中国

[実務入門] (26) 記帳本位通貨 (3)

前回までで「記帳本位通貨」の定義、単通貨会計と多通貨会計の違いについてみてきました。記帳本位通貨とは中国の会計処理上、帳簿をつけるにあたって基本となる通貨は人民元であり(外貨を選択することもできますが)、選べる通貨はただひとつであること。多通貨会計とは各通貨建の取引を通貨別に記録管理するとともに、これに基づいて作成される各通貨建の試算表を各月末など一定の時点で、ひとつの通貨に換算の上、これを合算して総合試算表を作成するという方法のことです(中国基準では不可)。今回はIFRS上の考え方をみていきます。

本記事は、現在NNA.ASIAで連載中の「ここに注目!中国会計・税務実務入門」を転載したものです。

前回既出の仕訳の例について、再掲します。
例: A有限公司において、B商品の販売とCサービスの提供は独立に行われており、取引口座もバラバラに開設され管理されている。月中の取引は3件。仕入の決済は即時に行われ、売上と役務提供の決済は未済である。

  • B商品の仕入 900,000元
  • B商品の売上 1,200,000元
  • Cサービスの提供 7,500,000円 (役務提供時1元=12.5円)
  • 月末為替レート 1元=15円

<仕訳(中国基準)>

B商品の仕入
仕入 900,000 現預金 900,000 記帳通貨RMB
B商品の売上
売掛金 1,200,000 売上 1,200,000 記帳通貨RMB
Cサービスの提供
売掛金 600,000 売上 600,000 記帳通貨RMB
月末換算
為替差損 100,000 売掛金 100,000 記帳通貨RMB

<仕訳(日本親会社・多通貨会計)>

B商品の仕入
仕入 900,000 現預金 900,000 記帳通貨RMB
B商品の売上
売掛金 1,200,000 売上 1,200,000 記帳通貨RMB
Cサービスの提供
売掛金 7,500,000 売上 7,500,000 記帳通貨JPY

月末試算表 RMB→JPY(1元=15円)

(3) IFRS(機能通貨)

 IFRS(国際財務報告基準)には、「機能通貨」(Functional currency)という考え方があります。
 
IAS第21号第9項
企業が活動する主たる経済環境、すなわち、企業が現金を生み出し、現金を消費する環境における通貨を機能通貨とよび、それは企業の基礎的取引や事象、状況を反映する通貨である。機能通貨を決定する際にはまず、次の要因を検討する。

A 商品・サービスの販売価格に主たる影響を与える通貨(通常は商品・サービスの販売価格が表示され、決済される通貨を指す)
商品・サービスの販売価格を主に決定する、競争相手や規制が存在する国の通貨
B 商品・サービスの提供に関する労働や原材料そのほかのコストに主たる影響を及ぼす通貨(通常はそのようなコストが表示され、決済される通貨を指す)


また、「表示通貨」は財務報告(財務諸表表示上)の通貨であり、概念として機能通貨と整理されています。

この考え方が導入されることで、日本の多通貨会計の処理が概念としてきれいに整理されます。ここでは、A有限公司が機能通貨を人民元(RMB)と日本円(JPY)の2通貨であると定義していることとします。

<仕訳(IFRS)>

B商品の仕入
仕入 900,000 現預金 900,000 取引通貨RMB
機能通貨RMB
表示通貨JPY
B商品の売上
売掛金 1,200,000 売上 1,200,000 取引通貨RMB
機能通貨RMB
表示通貨JPY
Cサービスの提供
売掛金 7,500,000 売上 7,500,000 取引通貨JPY
機能通貨JPY
表示通貨JPY

月末試算表 表示通貨JPYへ換算(1元=15円)

私見ですが、IFRSの考え方を組んでいる中国の会計基準は、IFRSのコンセプトに沿いながら(A)機能通貨を1つにしばっている、(B)表示通貨を人民元にしばっている、特殊例という考え方ができるのではないかと思っています。

次回は「投資」勘定の処理についてみていきます。