中国 中国の組織再編実務
[中国組織再編実務] 合併
日本親会社のグループ再編に伴い生じる中国現地法人同士の合併、事業部ごとに有していた中国現地法人の事業効率化を目的とした合併等、中国事業統合手法として合併を利用する会社は、一定規模の会社を除いて、いまだ多いとはいえません。これは中国での実務上の不明点が今もなお存在しているため、合併という手法を選択しないという現状があるのかと思われますが、合併に関する法制度は基本的には明確にされており、企業所得税法が改正され、企業再編にともなう税制上のメリットを考慮することが可能となった今、中国事業統合手法として合併を利用する企業も増加してくるものと考えます。
今回は中国における企業統合としての合併の実務に関して解説します。
1.主要法規
合併に関連する主要法規は下記となります。
□ 対外貿易経済合作部、国家工商行政管理総局『外商投資企業の合併及び分割に関する規定』(外経貿法発[1999]395号、2001年11月22日修正)以下、合併分割規定という。
本規定では外国投資企業の合併と分割の定義及びその内容について規定されています。合併とは2 つ以上の会社が公司法の関連規定に従い、協議書を締結して1 つの会社になる企業統合行為をいい、吸収合併と新設合併があります。新設合併は2 つ以上の会社が合併して1 つの新会社を設立し、合併当事会社は解散する形態であり、吸収合併は、合併当事会社の一方が、他方の会社を吸収して1 社となるが、吸収する一方の会社が存続し、吸収される他の会社は解散する形態をいいます。
□ 財政部 国家税務総局『企業再編業務における企業所得税処理の若干の問題に関する通知』(財税[2009]59号)
本通知では企業再編及び組織再編時の企業所得税処理について定義されており、2009年4月30日付で公表し、2008年1月1日から遡及して執行されています。企業再編は企業の法律形式の変更、債務再編、持分買収、資産買収、合併、分割等を含み、企業再編の税務処理は、その条件に従って、原則的な課税取引として取扱う一般性税務処理と、一定の要件を満たす再編取引に適用される特殊性税務処理を適用することが規定されており、免税または課税の繰延が認められている特殊性税務の適用条件が規定されています。
2.合併実務手続き
合併には新設合併及び吸収合併がありますが、今回は実務上最も多い吸収合併の実務について、説明します。合併の一連のステップは一般的には下記のとおりとなります。
- 合併に関する董事会決議または株主決議
- 合併当事者の資産評価(ケースバイケース)
- 合併協議書の作成
- 合併後定款の修正
- 被合併会社の清算報告書準備(税務師事務所)
- 合併初回批准申請(対外経済貿易部門)
- 合併新聞公告(通常は省レベル以上の新聞)
- 合併批准申請(対外経済貿易部門)
- 合併による登記変更及び被合併法人の抹消申請(工商部門)
- 各部門における登記変更及び被合併法人の登記抹消
- 預金残高振替及び被合併会社の口座抹消手続き(銀行)
(質量監督部門、税務部門、外貨管理部門、財政統計部門、税関部門)
3.申請資料
合併分割規定20条においては、合併批准申請のための提出資料が記載されています。
なお、吸収合併の場合は存続会社が申請人となります。
- 各合併当事者の法定代表人署名済の合併申請書と合併協議書
- 各合併当事者の最高権力機関の合併に関する決議書
- 各合併当事者の契約、定款
- 各合併当事者の批准証書及び営業許可証のコピー
- 中国法定験資機関が各合併当事者に対して発行した験資報告書
- 各合併当事者の貸借対照表及び財産目録
- 各合併当事者の前年度監査報告書
- 各合併当事者の債権者名簿
- 合併後の会社の契約、定款
- 合併後の会社最高権力機関の構成員名簿
- 審査批准機関が求めるその他の書類
4.留意点
- 初回批准申請認可要件
- 資産評価
- 合併協議書
- 各合併当事者の名称、住所、法定代表人
- 合併後の会社の名称、住所、法定代表人
- 合併後の会社の投資総額及び登録資本金
- 合併形式
- 合併協議の各当事者の債権債務継承方案
- 職員処遇方法
- 違約責任
- 署名日時、場所
- 各合併当事者が記載を必要とするその他の事項
- 合併後の資本金
- 合併公告及び債権者保護手続き
- 増値税
- 合併に関する税務
合併の初回批准の要件は、合併後の会社が法律上許可された経営範囲であること、各合併当事者の資本金が全額出資完了していること、生産経営を開始していること、中国の競争政策に関する規制に影響を与えないことが、主要な要件となります。
各合併会社の資産評価は資産評価機構により行うべきですが、国有資産を有していない場合には、状況により資産評価は不要とされます。
合併分割規定では合併協議書に記載すべき事項が下記のように記されており、これらの内容に基づいて協議書の作成が必要となります。
合併後の資本金は、各合併当事者間の資本金の合計となりますが、それぞれの各合併当事者間の登録通貨が異なる場合、資本金に換算したときのレート等に基づいて、資本金を決定します。
合併の初回批准申請の批准回答日から10日以内に債権者に対して合併通知を行い、30日以内に省級以上の新聞公告を3回実施し、合併予定会社の債務の継承案を記載します。第1回公告日から90日までに債権者からの異議がない場合、公告を行った証明資料、債権者への通知資料、債権債務処理状況説明資料等を提出します。
以上が規定上の流れですが、実務上は当局の要請がそこまで要求されず、簡略化されることもあります。
被合併会社に未控除の増値税が存在した状態で合併手続きに入った場合、未控除の増値税は控除ができずコスト算入される可能性があるため、合併手続き前に合併会社に売却等の処理をすることを検討するとよいかと考えます。
一般性税務処理適用の場合、合併会社は公正価値により、被合併会社より継承する資産負債の税務上の価額を決定します。被合併会社の繰越欠損金は引継ぐことができません。また被合併会社及びその出資者は、清算に準じて企業所得税処理を実施しなければなりません。つまり納税漏れがある場合は当該税金を納付したうえで清算を実施することになり(優遇政策を享受している場合で優遇期間に制限がある場合等)、清算には比較的時間を要することになります。また清算される被合併会社が特殊性税務処理適用の場合、その適用自体に厳しい要件がありますが(次回以降にて解説します)、合併会社が補填することが可能な被合併会社の繰越欠損限度が設けられております。