中国 中国会計税務レポ

[中国会計税務レポ] 企業関連者間取引の特別調整 -同時文書(5)

「BEPS(税源浸食と利益移転)」対応強化の一環として昨年6月に国家税務総局から公布された『関連者間取引申告と同時文書の管理に関する公告』(国家税務総局公告2016年42号。以下「42号公告」といいます。)について紹介しています。今回は同時文書のうち、マスターファイルと特殊事項ファイルの概要を紹介します。

1. マスターファイル

マスターファイルは、42号公告において新たに求められた文書で、税務当局がBEPSを検証するために多国籍企業グループが全世界で行っている事業の状況や移転価格ポリシー、所得や経済活動の配分などの概要を記載するものです。

  1. 準備要件
    年度において◇クロスボーダー取引が発生し、かつ当該企業の財務諸表を連結する最終持株企業の属する企業グループが既にマスターファイルを準備している◇関連者間取引の総額が10億元を超える ―場合に準備しなければならないとされています。
    日系企業グループに属する中国企業においては、日本にある最終持株企業がマスターファイルの作成義務がある場合(注1)、その作成したマスターファイルの中国語版を準備する(注2)のが通常と考えられますが、日本の最終持株会社のマスターファイル作成が不要である場合でも、中国現地法人の関連者間取引額が基準を超えるときには、中国でマスターファイルを作成しなければなりません。
    但し、関連者間取引が国内関連者との取引のみである場合には準備不要とされています。

    (注1) 日本の税制では、直前会計年度の連結総収入金額 1,000 億円以上の多国籍企業グループ(特定多国籍企業グループ)の構成会社にマスターファイル(事業概況報告事項)の作成義務が課されるものとされ、平成28年4月1日以後に開始する会計年度から適用されます。
    (注2) 同時文書は中国語で作成しなければなりません。

  2. 準備期限と提出期限
    企業グルー プの最終持株企業の会計年度終了日より 12カ月内に準備を完了し、税務機関からの要求があった日から30日以内に提出しなければなりません。
  3. 開示内容
    マスターファイルでは、

    • 組織構造
    • 企業グループの業務
    • 無形資産
    • 融資活動
    • 財務及び税務の状況 
    • の開示が求められており、OECD(経済協力開発機構)の「BEPS行動計画13」が求めるマスターファイルや日本の事業概況報告書とほぼ合致しています。

2. 特殊事項ファイル

特殊事項ファイルも42号公告において新たに準備が求められた文書で、

  • コストシェアリング(中国語表記は成本分攤)協議特殊事項ファイル
  • 過少資本(中国語表記は資本弱化)(注3)特殊事項ファイル
  • の2種類があります。

    (注3) 出資に対する配当は税務上の費用とならないことから、国外の関連会社から権益性投資(出資)に代えて債権性投資(有利子融資)を受けることにより税負担の軽減を図っている状況にあること。中国では金融業以外は債権性投資と権益性投資の基準比率は2:1とされています。

    1. 準備要件
      コストシェアリング協議特殊事項ファイルはコストシェアリング協議を締結または実施する場合、過少資本特殊事項ファイルは関連者の債権権益資本比率が基準比率を超えて、独立取引原則に合致することを説明しなければならない場合に準備しなければならないとされています。
      ただし、関連者間取引が国内関連者との取引のみである場合、および事前確認(APA)制度を利用する場合には準備不要としています。
    2. 準備期限と提出期限
      該当年度の翌年6月30日までに準備完了し、税務機関からの要求があった日から30日以内に提出しなければなりません。
    3. 開示内容
      コストシェアリング協議特殊事項ファイルでは、コストシェアリング協議書の副本の他、各参加者への分配方式、その年度における協議への加入・退出の状、コスト総額および構成状況、予想と実際収益との比較などの開示が求められます。過少資本特殊事項ファイルでは企業の返済能力や起債能力に対する分析、企業の資本金など権益性投資の変動状況、関連債券性投資の融資条件、非関連者がその融資条件を受け入れることが可能でかつそれを望むか否かなどの開示を求められています。