香港 利得税

香港財務報告基準HKFRS(=IFRS)第16号リースが適用される場合の法人・個人事業利得税の取扱い

目次

  • リース関連の費用に係る税査定実務
  • 減損並びに再評価調整額
  • 公正価値モデルの下で会計処理されているサブリース資産

リース関連の費用に係る税査定実務

香港財務報告基準(Hong Kong Financial Reporting Standards、以下「HKFRS」)第16号リースは、2019年1月1日以降に開始する年次報告期間から適用される。HKFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用を伴っての早期適用が認められている。会計上の目的でHKFRS第16号を採用する際、税務局局長は次の査定方法を採用する:

貸し手

貸し手に対する会計処理への実質的な変更がないため、税務条例(Inland Revenue Ordinance、以下「IRO」)に基づく貸し手に対する現在の法人・個人事業利得税の取扱いに変更はない。

借り手

借り手は、HKFRS第16号の原則に従い認識されるリース資産に係る費用(すなわち、損益計算書に計上されるリース負債の利息並びに使用権(right-of-use、以下「ROU」)資産の減価償却費)を、次の条件に該当する場合に損金算入することが可能である:

  • 対象となるリースは、税務上の売却ではなく;
  • 当該損金算入額が、発生もしくは実現している費用または損失に関連し;そして、
  • 当該費用の法的性質は、リース資産を一定期間使用する権利の対価である。

当初より、課税所得を計算する際、IROに準拠するために必要な調整を実施しつつ、発生主義の会計基準を適用する必要がある。借り手がHKFRS第16号に基づいて会計処理する場合、損益計算書に計上される費用は、対象となるリース資産に関連する減価償却費及び対応するリース負債に関連する利息と最終的に同額となる。これは一般的に、発生主義の概念と一致するものであり、借り手の賃借料支払い総額の月次ベースでの計上を達成する上で適切な手法である。契約上で支払期限が到来する年度内に、費用が計上されるべき必要性があるわけではない。

単純なケースでは、リース期間にわたって認識されるリース資産(つまり、支払利息及び減価償却費)に関する損益計算書上の損金算入合計額は、当該リース期間中の支払リース料総額と等しくなるが、これら2つの金額が特定の1会計年度内において、必ずしも同額であるとは限らない。

固定資産に関連するリースが、税務上の売却と見なされる場合(例として、ハイヤーパーチェスまたは譲渡条件付リース)、借り手は対象となるリース資産に対して、リース料の支払額による損金算入の代わりに、IROの第6部に基づく支払利息及び減価償却費を損金算入することが可能である。

例1

香港会社は、ある機器に対する5年間のオペレーティングリースを締結した。年間リース料は、毎年末に100,000ドル支払われた。リースの計算利子率は5%であった。香港会社は、年利5%の割引率を用いて、100,000ドル5回分の支払総額の現在価値でリース負債を測定し、432,948ドルとなった。

支払リース料 支払利息 返済額 リース負債
1年目頭 432,948
1年目末 100,000 21,647 78,353 354,595
2年目末 100,000 17,730 82,270 272,325
3年目末 100,000 13,616 86,384 185,941
4年目末 100,000 9,297 90,703 95,238
5年目末 100,000 4,762 95,238
合計 500,000 67,052 432,948

香港会社によるリースの当初認識及び測定

1年目頭
勘定科目 借方金額 貸方金額
使用権資産 432,948
リース負債 432,948
1年目末
勘定科目 借方金額 貸方金額
支払利息
リース負債
21,647
78,353
現金(第1回リース料支払) 100,000
減価償却費(432,948÷5) 86,590
減価償却累計額 86,590

1年目から5年目にわたって計上されている「支払利息」及び「減価償却費」の合計(すなわち、67,052ドル+432,948ドル)は、リース機器を使用する権利に対する対価を表している。法人・個人事業利得税に対して、HKFRS第16号に従って、損益計算書に計上される支払利息並び減価償却費に関し、損金算入が認められる。

毎年支払われるリース料は100,000ドルに相当するが、当該リース料が契約上で支払期限が到来する年度内に、計上される必要があるわけではない。1年目に関して、IRO第16条(1)項の下、認められる損金算入額は、108,237ドル(つまりは、21,647ドル+86,590ドル)となる。

損金算入は、当該原則が正確かつ継続的に適用され、租税回避の要因となる兆候がない限り、契約上の支払いに基づいて計上することができる。別段の主張がある場合、108,237ドルの会計上の計上額(21,647ドル+86,590ドル)の代わりに、1年目の支払額である100,000ドルの損金算入も許容される。

減損並びに再評価調整額

リース資産から利益が導き出される能力が悪影響を受ける場合、リース資産の減損損失は損益計算書上で認識される必要があり、それに応じてROU資産の帳簿価額が減少することとなる。当該ROU資産に関連する減価償却費も、以降減額される。

リース資産に対し、過年度に認識された減損がもはや存在しない、または減損額が減少している可能性があるという兆候がある場合、そのROU資産の帳簿価額を増額(戻入)する必要がある。しかしながら、減損損失の戻入れは、対象となる資産に対して、過去数年間に減損損失が認識されなかった場合に決定されていたであろう帳簿価額を超えてはならない。

例2

2019年1月、香港小売会社は、ある店舗を5年間賃借した。毎年6月30日付で決算書を締めていた。

香港小売会社は、COVID-19が原因で事業を大幅に縮小した。5年間のオペレーティングリースに基づくリース資産(つまり、ROU資産-店舗リース)が減損しているかどうかを評価しなければならなかった。当該店舗に関して、2020年6月30日時点でのROU資産の正味帳簿価額は300万ドルだったが、香港会計基準(Hong Kong Accounting Standards、以下「HKAS」)第36号で規定されている原則に従うと、当該ROU資産の回収可価額はわずか100万ドルであった。それ故、香港小売会社は、2020年6月30日に終了した会計年度の損益計算書上で200万ドルの減損を認識した。

当該減損損失の認識後、損益計算書に計上されている支払利息及び(減額された)減価償却費は、HKFRS第16号に準拠して会計処理され、支払リース料の月次ベースでの計上を継続表示した。それ故、損益計算書に計上される支払利息及び(減額された)減価償却費は、損金算入が可能である。

会計効果(すなわち、元々の減価償却費)、並びに減損が行われなかった場合に利用可能であったであろう税務上の損金算入額を近似させるために、200万ドルの減損損失は、対象となるリースの残存期間にわたって定額法で損金算入が認められる。

その後、減損の一部もしくは全額の戻入れが発生した場合、当該ROU資産の帳簿価額は増加することとなる。損益計算書に計上されている支払利息及び(増額された)減価償却費は、HKFRS第16号に準拠して会計処理され、支払リース料の月次ベースでの計上を継続表示した。それ故、当該戻入れはリースの残存期間にわたって定額法の下、月次ベースで計上され、それに応じて課税される。損益計算書に計上される支払利息並びに(増額された)減価償却費は、損金算入できる。

公正価値モデルの下で会計処理されているサブリース資産

Nice Cheer Investment Limited対CIR(2013年度)16 HKCFAR 813案件において、終審法院(最高裁判所)は、利益が実現されていなければ、公正価値ベースで計算された利益に課税することはできないと当時判決を下した。法の原則として、「利益」とは、潜在的もしくは予期される利益ではなく、実際的または実現された利益を意味する。そして、利益も損失も予想され得ない。

HKAS第40号に準拠した公正価値モデルに基づく、ROU資産の会計処理から生じる未実現利益もしくは損失は、損益計算書上で認識された時点で課税または損金算入が認められることはない。代わりに、公正価値の変動額合計は、リース期間にわたって定額法により月次ベースで計上され、損金算入される。

例3

香港メイン貸手会社はオフィスビルを所有しており、以下の条件でリース契約の下、香港サブ貸手会社に貸出すことに同意した。

  • 対象となるリースの契約期間は5年間で;
  • 年間賃借料は、毎年200,000ドルの後払いとなる。

香港サブ貸手会社は、更新オプションなしの1年間から3年間のリース期間で、オフィスビル全体を10の異なるテナントに転貸していた。当該オフィスビルは一等地に位置していたため、香港サブ貸手会社は、古いリースが満了しても直ぐに新しいテナントを見つけることができると確信していた。

香港サブ貸手会社は、これらのサブリースをオペレーティングリースとして会計処理していた。HKAS第40号に基づいてROU資産(つまり、オフィスビルのリース)を認識するために、公正価値モデルが採用された。香港サブ貸手会社が追加借入する際の増分コストは2%で、ヘッドリースに関連する初期直接費用、前払費用もしくは原状回復費用はなかった。

当該ROU資産の公正価値を計算するために、以下の事項が想定された:

  • サブリースの計算利子率は平均2%だった。
  • ヘッドリースの開始時のリース負債(支払リース料の正味現在価値)は、割引率2%で942,692ドルだった。
  • 予想される年間賃貸収入は、後払いで毎年400,000ドルとなる。

香港サブ貸手会社によるリースの当初認識及び測定

1年目頭
勘定科目 借方金額 貸方金額
使用権資産(投資不動産) 942,692
リース負債 942,692
1年目末
勘定科目 借方金額 貸方金額
使用権資産(投資不動産) 580,400
投資不動産公正価値評価益(損益勘定) 580,400
支払利息 18,854
リース負債 18,854
リース負債 200,000
現預金 200,000
現預金 400,000
リース売上高(損益勘定) 400,000

香港サブ貸手会社は、1年目から5年目までの間、損益計算書上で400,000ドルの年間サブリース売上を認識する。

香港サブ貸手会社は、以下の内訳に基づき、損益計算書上で支払利息を認識する。

支払リース料 支払利息 返済額 リース負債
1年目頭 942,692
1年目末 200,000 18,854 181,146 761,546
2年目末 200,000 15,231 184,769 576,777
3年目末 200,000 11,536 188,464 388,313
4年目末 200,000 7,766 192,234 196,079
5年目末 200,000 3,921 196,079
合計 1,000,000 57,308 942,692

損益計算書に計上される支払利息は、損金算入が認められる。

香港サブ貸手会社は、以下の期待キャッシュフローに基づき、リース期間中の各年度末におけるROU資産の公正価値の変動を会計処理する。

1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
サブリース売上 400,000 400,000 400,000 400,000 400,000
支払リース料 (200,000) (200,000) (200,000) (200,000) (200,000)
正味キャッシュフロー 200,000 200,000 200,000 200,000 200,000
使用権資産(投資不動産)の公正価値 1,523,092 1,153,554 776,625 392,157 0
公正価値評価(損)/益 580,400 (369,538) (376,929) (384,468) (392,157)

損益計算書に計上される年間の公正価値評価(損)/益は、法人・個人事業利得税の算出目的では考慮されない。代わりに、リースの当初認識時のROU資産の価値を表す、942,692ドルの公正価値変動額の合計(すなわち、580,400ドル-369,538ドル-376,929ドル-384,468ドル-392,157ドル)は、リース期間にわたって定額法の下、月次ベースで計上され、損金算入される。

毎年の公正価値の算定に影響を与える情報(例えば、金利/稼働率の変化)に確証が取れなかった場合、リース期間中にわたってROUリース資産の公正価値の変動額の合計を正確に決定することが困難となる可能性がある。そのような状況において、認識されたROUリース資産(つまり、942,692ドル)は、そのヘッドリースの期間にわたって定額法での損金算入が認められる。当該ROUリース資産の定額法における税務上の減価償却費は、財務諸表上に反映されているリース負債の損金算入可能な支払利息とともに、ヘッドリースの下で支払われる年間の支払リース料に近似する。

損金算入は、当該原則が正確かつ継続的に適用され、租税回避の要因となる兆候がない限り、契約上の支払い(すなわち、200,000ドル)に基づくヘッドリースに係る賃借料に対して計上することができる。別段の主張がある場合、支払利息、減価償却費もしくは公正価値の変動額を損金算入する代わりに、1年目から5年目までにおける税務上の取扱いとして、200,000ドルの損金算入が許容される。

原文、2020年9月17日更新)