シンガポール ストックオプション制度
シンガポール・ストックオプション制度の日本との違い
日本ではスタートアップにおいて、税制適格ストックオプション等の課税を繰り延べる方法で、IPO等の実現後の株式の売却時の利益が出るため、課税を繰り延べる制度があります。ただし、税制適格ストックオプションとなるためには付与時、行使時に要件を満たす必要があり、柔軟性に欠けています。また、株式売却時には、約20%課税されます。
一方で、シンガポールにおいては、柔軟な設計が可能で、行使時(株式取得時)に差益相当額に課税されるものの、所得税率が低く、さらに、株式売却益は課税されない(キャピタルゲイン非課税)ため、全体として課税額は日本よりも少なくなる可能性があります。
項目 | シンガポール | 日本 |
---|---|---|
課税のタイミング | 行使時: 給与所得課税(0〜22%) | 行使時: 通常型は給与所得課税(最大55%) |
売却時: 非課税 | 売却時: 譲渡所得として分離課税(20.315%) | |
キャピタルゲイン課税 | 非課税 | あり(20.315% ※分離課税) |
税率の上限 | 22% | 約55%(所得税45% + 住民税10%) |
制度のシンプルさ | 比較的シンプル | 条件が多く複雑 |
税制優遇(税制適格SO) | 特になし(行使時課税が原則) | 行使時非課税 |
個人のメリット | 売却益が非課税(キャピタルゲイン非課税)、所得税率が低い。 行使後、株価が上昇すれば非課税で大きな利益が得られる。 | 税制適格SOであれば、低税率での売却益が可能。通常SOの場合は税率が高い。また制度が複雑で手続きが多い。 |
以下、主な違いを外観します。
目次
シンガポール
1. 税制
- ストックオプション行使時(株式取得時):給与所得として課税
- 株式売却益:キャピタルゲインのため、非課税
- QEEBR制度により課税繰延べ可能(Qualified Employee Equity-Based Remuneration Scheme)(注1)
(注1)QEEBR制度(Qualified Employee Equity-Based Remuneration Scheme)とは
QEEBR制度は、シンガポールの従業員に株式に基づく報酬を提供する制度で、一定の要件を満たすことで、従業員が株式を取得する際に課税が繰延べられるという税制上の優遇措置を受けることができます。
メリット
- 従業員のモチベーション向上
- 人材の確保・定着
- 企業価値の向上
- 税負担の軽減
要件
QEEBR制度を利用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 発行主体: シンガポールに登録されている会社であること。
- 付与対象者: 会社の従業員であること。
- 株式の種類: 普通株であること。
- 行使価格: 株式の公正な市場価格以上であること。
- ロックアップ期間: 株式を取得した後、一定期間売却することが制限されること。
- その他の要件: シンガポール税務当局が定めるその他の要件を満たすこと。
QEEBR制度の仕組み
- 株式付与: 会社が従業員にストックオプションを付与します。
- 権利行使: 従業員がストックオプションを行使し、株式を取得します。
- 課税の繰延べ: 株式を取得した時点では、課税が繰延べられます。
- 株式の売却: 将来的に株式を売却した際に、売却益に対して課税されます。
2. メリット
- 売却益が非課税
- 所得税率が最高24%と比較的低い
- 行使価格を市場価格より低く設定可能
日本
1. 税制
通常型ストックオプション:
- 権利行使時: 株価と行使価格の差額が「給与所得」として課税(最大税率45% + 住民税10%)。
- 売却時: 行使価格と売却価格の差額が「譲渡所得」として分離課税(税率20.315%)。
税制適格ストックオプション:
以下の条件を満たせば税制優遇が受けられます。
- 株式の保有期間など一定条件あり
- 権利行使時の課税なし
- 売却時: 株価と行使価格の差額が「譲渡所得」として分離課税(20.315%)。
2. 要件・制限
- 行使価格は付与時の時価以上に設定が必要
- 税制要件が厳格(注2)
(注2)税制適格ストックオプションの要件
1. 発行価額が無償であること
2. 権利行使価額
- 時価以上: 行使価額は、付与時点における株式の時価以上である必要があります。
- 時価の算定: 時価の算定方法については、法令で詳細な規定が定められており、一般的には、有価証券報告書に記載されている1株当たりの純資産額などが用いられます。非上場会社においては、株価算定が必要となります。
3. 付与対象者
- 会社及びその子会社の取締役・執行役・使用人: 一定の要件を満たす外部協力者(弁護士や専門エンジニアなど)も対象となる場合があります。
4. 権利行使期間
- 2年~10年: 付与決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日までの間に行使できる条件に設定が必要です。
- 設立5年未満の非上場株式会社: 15年を経過する日まで行使できる場合があります。
5. 権利行使限度額
- 年間1,200万円まで: 権利行使によって取得する株式の価額の合計額が、年間1,200万円を超える場合は、超過した部分については税制上の優遇措置を受けることができません。
6. 譲渡禁止規定
- 株式の譲渡禁止: 取得した株式は、一定期間、第三者に譲渡することが禁止されます。
7. 保管委託
- 証券会社等への委託: 権利行使して取得した株式は、証券会社や金融機関などに保管を委託する必要があります。
(注)上記は、出稿時点の情報であり、最新の実務は変更されている可能性があります。
お問い合わせ、ご相談は、錦戸(fm@avicnac.com)まで、ご連絡ください。
錦戸 傑宜(Nishikido Takanobu) / AVIC NAC PTE LTD
シンガポールにて、シンガポールとマレーシアの日系企業のASEAN進出および事業展開支援に特化したサービスを提供しています。日本の公認会計士として、監査経験、12年以上のスタートアップのCFO経験を持ち、EC、Fintech、IoT/AI、エネルギー、創薬など、幅広い業界での実務経験を有しています。日本での実務経験とシンガポールでの実務知識を組み合わせ、現地法人設立から、会計・税務対応、内部統制構築、資金調達まで、包括的なビジネスサポートを行っています。特に、日本とシンガポールの商習慣や制度の違いを熟知し、両国の架け橋となることで、クライアントの円滑な海外展開を支援しています。