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[まとめ] 貿易取引に係る外貨と税務5-国外企業への立替金送金

これまでは、中国現地法人と国外の経済取引に係る外貨送金や課税関係を紹介しましたが、今回は、国外企業や個人が中国現地法人のために立て替えた費用を中国から送金する状況について紹介致します。

■ 外貨管理規定

立替金の送金に関しては、過去に法律面で不明瞭な点が多く、地域や時期によって送金可否の判断が異なる等の状況も見受けられたが、直近の外貨管理制度改定に合わせて、立替金についても明文化され、送金手続も比較的順調に行われる状態にある。但し、無制限に立替金の送金が認められている状況にはなく、以下の状況では送金が引き続き難しい状況にある。
① 非関連会社への送金
関連会社の立替金や費用分担に対して送金が認められており、非関連会社への立替金名目での送金は認められない。
② 人民元払いの立替金に係る外貨建て送金
人民元による中国国内での立替費用を外貨建てで受領する行為は為替投機行為として禁止されている。そのため、日本関連会社からの技術支援者が現地で負担した交通費や宿泊費、及び現地法人設立時に国外出資者が支払った事務所家賃や設立顧問費用等を立替金として送金することは難しい。少額の場合には、人民元現金で返却した上で、当該現金を外貨へ両替して国外企業へ携帯することも可能であるが、両替手数料や為替損益を国外企業が負担することになる。
③ 臨時的な立替金
外貨管理規定では、5万米ドル相当を超える立替金送金時に、立替金に関連する契約書や立替金発生に係る状況説明書類、及び請求書資料の提出義務が課されることになり、5万米ドル相当以下の送金では、取引に関する固有の書類を必要とせず、銀行への依頼を行うことで送金を行う事が可能とされている。但し、外貨送金銀行は5万米ドル相当以下の送金に対しても、送金合理性を審査するため契約書等の資料提出を求められることが認められており、出張旅費等の臨時的な立替発生時には、立替費用契約等の作成を求められる事がある。

【駐在員立替給与の送金】
中国法人で勤務する駐在員の給与は、日本での留守宅手当支給の関係から、給与の一部を日本法人が日本円で支払うことは多くの企業で実施されている。当該日本支給給与を中国現地法人から送金する行為は立替金送金行為に当たり、5万米ドル以下の送金であれば個別の書類を揃える必要はないが、以下の書類を送金銀行へ提出して送金を実施している事例が多く見受けられる。
① 出向契約書や労働契約書、就業証
② 請求書、給与明細資料
③ 個人所得税納税証明書

■ 税務規定

立替金は、売上や利益が発生する取引に当たらないため、中国での納税行為は不要である。但し、外貨管理上ではサービス取引として管理されることになり、5万米ドル相当を超える立替金送金を執行する際には、現地法人主管国税機関で発行される「サービス貿易等項目対外支払税務届出表」を送金銀行へ提出しなければならない。

【駐在員立替給与送金と税務課題(駐在員PE)】
駐在員の立替給与に関しても、通常の立替金と同様に売上や利益には該当しないため、中国での増値税や企業所得税課税対象に該当しない内容である。但し、当該駐在員が日本本社等国外企業の利益を目的として中国現地法人で業務を執行して、当該業務対価を立替給与として送金すると見做される場合には、当該送金額は日本本社が中国で業務を提供したことによる所得と見做され、増値税や企業所得税の納付を要求される可能性が考えられる。なお、中国法人で勤務する駐在員を国外企業の人員と判断する基準として、中国税務当局は、以下6種類の状況を総合的に勘案して判断するとしている。
① 派遣元企業(日本親会社等)が派遣者(駐在員)の業務に対する責任やリスクを負い、通常の業務評価を査定する
② 派遣元企業へ管理費や役務費といった性質の対価を支払う
③ 派遣元企業へ支払う金額が、派遣企業が立て替え支払う派遣者給与や社会保険費用等金額を超過する
④ 派遣元企業が受領する派遣先(中国現地法人)企業からの対価の全額が派遣者へ支払われず、一定額が留保される
⑤ 派遣元企業が負担する派遣者の給与に対して中国個人所得税が負担されていない
⑥ 派遣元企業が派遣者の人数や職位、給与基準、及び中国勤務地域を決定している

駐在員給与の立替送金に対する課税を避ける対応としては、以下の内容が考えられる。
(1)駐在員管理(条件①、⑥)
駐在員の派遣は日本本社等で決定することも多くあると考えるが、中国現地法人も人員の選定や勤務地の判断に参画して、日本本社等が一方的に決定していると認識されることを防ぐ。また、駐在員の人事評価や給与報酬も、中国現地法人の就業規定等を基準とした上で、現地法人の責任者や董事会が対応する体制を整えることも有用である。
(2)送金名目(条件②)
銀行での送金手続において、その他送金手続と比べ多くの書類提出を求められる等の状況がある場合にも、送金名目は「立替金」として手続を実施する。
(3)送金額(条件③、④)
送金額に関しては実際の立替給与額を請求することで問題ないが、その他貨物代金や役務費用の送金と混在することなく、費用内容を区分して送金することに留意する。
(4)個人所得税納付(条件⑤)
国外支給給与の個人所得税申告については、立替給与の送金実施を問わず、中国現地法人での給与と合算して個人所得税を申告する必要がある。