中国 華南ビジネス実務
[華南ビジネス] 配当送金の手続について
中国子会社から親会社への配当をどのように決定し実施するのか、香港出資者の場合も含め、税務規定と送金の手順について以下に説明します。
目次
一、配当金額の決定と董事会決議
・配当送金額の決定
中国現地法人から日本等親会社への配当は、配当可能利益の範囲内で行うことが可能です。配当可能利益は、当期未処分利益から過年度繰越欠損(過去5年の欠損繰越が可能)を除いた上、三項基金という積立額を控除した後の金額となります。
また、三項基金とは準備基金、企業発展基金、従業員奨励福利基金を指し、法定の準備基金を除いては定款の規定に基づき任意で積み立てることができます。準備基金は、税引き後利益の10%以上を積立て、登録資本金額の50%に達するまで積立を行わなければなりません。
・企業所得税の源泉徴収納付義務
中国国外の投資者への配当送金に関し、中国から日本への配当送金の源泉徴収税率は10%となっています。一方、中国と香港の租税協定では、持分が25%以上の子会社からの配当送金時の源泉徴収の税率は5%とされており、日本への送金時に比べ、優遇された税率となっています。この優遇税率を享受するためには「租税条約待遇享受の申請」を提出し、税務当局より租税条約待遇を享受する「受益者ステイタス」を審査され認定されなければなりません。この審査には手続時間もかかり、書類の準備も煩雑なものとなっています。
受益者ステイタスの認定について、国税函[2009]601号(以降、601号文)及び国家税務総局公告2012年30号(2012年公告30号文)に規定されています。601号文には、内地と香港/マカオの租税協定に基づき、配当金、利息、特許権使用料支払時の租税条約待遇を享受する「受益者ステイタス」の認定として、「受益者」とは実質的な経営活動を行う個人か会社或はその他団体であり、代理人、トンネル会社(=節税や税回避、利益の移転或は留保が目的の設立登記だけがあり製造・販売・管理等の実体を持たない会社)は受益者ステイタスを認めないとし、受益者ステイタスの認定に不利となる要素を7項目列記しています。その内、配当送金に関する5つの要素について更に明確化された税総函[2013]165号(以降、165号文)も合わせ、認定に不利と考慮される点は以下の通りです。
※(受益者ステイタスを申請する)「申請者」が規定の時間内(例えば配当受領後12ヶ月以内に)全部或は多く(例えば60%以上)を第三国(地区)の居住者に支払う場合。
但し165号文では、税務局より申請者に利益配当状況、定款、支配関係を示す契約、定款、決議文書等を提出させ分析することとあります。
※申請者がこの配当を受け取る事以外に、その他の経営活動を全く/ほとんど行なっていない。
配当受領は投資プロジェクトの一環であり経営活動として認められる行為で、この他に経営活動を行なわないことが即受益者ステイタスの否認にはならないことが、165号文には明記されています。
※申請者の資産と規模及び人員が、所得額の大きさに対応していない(所得額に比べ小さい)。
165号では資産とは資本金を指すものでは無いことを明記し、少数人員でもその職責と業務の実体を分析し、人員数とその費用額だけを所得額に比較するのではないことを明確にしています。
※所得及び所得から発生する財産や権利に対し、全く或はほとんど支配権或は処置権が無く、負担するリスクが無いかまたは小さい。
165号では①会社定款等関連法律文書に関連支配権或は処置権に関する記載があるか ②これらの支配権或は処置権を行使したことがあるか ③処置は申請者が自主的に決定するか或は申請者の株主会や董事会で決定するか の3つの面から分析しなければならないとし、申請者の持分が、上層の株主に支配されていることにより受益者ステイタスが否認されるわけではないとしています。
※申請者の国(地域)が、関連の所得に対し非課税或は免税、或は課税しても実質税率が低い。
165号では香港のオフショア所得が非課税であるという事は認定の重要な要素ではないとしています。
※2012年公告30号文では、中国子会社を100%直接或は間接的に有する(第三国の居住企業を通じて間接的に有する場合を除く)上場企業は受益者ステイタスが認められるとしています。
165号文では、非上場の香港居住企業が100%直接或は間接的に有する場合、また、申請者と、最終的に支配権の有る香港企業との間に海外登記された会社が存在する場合でも、直接に受益者ステイタスを否認するものではないことを明確にしています。
165号文では、上述の要素の1つに該当すれば受益者ステイタスを否認するわけではなく、状況を総合的に分析して判断しなければならないとしています。このほか、中国国内の複数法人での同一申請者の受益者ステイタスの認定は一致しなければならないこと、経営状況に実質的な変更が生じた場合、変更後の状況に基づく申請を受理し審査するが、以前の認定に対し影響を与えないことが明記されています。
租税条約を享受するための審査要件は上記のように複雑で、各地の税務局の認定が必ずしも規定をきちんと踏まえているとは限りません。また、居住者企業としての証明等、認定のための要求資料が簡単に入手できない場合もあり、税務局との折衝に長い時間を要することもあります。
・董事会決議
定款の取り決めに従い決算と配当の決議を行ない、董事の署名を行います。2007年12月度以前の配当送金に対する源泉徴収の企業所得税は免税でした。これを適用するため、配当送金額の内、2007年12月度以前の利益と、08年以降の利益を明確に分けて董事会決議文書に記載する必要があります。
二、配当送金手続の流れと必要資料
(送金額が5万米ドルを超える場合で、香港投資者へ送金する場合の一例)
備案登記(国税)⇒税制優遇申請(ある場合)⇒納税⇒対外支払税務備案⇒送金(銀行)
1. 源泉徴収所得税契約備案
申請先:国税局
ネット申請後、窓口申請を行う。
必要資料:
1.董事会決議文書原本及びコピー
2.営業許可証副本原本及びコピー
3.税務登記証副本原本及びコピー
4.《源泉徴収所得税契約備案登記表》
(税務局によるフォーマットで、ネット申請後出力し提出)
所要日数:10日(或は、受理通知書に記載される日程)
2. 非居住者の租税条約待遇を享受する認可申請
申請先:国税局
必要資料:
1.非居住者租税条約待遇享受認可申請表(税務局フォーマット)
2.非居住者租税条約待遇享受ステイタス情報報告表(税務局フォーマット)
3.相手国の納税者である証明
4.董事会決議文書原本及びコピー
5.授権委託書
所要日数:10日(或は、受理通知書に記載される日程)
3. 納税申告
企業の申告システムでオンラインで直接申告し納付することが可能です。
上記2の認可後は5%の税率がシステム上で表示されます。
4. 《サービス貿易等項目の対外支払税務備案表》の備案登記
申請先:国税局及び、地税局
必要資料:
1.サービス貿易等項目の対外支払税務備案表 (一式三部、税務局フォーマット)
2.支払通知書、董事会決議文書のコピー
3.営業許可証副本コピー、税務登記証副本コピー
⇒所要日数:受理後15日以内
5. 銀行送金手続
(銀行により資料要求が異なる場合があるため、支払銀行にて確認いただく必要があります)
必要資料:
1.董事会決議文書原本及びコピー
2.最新の験資報告書、利益に対応する年度の監査報告書或は配当の専門項目監査報告書等
3.サービス貿易等項目の対外支払税務備案表
4.その他銀行の要求する書類
・日本への配当送金時、租税条約の待遇を享受する(上記ステップ2)が不要となります。
・2013年9月以降、配当送金時、従前の税務局発行の源泉徴収納付済金額を証明する対外支払証明を提出することが不要となり、代わって、配当送金を含む5万米ドル以下のサービス貿易対外支払には、銀行送金時に税務局の《サービス貿易等項目対外支払税務備案表》(上記の第4項)の提出は不要、銀行で支払い後、ステップ1及び2を行うこともできるようになりました。5万米ドルを超える場合は、ステップ4《サービス貿易等項目対外支払税務備案表》が必要となりますが、単独の備案手続となり、ステップ1及び2はステップ4の手続の前提条件ではありません。
但し、租税条約の待遇を享受する認可申請(上記の第2項)は配当送金時毎回申請提出しなければならず、1度認定されたとしても、以降、送金を上記ステップ2の認可申請より先に実施することにはリスクが伴う点注意が必要です。
※本原稿は2014年9月に作成されたものです。規定の変更、手続手順・必要資料については実際の配当送金手続時に所管の税務局及び送金銀行にてご確認ください。