中国 M&A
[M&Aは今] (4)委託先工場買い取りについて1/2
委託から内製化
今回は、委託先工場の買い取りケースについて紹介します。
A社(日本)は、B社(中国)に対し主要製品の生産を数年来委託しています。B社工場での製造品目は主にA社の依頼製品であり、A社が工場の株 式を買い取り、自身で経営するということが検討されました。この背景には、例えばB社が業界の競争激化で経営不安定となった場合や、或いはA社側の事情 で、これまで外部に委託していた製造品目の市場が拡大され重要視されるようになり、内製化される方針に変更された、などのケースがあります。いずれにして も、この買取りケースの特徴は、買収候補企業と従来取引実績があり、お互いに顔が見え、一定の信頼関係があるという点で、不特定多数の買収先とは異なりま す。買収側にとっては事前調査や企業絞りこみの手間がなく、相手企業の概要も分かっており、交渉も一見スムーズに開始できそうです。とはいえ、買収活動は 一足飛びに行えるものではなく、打診→基本交渉→基本合意契約→買収監査→最終交渉→最終契約 と親しき仲にもステップを踏んで進めるのが望ましいです。
譲渡意向を確認、監査を実行するための「基本合意契約」
「基本合意契約」とは、買収の意向書です。譲渡側としても、本当に譲渡する意向が無い限り会社の内情を調査されることに抵抗があるでしょう。基本合意とは、譲渡意向を双方確認し、買収契約以降異議が無いよう、お互いのために監査を行い契約に向かって協力するという主旨を明らかにするものです。
基本合意書の内容としては、その目的や有効期限、期間中の独占交渉権などを規定します。また、評価の実施日程や、以降最終契約までの日程計画を立てます。また、交渉中に日常の生産活動がおろそかにならないよう規定します。
買収側としては、その目的は生産継続であり、株式譲渡により引き継ぐ債権・債務のリスクが大きい場合、監査後、買収方針は資産の買い取りに移行する可能性があります。
一方、買収監査はそのリスクの洗い出しや資産評価などによって売却価格の交渉に影響を与える可能性が大きいため、譲渡側は意向書に売却価格或いはその考え方について大まかな方針を決めたいと希望するでしょう。
このほか、基本合意契約には秘密保持条項、免責条項などが含まれます。
財務監査のポイント
「買収監査」は、企業の真実の状態を知り、企業資産を公平に判断する基準であると同時に、潜在するリスクを洗い出して買収の是非を判断するという目的があり、財務監査では会計士などの専門家が工場現場の精査を実行します。項目としては、次のようなポイントがあります。
①資産の実在性(資産が本当にあるか、価値はいくらか)、②負債の網羅性(負債はもれなく決算書に記されているか、簿外負債や偶発債務の可能性はないか)、③管理体制(どのような管理体制、会計基準で経営しているか)④税務リスク(脱税などの税務リスクがないか)
特に通関業務については、加工貿易を行っている場合、保税の原材料・製品の実在庫と手冊の登録状況の差異や、設備の登録状況について確認します。同時に通関業務の中で違法行為や手続きの漏れが無いかどうかも確認します。通関業務上のこれらの問題は、以降税関などによる税金の追徴リスクとなるからです。
(続く)