中国 中国会計税務

[中国会計] 中国の国家統一会計制度(53)

 8月に中国人民銀行(中国の中央銀行)が、営業日ごとに設定する人民元の中心レートを大幅に引き下げた影響で、多くの日系企業において多額の為替差損益が生じました。そこで、今回は、外貨建て取引及び財務費用の項目で既に取り上げた為替差損益について、改めて紹介をします。紹介する内容は、基本的には企業会計準則(新準則)に基づきます。

1. 外貨建て取引の会計処理

 中国では、通常は人民元を記帳本位通貨(注1)とし、人民元以外の通貨による取引、すなわち外貨建て取引は、人民元に換算して記帳することが求められており、外貨建て取引を取引発生時には外国通貨で記録し、各月末、事業年度終了の時等一定の時点において本邦通貨に換算するという、いわゆる多通貨会計を採用していません。また、中国では月次決算を行うため、貨幣性項目の外貨建て資産負債は、毎月末のレートを用いて換算するものとなり、前月末との為替レートの変動幅が大きい場合には、多額の為替差損益が生じてしまうことがあります。
 為替差損益(中国語:「カイ兌損益」カイはサンズイにハコガマエ)は、財務費用として当該期間の損益に計上します。但し、小企業会計準則を採用している場合、為替差損は財務費用、為替差益は営業外収益(日本の損益計算書の特別利益に相当)に計上するものとされています。

2. 為替レート

 取引発生時には、原則として取引当日の直物為替レート(注2)を適用して人民元に換算します。但し、実務上、小規模企業においては、取引発生月の初日のレートを用いることが多く行われています。
 貸借対照日(計算期間末日)において、貨幣性資産(手許現金、銀行預金、売掛金、その他未収金、長期未収金など)、貨幣性負債(短期借入金、買掛金、その他未払金、長期借入金、社債、長期未払金など) は期末の直物為替レートを用いて換算します。棚卸資産、長期持分投資、有形固定資産、無形固定資産、資本金など取得価格で評価する非貨幣性項目については、期末の換算は行いません。

(注1) 記帳本位通貨(中国語:「記チョウ本位幣」チョウは貝へんに長)とは、企業が経営活動を行う主たる経済環境における通貨をいうものとされている。
(注2) 直物為替レート(中国語:「即期カイ率」)とは、中国人民銀行が公示する当日の人民元為替相場の中値(TTM)を指す。直物為替レートは国家外カイ管理局のサイトhttp://www.safe.gov.cn/(英語表示選択可)で確認できる。

<例48>
7月末日の外貨建て資産はA銀行日本円口座残高1000万円のみである。
各取引日の直物為替レート(100元に対する)は以下の通り。なお、取引にかかる関税や増値税等は考慮しない。
7/31 8/3 8/17 8/25 8/31
4.9487 4.9481 5.1451 5.3713 5.2718
①8月3日に商品を1000万円仕入れた。
借: 庫存商品(棚卸商品)                 494,810
 貸: 応付チョウ款―日元戸(買掛金―日本円口)    494,810
②8月17日、人民元口座から500万円分を両替し、日本円口座に入金した。A銀行の実際適用レートは5.1046であった。
借: 銀行存款―日元戸(銀行預金―日本円口)    257,255
 貸:銀行存款―人民元戸(銀行預金―人民元口)     255,230
    財務費用―カイ兌損益(財務費用―為替差損益)    2,025
①8月25日に①のうち500万円を日本円口座から支払った。
借:応付チョウ款―日元戸(買掛金―日本円口)       247,405
    財務費用―カイ兌損益(財務費用―為替差損益)  21,160
 貸:銀行存款-日元戸(銀行預金‐日本円口)        268,565
④8月期末
借:銀行存款―日元戸(銀行預金―日本円口)       43,620
 貸:財務費用―カイ兌損益(財務費用―為替差損益)    43,620
借:財務費用―カイ兌損益(財務費用―為替差損益)   16,185
 貸:応付チョウ款―日元戸(買掛金―日本円口)        16,185

◆期末計上為替差損益
銀行預金:(1000万円×5. 2718/100)-(1000万×4.9487/100+500万×5.1451/100-500万×5.3713/100)=527,180-483,560=43,620元
買掛金:(500万円×5.2718/100)-(1000万×4. 9481/100-500万×4. 9481/100)=263,590-247,405 =16,185元
◆財務費用-為替差損益=‐2,025‐21,160‐43,620+16,185=‐50,620