び割合を含め同様に、2015年4月から2016年3月の税年度期間に課される利得税(法人及び個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントでの所得税額の確定額に対し、20,000香港ドルを上限とする75%の減税措置を提案しています。当該減税措置は資産所得税そのものには適用されず、別に賃貸所得がある個人は、パーソナル・アセスメント申告資格を満たしていれば、当該減税を享受できます。事業所得がある納税者は、パーソナル・アセスメントを選択するか否かにかかわらず、当該減税を享受できますが、通常の利得税申告とパーソナル・アセスメント申告との間で、減税額が異なる可能性があるため、案件毎に査定される必要があります。事業所得や賃貸所得がある個人は、各々の個人所得税申告書でパーソナル・アセスメントを適用するか否かを選択でき、税務局は、当該選択が納税額の負担を減らすことができるかどうか案件毎に個別に確認し、最も有利な方法で査定します。
ここで、パーソナル・アセスメントとは、個人で給与所得以外に事業所得や賃貸所得がある場合に、それらの所得、関連する経費及び控除額を合算で勘案し、個々に税額を計算した場合と比較することで、最終税額に差が発生する場合は、どちらか有利な税額が適用される、という総合課税制度です。例えば、ある個人のケースで給与所得があるものの、税務上の事業所得はマイナスである場合、当該給与所得から当該事象所得のマイナス分を差引くことができ、さらに給与所得税計算に適用される各種控除項目も差引くことができるため、当該給与所得満額に対し給与所得税を課され、単に事業上の利得税が発生しないケースよりも最終納税額が減少することになります。また、その適用資格は、18歳以上(例外として、両親が既に亡くなっている場合は18歳未満でも可)で、かつ香港居住者(1税年度期間中に180日を超えて香港に居住、もしくは2税年度期間中に300日を超えて居住、ただし、後者の場合は当該2税年度期間中の1税年度期間だけ適用可)であることとされていますので、日本やその他の外国居住者とみなされる個人は、香港源泉の給与所得と事業所得や賃貸所得があるとしても適用できません。
<表1> パーソナル・アセスメント計算例
2015/16年度事業損失が100,000香港ドル | 適用時 | 不適用時 |
給与所得が400,000香港ドルあった場合 | 香港ドル | 香港ドル |
給与所得 | 400,000 | 400,000 |
事業所得(損失) | (100,000) | 0 |
減算:基礎控除(※独身納税者を想定) | (120,000) | (120,000) |
課税所得(※累進幅については表2参照) | 180,000 | 280,000 |
所得税額(※累進税率については表2参照) | 18,600 | 35,600 |
税額控除(※20,000を上限とした75%) | (13,950) | (20,000) |
確定税額 | 4,650 | 15,600 |
繰越利益(損失) | 0 | (100,000) |
なお、当該措置は香港税務条例の改正により有効となり、立法会による承認をもって、税務局は税額査定時に税額控除を適用します。利得税については、当該上限額は事業毎に適用され、給与所得税については、当該上限額は個々の納税者に適用されますが、夫婦共同で税額査定の場合、当該上限額は夫婦毎に適用されます。パーソナル・アセスメントの場合、独身の納税者は個々に当該上限額を享受できますが、夫婦の場合は、パーソナル・アセスメントを一緒に選択する必要があり、当該上限額は夫婦毎に適用されます。 給与所得税と利得税が別々に課税される納税者は、各税金に対し税額控除を享受することができます。パーソナル・アセスメントを選択する場合、給与所得税、利得税並びに資産所得税の課税対象額は集計され、納税額が計算されますので、この納税額に基づき、税額控除が適用されます。パーソナル・アセスメントの適用が可能である場合、納税者は個人所得税申告書(Form BIR60: Individual Tax Return)の項目6に記入する必要があります。なお、給与所得のみで、事業所得や賃貸所得のない個人が、パーソナル・アセスメントを選択することは不要です。 当該減税措置は、2015/2016年度の納税額を減額することになります。納税者は、来る4月と5月にそれぞれ発行される利得税申告書と個人所得税申告書を、通常通り申告する必要があります。税務局は、関連法規の改正時に最終査定税額に対し、税額控除の適用査定を実施します。既に納付されている過払税金は、2016年7月下旬以降から払戻しが開始される見込みです。これに対し、納税者は税務局に別段の申請や照会をする必要はありません。 当該減税措置は、2015/2016年度の最終査定税額にのみ適用され、次年度の予定税額には適用されませんので、納税者は、提案された控除の有無にかかわらず、2016/2017年度の予定税額を期限通りに納付する必要があります。納付済みの予定税額は、2015/2016年度の確定税額と2016/2017年度の予定税額納付時に適用され、万が一過払い税金がある場合は、還付されます。
2.子女扶養控除、基礎控除、父母祖父母扶養控除並びに介護老人福祉施設控除額の上限増額措置
高齢化対策及び未来志向の施策として、2015年4月から2016年3月の税年度期間に課される給与所得税計算時に、出生年度控除と合わせて、一人当たりの子女扶養控除額を前年度までの70,000香港ドルから100,000香港ドルに増額、次に2016年4月から2017年3月の税年度期間に課される給与所得税計算時に適用される控除項目として、景気の先行きが不透明である中、一般市民の生活向上を狙い、基礎控除額(寡婦控除も連動)を現行の120,000香港ドルから132,000香港ドルとし、老人介護を含む一般市民の父母祖父母扶養費の負担軽減のため、①60歳以上の父母祖父母もしくは障害者一人当たりの扶養控除額を、現行の40,000香港ドルから46,000香港ドルに増額、並びに55歳以上60歳未満の父母祖父母一人当たりの扶養控除額を、現行の20,000香港ドルから23,000香港ドルに増額する減税措置(同居の場合は当該控除額の二倍控除が可能です)を提案しています。加えて、②介護老人福祉施設控除額を現行の80,000香港ドルから92,000香港ドルへ増額する措置も盛込んでいます。 関連法規の改正後、税務局は自動的に、新しい各控除額を2015/2016年度及び2016/2017年度の給与所得税予定税額の計算時に適用するとしています。各控除項目の適用資格を持つ納税者は、各年度の個人所得税申告書を申告することのみが必要となり、増額後の当該扶養控除に対して別途申請する必要はありません。
<表2> 給与所得税累進税率
評価年度 | 過年度 2008/15年度 パーセント |
現行 2015/16年度 パーセント |
暫定案 2016/17年度 パーセント |
40,000香港ドルまで | 2% | 2% | 2% |
40,001~80,000香港ドルまで | 7% | 7% | 7% |
80,001~120,000香港ドルまで | 12% | 12% | 12% |
120,001以上 | 17% | 17% | 17% |
<表3> 課税所得控除額一覧
評価年度 | 前年度 2014/15年度 香港ドル |
現行 2015/16年度 香港ドル |
暫定案 2016/17年度 香港ドル |
基礎控除(独身) | 120,000 | 120,000 | 132,000 |
基礎控除(既婚者) | 240,000 | 240,000 | 264,000 |
寡婦(夫)控除 | 120,000 | 120,000 | 132,000 |
子供扶養控除 | |||
第1~9子まで各一人当たり | 70,000 | 100,000 | 100,000 |
誕生年の場合の控除加算 | 70,000 | 100,000 | 100,000 |
兄弟(姉妹)扶養控除 | 33,000 | 33,000 | 33,000 |
父母祖父母扶養控除(納税者と同居/別居) | |||
父母祖父母扶養控除(60歳以上及び60歳未満かつ障害者) | 80,000/40,000 | 80,000/40,000 | 92,000/46,000 |
父母祖父母扶養控除(55歳から59歳まで) | 40,000/20,000 | 40,000/20,000 | 46,000/23,000 |
障害者扶養控除 | 66,000 | 66,000 | 66,000 |
自己学習費用控除(限度額) | 80,000 | 80,000 | 80,000 |
住宅借入金控除(限度額) | 100,000 | 100,000 | 100,000 |
MPF自己負担積立控除(限度額) | 17,500 | 18,000 | 18,000 |
介護老人福祉施設控除(限度額) | 80,000 | 80,000 | 92,000 |
慈善団体寄付金(限度額) | 課税所得の35% | 課税所得の35% | 課税所得の35% |
3.海外へ支払う支払利息の損金算入基準の明確化と企業財務センターの運用
多国籍企業が地域統括、もしくは全世界の関連会社に対するファイナンス機能を有する法人を設置するここ香港では、海外の関連会社へ支払う利息は、原則として、税務上損金不算入となる点が、そのような法人を誘致する上で障害となっているとも揶揄され続けたことを受けて、2014/2015年度政府財政予算案の中で、地域統括機能並びにファイナンス機能を持つ法人の誘致をさらに促進するため、税務条例上の支払利息の損金算入基準を見直し、当該基準を明確化すると表明していましたが、2015/2016年度政府財政予算案で、企業財務センター(CTC: Corporate Treasury Centre)としての運用を公表しています。これにより、海外の関連会社に支払う利息の損金算入が認められ、海外の関連会社への貸付金から発生する受取利息は税務上益金算入される一方で、利得税率が半分に軽減される優遇措置(16.5%×50%=8.25%)が設定される予定です。2015年12月4日に当該税務条例草案が官報に掲載されており、立法会での審査及び承認を経て、早ければ2016年4月1日以降開始する決算期より、適用される見込みとなっています。
4.プライベート・エクイティ・ファンド(PEF: Private Equity Fund)に対する利得税額免除範囲拡大
2013/2014年度における予算案の免税措置の中で、従来のオフショア・ファンドに対する利得税免除範囲を拡大し、①香港外で設立もしくは登記され、②香港内の資産を所有しておらず、かつ③香港内で事業を行っていない私的会社の取引も含めることが提案され、PEFがオフショア・ファンドと同様の課税免除を享受することが許容されることを示唆し、約2年間にわたる行政機関による当該措置に係る関連法規の改正や提案詳細、枠組みに係る諮問を完遂、その後2015年3月20日に当該税務条例草案が官報に掲載、続けて2015年7月17日付で発効され、2015年4月1日以降開始する決算期より適用されています。主な追加の優遇措置として、④香港内での特定の補助的な事業活動が認められ(前述③の拡大)、⑤該当法人が香港において総資産の10%以内の資産を所有することを許容し(前述②の拡大、ただし、過去3年間当該状態を保持する必要があります)、⑥特定の人物が該当する特定の取引に従事している要件が撤廃(以前はSFCライセンス保持者が、特定の取引に従事していることが要件でした)され、さらに、⑦特別目的会社(SPV: Special Purpose Vehicles)の範囲が拡大され、SPVが保有していたプライベート・エクイティの売却からSPVに発生する利益及びSPV自体の売却により、そのPEFが得た利益に対し、課税免除を提供するものとなっています(なお、SPVは香港法人・パートナーシップ・信託・組合も含むことが可能とされています(前述①の拡大、ただし、非居住者による設立が要件となります))。
5.航空機リース事業の発展促進のための税務上の優遇措置の検討
2015/2016年度における予算案の中で、 航空金融事業は高付加価値の航空サービスに不可欠であることに言及しており、今後航空機リース事業に対する税務上の優遇措置を模索していく姿勢が見られました。しかしながら、現状としては以前非常に大きな議論となった来料加工の独資化後、税務条例第39E条(1)(b)(i)の下、中国本土側に貸与する減価償却費が税務上否認されることがボトクネックとなっており、これによると、航空機のリース料が原則全額課税となる一方で、当該航空機の購入者である貸主が、税務上その減価償却費を損金として処理することが出来ないこととなります。2016/2017年度政府財政予算案の中でも言及したものの、具体的な予定は立っておらず、検討を急ぐと公言したに留めている状況です。
6.知的財産権の購入に係る資本的拠出額の税務上の損金算入可能範囲の拡大
香港を知的財産権取引のハブとして推進すべく、2015/2016年度における予算案発表の中で、特許、産業ノウハウ、登録商標、デザイン並びに著作権の購入に関連した資本支出に対する損金算入可能範囲を、その他の知的財産権にも拡大する可能性について示唆しましたが、2016/2017年度における予算案の免税措置の中で具体化し、政府は、知的財産権の購入により発生する資本的拠出額の税務上の損金算入可能範囲を5分類から8分類に拡大しています。なお、当該追加項目は、集積回路のレイアウトデザイン、植物品種並びに興行権(上演権及び演奏権など)となっています。
7.事業ライセンス関連費用の免除措置
セントラル占拠の影響を大きく受けた2015/2016年度において、①旅行代理店・ホテルやゲストハウスなどの宿泊施設・飲食店・食品行商人・その他食品販売許可の制限を受ける業態に対し、半年間のライセンス料免除が適用され、これに加えて、②タクシー・ミニバス・専用バス・トラック・トレーラー・その他特別車両に対し、ライセンス更新時に発生する車検費用の免除を打ち出しました。2016/2017年度についても、観光業の回復の兆しが見受けられないどころか、旺角暴動による不安定要素の拡大への懸念を示した上で、①を1年間のライセンス料を免除としつつ、別途観光客誘致と更なる発展を目指した促進活動にも、多額の予算を充当しています。
8.その他の免除措置
2015/2016年度については、①不動産税の課税対象となる不動産毎に課される不動産税額に対し、最初の第2四半期までのみ最大2,500香港ドル(年間合計5,000香港ドル)を免除、②公共団地の家賃1カ月分(既定の低所得の要件に該当しない場合は享受不可)の免除、並びに③総合社会保障援助手当、高齢者手当、高齢者生活手当及び障害者手当の2カ月分を追加支給、などを提案し、前年度のそれらと比較し、①は増額となったものの②は高齢者のみに限定、一方で③は二倍となっています。しかしながら、翌年2016/2017年度では、①各四半期に最大1,000香港ドル(年間合計4,000香港ドル)を免除、②は一旦廃止、③も1カ月分となり、前年度のそれらと比較しても恩恵が減少しています。商業登記料(事業登記料)の免除や各家庭の電力使用料への政府補助(2013/2014年度実績としては毎月150香港ドルで年間合計1,800香港ドル)は、直近三年間は廃止されたままかと思いきや、前者の商業登記費のみ、先述の事業ライセンス関連費用の免除措置に並行する形で、2016/2017年度で再び免除となっています。 以上が提案された2015/2016年度及び2016/2017年度の香港予算案の中の税金措置の比較ですが、ここでは割愛している印紙税関連及び税金措置以外の経済発展・土地住宅供給・高齢化対策・医療・未来志向などの内容も考慮すると、一見目新しさに欠け、相変わらず中産階級に歓迎される税金措置とは裏腹に、将来吉とも凶とも出る可能性が潜む香港経済が、さらに多様化することを念頭に置いた施策が多々見られたとも考えられます。特に昔から言及されている、香港の4大産業依存からの脱却を図るサービス分野6大産業による新興市場への移行を促進するべく、技術及び発明の分野への投資や方針が目立っている感があります。一方で、インフレ連動型債券であるiBondの公募による100億香港ドル発行に加え、香港居住者で65歳以上の高齢者を対象とした銀色債券(Silver Bond)の発行も実施されます。香港市民や職業専門家などは、香港の税収基盤の限定性と追加予算の規模の柔軟性のなさに一部懸念を表明しているようですが、海外からの投資を呼込む体制も整えつつ、若者と高齢者に注目した内容であることには、確かな感触もあります。香港の財政予算案が立法会で最終可決される時期は、発表後翌月の3月から6月の間が通常であるものの、アジア統括会社の候補地として挙がるシンガポールが既に実施しているCTCの法案他、香港の競争力を一層高めるためにも発効を急ぐべき事項が多数存在するため、今後の動向にも留意が必要であると考えます。