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[中国労務] 『広東省労働人事争議処理弁法』の施行について
1.概要
『広東省労働人事争議処理弁法』(原文、粤府令〔2017〕第234号、以下『弁法』と呼称)が2017年5月1日より施行開始されている。『広東省企業労働人事争議処理実施弁法』(1995年5月1日施行、粤府令〔1995〕第19号、以下『旧規定』と呼称)は同時に廃止となる。今回の『弁法』では労働争議の処理範囲、組織機構、処理規制、労働争議の処理体制及び処理方法等に関する規定が改定及び明確化された。
『旧規定』は『中華人民共和国労働法』(1995年施行)*1及び『中華人民共和国企業労働争議処理条例』(1993年施行)*2を法律依拠とし、労働争議の処理を完全にすることを目的として1995年施行された。しかし、政府部門が労働争議の実務において新しい状況を処理する際に相応しい法律依拠が乏しく、また調停のプロセスに関する基準が明確でない等の問題が多発したため、労働争議の処理効率は高いとは言えないものであった。
その後、2008年に『中華人民共和国労働契約法』*3が施行され、従業員の権利意識が高まり、更に『労働争議調停仲裁法』*4(2008年施行)において、①協議(雇用者と従業員or労働組合or第三者間での和解協議、省略可能)→②調停(調停組織による調停、省略可能)→③仲裁(労働争議仲裁委員会による判断)→④訴訟(人民法院による司法判断)という一連の労働争議に関連するプロセスが明確化されたこと、及び仲裁費用については当事者負担が無料とされたことにより、近年、中国全土における、雇用者と従業員の間における個人労働争議の発生件数は増加の傾向にある。
今回施行された『弁法』では労働争議の処理プロセスに関し、これまで労働争議において軽視されることの多かった予防、協議、調停に重きを置くことが強調されており、労働争議をその場で速やかに解決することが促進されている。また仲裁において、仲裁機構が法定代表人や分公司責任者といった当事者代表者の出廷を求めることができるとされている点や、仲裁申請時の必要資料に当事者代表者の身分証明書(パスポート)を提出する必要が含まれている等、実務面での明確化に伴い雇用者側の注意が必要な変更点も幾つか存在している。以下に主な変更点をまとめる。
2.主な変更点
1)労働争議に関する予防措置の増加
a)雇用者内部における相談・協議システムの確立による協議解決の促進(第9条)
雇用者は従業員と相談・協議するための内部システムを確立し、従業員がスムーズに訴えを表明できる経路を作り、また訴えに対し速やかに対応しなければならない。労働争議が発生した場合、雇用者は積極的に従業員と協議を行い、解決しなければならない。労働組合は雇用者と従業員の協議をサポートしなければならない。
b)従業員の知る権利と民主参加権の保障(第10条)
雇用者の生産経営に重大な変化があり、労働契約の履行が継続できない場合、雇用者は関連業務計画を制定しなければならない。業務計画の内容には人員の調整計画、労働契約の変更・解除・終了及び再締結の方法等が含まれる。
c)雇用者の異常情報の収集(第11条)
人力資源社会保障行政部門は雇用者の経営変動、給与支給、社会保険、税金、賃借料と水道光熱費などの納付情報の収集を通じて、当地における労働争議発生リスクの予防を強化する。経済・情報化局、工商局、税務局などの行政部門及び水道・電気業者は、雇用者に異常経営や、公告なしの解散等の状況が存在することを発見した場合、速やかに人力資源・社会保障部に通知しなければならない。
2)仲裁管轄範囲の明確化及びそれによる迅速化(第38、39条)
労働争議は労働契約履行地或いは雇用者所在地の仲裁機構が管轄する。仲裁機構はその管轄範囲を公布しなければならない。管轄の級別が明確ではない場合、県(市、区)の労働仲裁委員会が管轄する。仲裁機構が労働争議案件に関する管轄権を有さないとみなす場合、仲裁申請受理日から5日以内に書面で申請者に通知しなければならない。申請者は他の仲裁機構に仲裁を申請し、仲裁申請を受けた仲裁機構もそれを管轄すべきではないと認識する場合、申請者から仲裁申請を受けた日から3日以内に共同の上級仲裁機構の主管部門に管轄の指定を申請しなければならない。
3)雇用者当事者の確定(第42条)
『弁法』では、労働争議が発生した場合、雇用者の類型によって当事者を確定する。旧規定では、労働争議の類型によって当事者が確定されていた。
営業許可証或いは登記証書をまだ取得しておらず、雇用者から委託され、法により従業員と労働契約を締結している分公司で労働争議が発生した場合、総公司(法人)を当事者とする。
営業許可証或いは登記証書を既に取得している分公司で労働争議が発生した場合、その分公司を当事者とする。案件処理の必要によって、総公司(法人)を共同当事者とする。
自営業者の場合、営業許可証に登録している経営者を当事者とする。屋号を持つ場合、営業許可証に登録した屋号を当事者とするが、当該屋号の経営者基本情報を明記する。
4)当事者の出廷(第47条)
仲裁機構は案件処理の必要により従業員本人、雇用者の法定代表人(主要責任者)或いは関係者の出廷を書面で通知することができる。代表人、代理人は事実を当事者に知らせなければならない。
合法的な通知を経て、当事者が正当な理由無しに出廷を拒絶し、代表人、代理人が法廷で案件の主要事実に対して明確に陳述せず、そのために立証責任を負う関連事実が究明されない場合、当事者がその不利な結果を負う。
5)仲裁申請時必要資料の明確化(第49条)
仲裁を申請する際、『中華人民共和国労働争議調停仲裁法』*4の規定に基づき仲裁申請を行い、営業許可証、登記証書、法定代表人(主要責任者)の身分証明書、授権委託書、従業員の身分証、及び案件と関係のある証拠資料を提出しなければならない。
3.関連規定
番号 | 時期 | 規定情報 | URL |
*1 | 1995/1 | 『中華人民共和国労働法』(主席令第28号) | 原文 |
*2 | 1993/7 | 『中華人民共和国企業労働争議処理条例』(国務院令第117号) | 原文 |
*3 | 2008/1 | 『中華人民共和国労働契約法』(主席令第65号) | 原文 |
*4 | 2008/5 | 『中華人民共和国労働争議調停仲裁法』(主席令第80号) | 原文 |