中国 中国会計・税務実務入門
[実務入門] (25) 記帳本位通貨 (2)
前回では「記帳本位通貨」の定義についてみてきました。中国の会計処理上、帳簿をつけるにあたって基本となる通貨は人民元であり(外貨を選択することもできますが)、選べる通貨はただひとつであるということでした。今回は日本基準やIFRSとの差異をみていきます。
前回既出の中国会計上の仕訳の例について、再掲します。
例: A有限公司において、B商品の販売とCサービスの提供は独立に行われており、取引口座もバラバラに開設され管理されている。月中の取引は3件。仕入の決済は即時に行われ、売上と役務提供の決済は未済である。
- B商品の仕入 900,000元
- B商品の売上 1,200,000元
- Cサービスの提供 7,500,000円 (役務提供時1元=12.5円)
- 月末為替レート 1元=15円
本記事は、現在NNA.ASIAで連載中の「ここに注目!中国会計・税務実務入門」を転載したものです。
<仕訳>
B商品の仕入 | ||||
仕入 | 900,000 | 現預金 | 900,000 | 記帳通貨RMB |
B商品の売上 | ||||
売掛金 | 1,200,000 | 売上 | 1,200,000 | 記帳通貨RMB |
Cサービスの提供 | ||||
売掛金 | 600,000 (=7,500,000÷12.5) |
売上 | 600,000 | 記帳通貨RMB |
月末換算 | ||||
為替差損 | 100,000 (=7,500,000÷15-600,000) |
売掛金 | 100,000 | 記帳通貨RMB |
(2) 多通貨会計(日本基準)
外貨建取引等会計処理基準の注解(注3)に、次のような規定があります。
外貨建債権債務及び外国通貨の保有状況並びに決済方法等から、外貨建取引について当該取引発生時の外国通貨により記録することが合理的であると認められる場合には、取引発生時の外国通貨の額をもって記録する方法を採用することができる。この場合には、外国通貨の額をもって記録された外貨建取引は、各月末等一定の時点において、当該時点の直物為替相場又は合理的な基礎に基づいて算定された一定期間の平均相場による円換算額を付するものとする。
この規定はいわゆる「多通貨会計」を認める規定と解されています。多通貨会計とは、2種類以上の通貨建てで取引を行っている場合において、各通貨建の取引を通貨別に記録管理するとともに、これに基づいて作成される各通貨建の試算表を各月末など一定の時点で、ひとつの通貨に換算の上、これを合算して総合試算表を作成するという方法です。
この基準に従って先述の例でA有限公司では日本の親会社に対する財務報告は、人民元と日本円の多通貨会計を採用して記帳処理しており、月末に円建てで財務諸表を作っているとします。
<仕訳>
B商品の仕入 | ||||
仕入 | 900,000 | 現預金 | 900,000 | 記帳通貨RMB |
B商品の売上 | ||||
売掛金 | 1,200,000 | 売上 | 1,200,000 | 記帳通貨RMB |
Cサービスの提供 | ||||
売掛金 | 7,500,000 | 売上 | 7,500,000 | 記帳通貨JPY |
月末試算表
このように上記の例では、A有限公司の試算表上為替差損益が発生しない形になり、中国の会計基準に従った形と差異が生じます。
多通貨会計は異種通貨間取引(人民元と日本円の両替など)が入ってきますとダミー勘定(通貨振替勘定)を使った処理が必要で難しくなってきますのでここでは触れませんが、多通貨会計を行っている日本親会社も少なくありませんので、概念としての多通貨会計の把握はしておいたほうがよいでしょう。
次回も引き続き中国の会計基準上の記帳本位通貨と他の会計基準(IFRS)の考え方についてみていきます。