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[中国労務] 社会保険及び住宅積立金の追納について

1. 加入するも納付基数低く

 「社会保険法」*1の公布と実施に伴い、社会保険の加入義務は一般に広く認識されているが、一方、社会保険の計算基数の遵守割合が低いという調査結果がある。昨年の新聞報道で、社会保険委託機構の“51社保”が発表した「2016年 中国企業社保白書」によると、2016年度に社会保険基数を規定通り給与総額とする企業は2015年より減少し、7割が従業員の実際給与を社会保険の納付基数にしておらず、3割以上が最低基数に基づき納付しているとのことである。*2
 以下に、社会保険及び住宅積立金についての追納義務や、追納の可否について分析する。

2. 社会保険を追納する情況

 《中華人民共和国社会保険法》第63条には「雇用者は期限通りに全額で社会保険費を納付しない場合、社会保険徴収機構が是正期限を設けて納付又は補足を命ずる」と定めている。会社の未納、又は納付の遅延、或いは過少納付に対し、従業員は社会保険徴収機構より会社に対し未納・過少納付の是正を行うよう申し立てが可能である。企業が是正しない場合、社会保険局は更に人民法院より強制納付を要求するよう申請することが可能である。但し、従業員からのこのような申し立ての受理には2年の時効がある。*3
 一方、企業と従業員が合意の上で追納申請することは可能とされている。追納可能な期間は各地の情況により異なること、また、追納申請は審査の上で承認されないこともある点、留意が必要である。

(1) 深セン市における養老保険の追納
深セン市における養老保険の未納・遅延や基数不足による過少納付に対する追納は、従業員からの申し立てに2年の時効制限があるほか*4、2年を超える部分についての追納申請を可能とし、追納すべき日から一日当たり0.05%の滞納金を徴収する。*5

(2) 深セン市における医療保険の追納
深セン市における医療保険は未納若しくは納付中断に対する追納の規定を設けており、従業員からの2年以内の申し立てを認めており、これによる追納時には0.05%の滞納金を徴収するとし、2年を超える申し立てや申請を認めていない。*6

(3) 深セン市における追納の方法
 会社より関連資料を持参し社会保険機構に追納を申請し、承認された後に納付する。承認されない場合は、社会保険機構より会社に理由を説明し不承認通知書を発行する。
養老保険の追納金額は、実際給与と納付基数の差額を追納基数にし、会社と従業員の各納付比率と追納期間を乗じて算出し、同時に納付すべき日から一日当たり0.05%の滞納金が徴収される。
 計算式: 追納金額=(当月実際給与-当月納付基数)×納付比率×追納月度+滞納金
 なお、養老保険の個人納付制度が実行された1997年以前における納付年数が、現在の制度に基づく納付年限の中にカウントされていない人については、退職年齢到達時に一括して追納して年限を満たすことができるようになった。*7

3. 住宅積立金の追納について

 《住宅積立金管理条例》*8によれば、雇用者は従業員のために住宅積立金を納付する義務を負い、雇用者が住宅積立金の納付登録又は従業員の住宅積立金口座開設手続きを行なっていない場合、住宅積立金管理センターは期間を定めて是正するよう命じる。期限後も是正しない場合、1万元以上5万元以下の罰金を科すとされている。また、雇用者は適時に適切な金額で住宅積立金を納付し、遅延または過少納付してはならない。住宅積立管理機構は、住宅積立金の納付遅延又は過少納付の雇用者に対し、期限を設けて納付を命じ、期限を超えて納付しない場合、裁判所の強制執行を申請することができるとされている。
 住宅積立金の未納・過少納付に対する追納時の遡及可能年数については、各地の規定に準じる。深セン市では《深セン市住宅積立金管理暫定弁法》*9で2010年12月20日より企業が従業員のために住宅積立金を納付することを義務付けている。これにより、住宅積立金の追納も2010年12月20日まで遡って追納することを認めている。広州市の住宅積立金管理中心へのヒアリングによると、国が《住宅積立金管理条例》を施行した1999年以降の追納が可能と回答している。

注釈:
*1: 《中華人民共和国社会保険法》 (主席令第35号 2011年7月1日施行)
*2: 2016年8月29日「人民網」記事中、北京で開催された第四回中国企業社会保険フォーラムで“51社保”が発表した《2016 中国企業社保白書》の内容に基づく。
*3: 《労働保障監察条例》(国務院令第423号 2004年12月1日施行)第20条:「労働保障法律、法規或は規定に違反し2年以内に労働保障行政部門に発見されず、告発・クレームされない場合、労働保障行政部門は調査しない。」
*4: 《深セン経済特区社会養老保険条例》 (1999年1月1日施行)第40条:「従業員が、雇用者が規定通りに養老保険費を納付していないと認識する場合、これを知った若しくは知り得た日から2年以内に社会保険機構にクレーム・告発しなければならない。2年を超える部分について、市の社会保険機構は受理しない。」
*5: 同51条
*6: 《深セン市社会医療保険弁法》 (2014年1月1日施行)第100条、第101条
*7: 《元固定勤務従業員の養老保険一括追納に関する通知》(2017年1月3日公布)1997年12月31日前に深セン戸籍を取得し、且つこの時点以前に既に深セン市養老保険に加入した、元の国有或は県以上の集団所有制単位の固定従業員は、退職年齢に達した時、条件に符合する場合、養老保険費を一括して追納することができる。
*8: 《住宅積立金管理条例》(国務院令262号 1999年4月3日発布)
*9: 《深セン市住宅積立金管理暫定弁法》(2010年12月20日施行)