中国 中国会計税務

[中国会計税務] 実務基礎知識3(経理規定の基礎知識1)

 現地法人の設立時に、就業規則や給与規定を制定することは優先的に行われますが、経理規定の制定は後回しにされ、会計担当者の判断に任せて、経理処理が進められている事例も多く見られます。このような場合、会社として経理処理内容の合法性や正確性を把握することが出来ず、且つ会計担当者の退職といった状況が発生する際の引き継ぎにも困難が生じることになります。皆様には、自社経理規定の制定状況、或いは運用状況を一度確認されることをお勧め致します。

■ 経理規定の目的

 現地法人で経理規定を作成する目的は以下のようです。
① 会計処理の規範化
 担当者によって処理方法が異なることを防ぎ、誰が業務を行っても同じような決算数値が算出されるようにする。これにより、過去との決算比較が可能となり、また会計担当者の交代よる引き継ぎも簡素化することが出来る。
② 不正や過誤発生の防止
 処理権限の設定や複数人による決算内容照合等を経理規定で明示することにより、誤りの発見を早め、不正を事前に防ぐ。
③ 法令遵守
 決算処理では、会計原則や税法に基づく処理が行うが、外貨受払取引では外貨管理法、輸出入では税関関係の法律といったように、多岐に渡る法律規定が関係する業務になる。頻繁な法律改定等もあり、会計担当者個人に対応を迫ることは難しいため、会社として規定を設けて、法令に基づく決算処理を随時出来る体制を整える。

■ 具体的な経理規定項目

(1)現預金管理
 最も基本的な現金や銀行預金に対する管理方法になる。出納業務の範囲ではあるが、一般的に経理規定に含めて規定される。
【現金管理】
 誰がどのように管理を行うか、残高の存在をどのように担保するかが重要になる。会社に保管する小口現金の必要残高は、会社の規模や経営内容により異なるが、中国の現金管理暫定条例という規定では、現金を利用する範囲として1,000元以下の支出といった条件が定められているため、比較的に現金での取引が多い会社であっても小口現金は3万元程度あれば十分であるかと考える。
 また、従業員の出張仮払金等についても現金で渡すことがあるが、長期間に渡って個人への仮払金が滞留している、或いは従業員の精算処理が遅れ、決算年度を跨ぐ発票での費用処理が監査で問題となる事例も多く見受けられる。仮払金で費用を先渡しする場合、従業員にとっては既に現金を受け取っているため精算処理が先送りされる傾向にあるため、仮払金については限度額だけでなく、精算期限を明確に定め、定期的に未精算金額を把握するような規則を策定することが望まれる。
【銀行預金管理】
 銀行口座の管理に関しては、現金ほど複雑に考える必要はない。多くの企業では、インターネットを用いた支払や残高照合が利用されているため、インターネットを利用する際の電子鍵やパスワードを会社として把握することで十分である。なお、インターネットの操作担当者は固定されていることが一般的だが、当該担当者が長期間の出張等で不在にする場合の緊急な支払対応については、代替的な方法を考慮することは有益である。

(2)発票
【発票管理】
 自社で発行する発票、及び仕入先等から受け取る発票の管理も会計部門で行われることが多く、経理規定に含めてしまうことが可能である。
① 発行
 発票発行の実務手続は比較的単純であり、法律で明確に発行方法が定められているため、企業の経理規定で細かく規定する必要はない。但し、どのような資料(出荷伝票、検収伝票)を以って、どの部門から発行依頼が行われ、発行承認の権限が誰にあるか等を明確に定めることは内部統制の観点から非常に重要である。
 例えば、取引先からの対価受領があった際に発票を発行するといった場合においても、それが前受金や手付金といった類である場合、発票発行義務はなく、誤って発票を発行してしまうことで増値税納付義務が発生する等の状況もあるため、発票発行(売上認識)の条件や規定は細かく慎重に定める必要がある。
② 管理
 中国の発票は、日本の領収書とくらべても厳格な管理が求められる書類になる。発票は管轄税務局にて購入するが、事前に登録した担当者以外の購入は制限されているため、購入担当者が異動等で発票管理業務を引き継ぐ際には、税務局登記情報も変更する必要がある。また、万が一に発票を紛失してしまう場合、税務局への届出だけでなく、新聞への公告提出義務が課され、取引先への発票発行が滞ることになるため、社内での管理体制に関しても経理規定で定めることになる。