中国 中国会計・税務実務入門
[実務入門] (1) 財務管理制度
今回から、中国にこれから進出する企業、或いは既に進出している企業が直面する、中国の会計実務及び税務実務に関する留意点を解説します。第1回目は社内規程である経理規程についてです。
社内規程とは、会社の行動指針や判断基準を明文化したものであり、ここに規定されたルールに則り経営を行うことで、経営者を含めた個々の社員の行動基準や判断基準を組織として統一させることができます。社内規程は職務分掌や人事労務等広範囲にわたりますが、会計の観点からはまず経理規程を整備することになります。
本記事は、現在NNA.ASIAで連載中の「ここに注目!中国会計・税務実務入門」を転載したものです。
経理規程は、中国語では一般に財務管理制度と言います。財務管理制度は、会社に関わる全ての取引を的確かつ迅速に処理し、会社の財政状態及び経営成績を明らかにするとともに、経営活動の効率的、効果的運用に資するために作成される規程です。財務管理制度の整備は、内部統制上重要であるだけでなく、日本と中国の会計制度の違いや言語、習慣の違いなどから生ずる、日本親会社と中国現地法人の会計に関するミスコミュニケーションを防ぐ効果のほか、次のような効果があります。
- 不正やミスの発見および防止機能を高め、内部牽制機能を盛り込むことで、財務諸表の信頼性を高める。
- 会計業務の詳細を定型化することで効率化を図り、正確な企業情報をタイムリーに収集・分析を行なうことが可能となる。
- 会計業務には、多くの関連規則を遵守する必要があり、これらの規則に則って、確実に会計処理を行なうことが可能となる。
効率的、効果的に運用するため、財務管理制度には、少なくとも以下の事項を記載することが望ましいです。
目次
総則
財務管理制度の目的や中国の関連法規に基づいている旨、会計期間、記帳本位通貨等を記載。
財務会計機構、人員及び制度
組織機構や財務部の階層、中国公認会計士の監査義務等を記載。
一般原則
真実性の原則、継続性の原則、発生主義の原則等を記載
資本金及び負債の管理
出資方法や投資者の責任、負債は勘定科目ごとに管理方法や会計処理方法等を記載。
資産の管理
勘定科目ごとに管理方法や会計処理方法等を記載(以下、主要な科目について記載)。
現金
精算方法、現金実査の方法、現金保管方法、小切手管理、銀行取引管理等。
棚卸資産
定義、計算方法、保管方法、棚卸管理等。
固定資産
定義、計上方法、減価償却方法、取得・廃棄等のプロセスの概略等。
原価、費用の管理
勘定科目ごとに管理方法や会計処理方法等を記載(以下、主要な科目について記載)。
製造原価
直接材料費・直接労務費・製造間接費の定義、原価計算の概略等。
管理費用・営業費用・財務費用
それぞれの定義、会計処理方法等。
収入、利益及び利益分配の管理
収入の定義、収入認識方法、繰越欠損金の処理方法、準備金の積立方法等。
内部統制及び内部監査
全社的な取り組み等(詳細は別途規程を作成し明文化)
財務報告
財務報告として使用する財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)や財務諸表注記に関する説明等。
帳簿の管理
保存する会計帳簿や会計証憑の種類や期間、保存方法などを記載。
財務管理制度は、日本親会社の経理規程を参考に、中国の会計制度や実務に即した内容を加除、修正し作成することができます。日文と中文を作成し、変更があった際には変更内容を関連担当者に周知し、変更履歴を残します。
中国現地法人の会計に関する理解を日中間で同レベルとするためには、上述の財務管理制度の内容をより具体的に規定することが大事です。次回は例を挙げて具体的にどのように規定するか解説します。