M&A
[M&Aは今] (1)来料加工廠の法人化
広義のM&A、狭義のM&A
「M&Aは今」ではこれから数回に分けて、M&Aのケーススタディを通じ香港・華南地域の各種M&Aの事例を紹介し分析していきます。
M&Aを大きく企業提携ととらえると、その形態は図1の通りで、資本移動を伴う場合と伴わない場合の2つに分けられます。
先ず、買収、合併、分割、これを狭義のM&Aと呼びます。買収は、相手の企業の株を買って経営権を取得し企業全体を入手する「株式取得」と、会社の事業の全部または一部を、買い手が売り手に現金を支払って取得する「営業譲渡」に分けられます。
営業譲渡は、一部事業の売却によって得た資金で、既存事業に集中する、或いは新規事業を起こす場合に、売る側にとって有効な方法と言えます。買 う側にも、株式取得によりその会社の権利関係を全て引き受けるのが非常にリスキーなため、必要な事業部門だけを譲り受ける営業譲渡のほうが、メリットが大 きい場合があります。
二つ以上の会社が一つになる合併では、企業文化の融合や、隠れたリスクの回避などのために、一度買収して子会社とした後時間をかけて合併するという方法や、持ち株会社によって緩やかな経営統合をした上で合併するケースもあります。
一方広義のM&Aでは、株式の持ち合いや合弁会社の設立も含み、これらはいずれも資本の移動を伴います。一方、資本移動を伴わない提携は、共同開発、OEM提携、販売提携などがあります。
この連載では、資本移動を伴う、広義のM&Aケースをご紹介していきます。
来料加工廠の直接投資法人化
今回は、タックスヘイブン対策税制の課税リスクを避けるため、ペーパーカンパニーである香港会社を経由して行っていた来料加工廠を日本の本社が直接投資する現地法人に転換するケースについて、紹介します。
香港に設立したペーパーカンパニーを通じて華南地域で来料加工廠を運営している場合、タックスヘイブン対策税制の適用除外基準を満たしていない(主要な業務である生産加工が香港で行われていない、或いは、卸売業務の50%超が関連会社である)ために、香港会社の利益が日本で合算課税される事例があり、課税リスクが高まっています。
従来華南地域の来料加工廠は登記上法人格が無いので、資本金を投入することなく管理人員を派遣し設備を投入して生産活動を管理することができる身軽な生産拠点であることが魅力でしたが、昨今の中国大陸の産業政策上、中国にとって付加価値の低い、或いはメリットの多くない加工貿易が奨励されない環境となってきたことや、来料加工貿易制度の不透明性が本社のコンプライアンス上の懸案となっていることなど、ネガティブな要素が多くなってきています。
このようなリスクを避けるため、来料加工廠での生産を、本社から直接投資して設立する現地法人に移管することが検討されるようになりました。
来料加工廠を買収(営業譲渡)し独資化する際に、現地での生産の移管に関し
- 生産活動に支障が無いように
- コンプライアンス
- コストを抑える
といったことが課題となります。次回はこれらの課題をどのように実現していくかについて、ご説明します。
(以上)