中国 中国会計税務
[中国税務] 税金以外に徴収される諸費用(3)
今回は、中国(江蘇省)の社会保険料について取り上げます。直近の日中首脳会談を経て、社会保障協定の協議にも進展を望みたいものです。
■ 社会保険料
これまでは、行政部門が徴収する諸費用を紹介しましたが、今回は社会保険料について取り上げます。中国の社会保険料は、地方税務局が代行して徴収活動を行っています。
(四)社会保険
中国の社会保険制度では、養老保険(年金)、医療保険、失業保険、工傷保険(労災)、生育保険の5種類が整備されています。日本の社会保険と比べると、保険種類は同数ですが、日本の介護保険に相当する保険が存在せず、代わりに女性の出産や産休中の費用を保障する生育保険が含まれます。
① 保険料
中国の社会保険料は、地域によって保険料率が異なります。
保険種類 | 蘇州市 | 南京市 | 上海市 | |||
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企業負担 | 個人負担 | 企業負担 | 個人負担 | 企業負担 | 個人負担 | |
養老保険 | 20% | 8% | 20% | 8% | 21% | 8% |
医療保険 | 8% | 2% | 9% | 2% | 11% | 2% |
失業保険 | 2% | 1% | 2% | 1% | 1.5% | 0.5% |
労災保険 | 1% | – | 0.5%-1.2% | – | 0.5% | – |
生育保険 | 1% | – | 0.8% | – | 1.0% | – |
合計 | 32% | 11% | 32.3%-34.0% | 11% | 35% | 10.5% |
一部地域の社会保険料率を表しましたが、江蘇省内でも地域により保険料率が異なります。また、従業員の戸籍地や企業の業種により保険料が若干変動することもあります。なお、社会保険は5種類に一括で加入する形式となっているため、個別の保険に加入しないことを選択することは認められません。
会社負担の社会保険比率は、日本と比べても高く、従業員雇用や賃金上昇に伴う会社負担は重くなる傾向にあります。また、後述の住宅積立金を考慮すると、企業の保険料負担率は40%に達する場合もあります。
② 社会保険への加入
雇用開始から30日以内に従業員の社会保険登録を行うことが義務付けられていますので、試用期間中であっても社会保険へ加入しなければなりません。なお、社会保険料は日割りでの計算が認められないため、月末に入社する従業員の場合、保険料が月給を超過する可能性もあり、社会保険加入時期に関しては、現地法人にて規則を定め運用頂くことが宜しいかと考えます。
(五)住宅積立金
社会保険とは異なりますが、企業と従業員本人が給与額に応じて拠出する費用が住宅積立金です。住宅積立金は、住宅の取得や建築、修繕に用途を限定した従業員個人名義の積立金であり、社会保険と同様に法的に強制性があります。
積立金の比率は、会社と従業員の折半で自由に決定することが可能ですが、下限として5%が定められています。福利厚生の一環として比率を上げることも出来ますが、会社負担だけでなく、従業員負担も同様に上昇して手取給与が減少するため、過度に高い比率での加入は多く見受けられません。
■ 外国人の社会保険料還付
2011年より、中国で就業する外国人も中国社会保険の加入義務者となり、江蘇省でも同様の取り扱いとなっています。日本の社会保険に加入している場合には、保険料の二重払いとなり、且つ日本人が中国の年金や失業保険を享受することは非常に少ないため、単純に日本人従業員の費用が増加したと判断されることが一般的です。
会社と従業員負担を合わせて負担率が40%以上となる社会保険ですが、外国人が帰任時に申請すれば、日本の脱退一時金のように、養老保険の個人負担分に関して還付を受けることが可能です。還付申請に関しては、管轄の社会保険局により手続が異なるため、個別に確認を頂く必要がありますが、一般的な申請書類は以下のようになります。
- パスポート
原本の提示を求められることがあるため、帰任前に申請を行う必要がある場合もあります。 - 労働契約解除文書
帰任証明書等でも代用可能です。 - その他
社会保険局指定の申請書等には、保険加入者本人の署名が求められるため、事前に署名を済ませ、代理者に申請を依頼する方法もあります。
中国勤務の長さによっては還付額が数万元になることもありますので、ご検討を頂いても宜しいかと思います。但し、帰任後の還付に伴う日本の所得税申告、会社が負担した保険料の個人宛返金、といった問題もありますので、駐在員個別ではなく会社として対応を頂く必要はあるかと思われます。