中国

中国・財務関連業務プロセス内部統制(貨幣資金管理)

中国における経営環境が変化する中、企業の業務プロセスをよりよく設計し監督・改善することを通じて内部統制を図ることは、企業内外のリスク回避につながると共に組織体制を強固にし、引いては企業価値の向上につながるとも言えます。本稿では特に財務関連業務プロセスに焦点を当て、実務的な事項についてご紹介していきます。

1.貨幣資金管理

1-1業務プロセスは内部統制の一環

中国の経営環境の変化に伴い経営コストが増大していく中で、企業内外の様々なリスクの回避や対策に迫られる中、内部統制の概念により企業内部の業務プロセスを改善強化する企業が増えています。内部のリスクには、従業員や経営管理者による不正のリスク、外部リスクとしては行政手続制度や法規を遵守しないことによる処罰等のリスク、取引先や社会の信用低下等が考えられます。こういったリスクは経営に直接の損失を与える恐れがあり、企業の業務プロセス管理は事前の予防策やチェック等を通じてこれらのリスクを回避或は減少させることにあると言えます。

内部統制に関する規定としては、中国では2008年に内部統制規範*1が発布され、2010年には18項目の応用指針*2が発布されており、内容には、仕入、販売、資産管理や財務報告等の財務関連業務だけではなく、企業文化、組織構造、ヒューマンリソース、社会責任や情報システム等多岐に渡っています。現在の適用対象企業や業種は限られています。

「内部統制」と言われると大掛かりな対策や文書化、監査等が想像されますが、実務的には業務プロセスという形で多くの企業ですでに何らかの形で部分的にでも適用され、執行されています。但し、文書化や執行の度合いについては企業によって差があり、文書規定がなければ人により随意に取り扱われ、規定があっても有名無実で執行しない等の情況もよく見られます。

財務部門は、最終的に財務報告に現れるデータが真実で、正確であることを担保するために、業務プロセスが文書化されているか、実行されているかを確認する必要がありますが、財務部門がリスク予防やプロセス規定の制定に関わることができる機会は少なく、実務上は各種企業活動の最後に、結果を記帳資料として渡されるだけの場合が多く、財務部門自身も問題発生の理由や対策に対し経営者から財務部門に意見を求められてはいないと考えがちです。中国の企業組織内部では部門間協調も不得手、特定の人を批判することにもなりかねない改善活動に至っては、経営者を除いて着手できる人はいません。

我々会計税務コンサルティングの立場では、経営者の財務業務に対する重視と、双方のコミュニケーションの増加により、企業活動の実務的な情報が最も集まる財務部門の目を通して企業の内部統制情況の改善を図ることを薦めており、業務プロセスはそのベースとなるものであるというわけです。本稿では、主要な業務プロセスである①貨幣資金管理 ②在庫管理 ③固定資産管理 ④仕入と支払管理 ⑤販売と入金管理 について、中国の実務的な情況に基づき解説していきたいと思います。

*1 財政部、証監会、審計署、銀監会、保監会《企業内部統制基本規範》の通知
(財会[2008]7号)2008年5月22日発布、2009年7月1日より上場企業に適用
*2 《企業内部統制関連指針》の印刷発行に関する通知 (財会[2010]11号)
2010年4月15日発布、2011年1月1日より国内外同時上場の企業に施行、2012年1月1日より上海証券取引所、深セン証券取引所メインボード企業に施行

1-2貨幣資金管理上よく見られる問題点

以下に、貨幣資金管理について説明します。貨幣資金に関わる問題として、日本の企業の中国子会社にも見受けられる7つの問題点を以下に挙げます。

1.会計と出納の職責が分かれておらず、会計担当者がお金も、帳簿も、管理している情況が見受けられます。

2.現預金の支出に関する権限が不明であるか、権限は決まっているが厳格に執行されていない情況が見受けられます。金額の多寡による認可者の設定や、認可者が不在の時どうするか、詳細の規定が無い場合もあります。中国の上場企業等でも決裁権限に関する詳細の取り決めがあり、金額、支出費用の種類によってどのレベルの管理者が決裁するかについて表中に記載されており、材料資材仕入、事務用品、固定資産等日常的なこれらの支出に対し、金額に対応する決裁者、決裁者不在の時の取扱等が全て記載されています。

我々は多くの日系中国子会社の帳簿をチェックさせていただいていますが、同意署名の無い申請証憑が多く見受けられました。その時、担当者達は口を揃えて「後で署名してもらう」と主張するのですが、出納がすでに出金し、会計が記帳した後で一体本当に署名するのか甚だ疑問です。

3.銀行サイナーカードと、ネットバンキングのUSB(及びログインパスワード等)を分別して保管しておらず、同一担当者の権限が過大となります。但しこの状況は日系企業にはあまり見られないようです。

4.虚偽の証憑で費用精算等を処理する事が多かれ少なかれ見受けられます。事態が深刻な企業も中にはあります。我々財務人員は、本物の発票が処理の原則です。本物であるとは、発票そのものが本物(税務局が印刷、発行、鑑製したもの)であるほか、費用精算に記載される実態の業務内容と一致するということであり、A店で事務用品を購入したならば、A店で発行された、数量・単価・内容・金額が全て真実で初めて“本物の発票”という理解になります。この点、社内でも出納担当、記帳担当、費用精算の検査者、認可者全て「発票の真贋」に対する正しい概念を周知する必要があります。発票そのものは本物であっても申請内容と一致しない、申請内容が虚偽である場合は本物の発票と言えず、虚偽の費用申請となります。

5.私的に設置された金庫、“白条”(正規の仮払票でないメモ等の紙切れ)による出金や、在庫現金の帳簿と実在の不一致等の情況もよく見受けられます。廃材の販売収入を帳簿に計上せず、金庫に入れ、“老板”(「ラオバン」:社長、総経理の意味)か、誰かの出金に関わらず、帳簿に計上せず、メモのみを残し、現金棚卸時には10万元20万元という現金(とメモ)が金庫にあることになっている、このような情況は異常です。また、現金棚卸をしようとしたら金庫はメモの束のみであった、これも制度に沿っていません。製造業で、廃材収入が全く無いとは普通は信じ難い事です。財務データで現金科目の帳簿と実在高が一致しない場合、他の科目も推して知るべしです。金庫を老板が使っているならば、財務担当レベルでは意見できないかもしれませんが、将来誰も使う人がいなくなった時、中のお金がどこに行ったかも分からなくなります。これは管理リスクであり、税務リスクと言えます。

6. 現金データに対し、日毎・月毎に清算していない。棚卸を行っていないか、棚卸後も適時に処理していない情況が見受けられます。

7.中国の現金管理制度*3は1988年に制定されたもので、当時の規定では1000元以上の現金の決済と保管は不可とされていました。無論、現在の情況には全くそぐわない金額ですが、現在でも大量の現金使用、現金在庫は、現金管理制度違反となります。例えば、設備15万元の支払いを現金で行ったと記帳されていたとします。15万元もの大金をリュックに背負って行ったのでしょうか?このような現金処理を行うケースには、多くの場合リベートを得る人がいるか、発票に問題がある可能性があるか、サプライヤーが帳簿に計上しないつもりか、等の情況が想像されます。従い、仕入部門が多額の仕入を現金で行う申請を出してきた場合、我々財務部門は上記の情況を疑う必要があります。財務部門は最初の目撃者であり、財務部門が是正しなければ、その後の目撃者は既成事実を目撃するだけで、是正のしようはありません。老板も深く考えずに(現金支払いに)同意署名するかもしれず、署名した後では反対もできません。財務部は事が進む前に意見を提出する必要があります。

1-3貨幣資金管理上の対応措置について

貨幣資金管理における内部統制指針による統制対象と措置は以下の通りとなっています。

内部統制の対象は主に、審査認可、チェック、残高、記帳、照合、保管、銀行口座管理、伝票と印章管理 等に渡っています。

内部統制の主な方法(措置)について
(1)職務を分離して相互牽制する
企業の現金棚卸を出納人員が行ったり、銀行の残高調整表を出納人員が行うことがありますが、出金担当と棚卸し、銀行操作と残高調整は分離しなければなりません。
①現金受払及び保管は、授権された出納人員だけが行うようにします。
②現金帳簿は出納人員が登記してはならず、異なる会計人員が登記する。現在は会計ソフトで行うため、分掌されていない事も多いが、現金出納帳を別途作成することを推奨します。月次で清算する会計ソフトとは別に、現金出納帳を作成すれば毎日残高が確認できます。
③売掛金項目を担当する人員は同時に現金収入及び支出項目の仕事を担当してはなりません。以前国有企業によく見られましたが、担当は売掛金を帳簿に計上せず、担当以外の人がチェックしないことにより、不正が起こりやすくなります。小切手とサイナーカードの保管を分離すべきであることにも注意してください。
④小切手帳を保管する人員は同時に現金支出と銀行預金の調整を担当しないようにしてください。
⑤銀行預金残高調整業務と、銀行預金、現金、売掛金及び買掛金項目業務は人員を分ける必要があります。
⑥貨幣資金支出の審査認可と出納業務は担当を分け、小切手保管人員と銀行預金・現金の記録業務担当も分けるる必要があります。
⑦小切手保管職務と小切手印章保管職務は分ける必要があります。

*3中華人民共和国現金管理暫定条例(国務院令第12号)1988年9月8日発布

(2)授権認可統制
申請者⇒部門主管署名⇒出納担当者審査⇒総経理認可
部門主管は取引の真実性に対し審査すると同時に、金額の合理性も審査する。
財務は主に発票などの証憑が合法のものか、金額は合理的かを審査します。
総経理は全体を把握し、最後に認可します。

総経理が認可した後に出納担当が審査する状況もよく見受けられますが、中国の企業の上下関係において総経理が同意したものに出納担当が意見することは難しいため、問題が是正されない場合があることから、出納担当が総経理認可の補助的なチェック機能として事前に審査する事が望ましいと言えます。

(3)会計システム統制
①オリジナル証憑が完全に揃っていること。
②記帳資料を審査すること。
③会計帳簿を審査すること。

貨幣資金管理については、まず費用精算プロセス、帳簿と実在高の一致状況に注意が必要であり、費用精算は規定を作成し決済権限表と合わせてプロセス管理することが望ましいと言えます。現金管理としては、多額の現金を保管せず、収入は適時に口座に入金すること、正規の仮払票の無い現金支出をしないこと、毎日の照合と月次の照合、棚卸等の規定をまとめ書面化し、制度に沿って運営することが必要です。