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『労働契約の違反・解除に係る経済補償の弁法』の廃止
人力資源・社会保障部は2017年11月24日付で、『労働契約の違反・解除に係る経済補償の弁法』(原文、以下『弁法』と呼称)の廃止を通知した(原文)。
1. 経緯と概要
『弁法』は1994年12月に公布・1995年1月に施行され、施行から既に約23年が経過していた。『弁法』の条項のうち、一部は『労働契約法』(原文、2008年1月1日施行)の関連条項に取って代わられ、また一部は現在の労働関係処理及び経済発展に合致せず、目下の法制化の流れに順応していなかった。以下に『弁法』と『労働契約法』の比較、及び『弁法』廃止後の影響についてまとめた。
2. 新旧法の対照及び『弁法』廃止後の影響
項目名 | 『弁法』 | 『労働契約法』 | 『弁法』廃止後の影響 |
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① 追加補償金の支払い及びその計算基準 | 第3、4、10条に基づき、企業が労働者の給与の上前をはねたり、支払いを遅らせたり、時間外労働給与の支払を拒否したりする場合、また労働者に当地最低賃金基準を下回る給与を支払う場合、及び労働契約解除時に労働者に経済補償金を支払わない場合に、不足部分の25%或は50%を追加で支払わなければならない。 | 第85条に基づき、企業が労働契約又は国家の規定に従わず労働者に給与を支払わない場合、残業代を支払わなかった場合、当地最低賃金基準を下回る給与を支払った場合、及び労働契約の解除・終了時に本法の規定に従った経済補償金を労働者に支払わなかった場合、労働行政部門は労働報酬、残業代或いは経済補償金を所定の期限内に支払うように命じる。労働報酬が当地最低賃金基準を下回る場合、その不足部分を支払わなければならない。期限を過ぎても支払わない場合、使用者企業に支払うべき金額の50%~100%の基準によって労働者に賠償金を支払うように命じる。 | 『労働契約法』の施行後~『弁法』の廃止まで、企業にこれらの状況が存在する場合、労働者から企業に対する25%或は50%の追加補償金の支払要求を支持するかどうかについて、各地の司法部門では多くの争議があった。『弁法』の廃止後、この争議は終了すると考えられる。 |
『弁法』廃止後、25%或は50%の追加補償金の支払は不要になる。但し、労働者が労働行政部門に訴えた場合、『労働契約法』に基づき、労働監察部門が企業に支払を督促し、企業が期限内に支払わない場合、やはり企業は労働者に追加補償金を支払うこととなる。また、追加補償金の計算基準は『弁法』より厳しい(50%~100%)ものとなる。 | |||
②2008年以前・以後の経済補償金計算方法 | 第5、7、8、9条では、労働契約の解除時に企業が労働者に支払う経済補償金の計算方法(満1年毎に1ヶ月の給与を支払う。1年未満の場合は1年として計算する)について規定している。労働契約の当事者が協議して合意に達し、企業が労働契約を解除する場合、及び労働者が業務に耐えられず、研修もしくは職場の調整を経てもなお業務に耐えられない場合は、経済補償金は12ヶ月を越えてはならない。 | 第47条 経済補償金は当該企業での勤務年数によって、満1年毎に1ヶ月の給与を支払うという基準で労働者に対して支払う。6ヶ月以上1年未満の場合は1年として計算する。6ヶ月未満の場合は、労働者に0.5ヶ月の給与を支払う。 | 『労働契約法』の施行後、従業員の勤務年数について2008年以前は『弁法』に基づき、以後は『労働契約法』に基づき分けて経済補償金を計算している。 2008年以前は『労働契約法』が存在しなかったため、『弁法』廃止後も経済補償金の計算方法は変わらず、2008年以前・以後で分けて計算することとなる。 |
労働者の月給が企業所在市級人民政府で公布された本地区の前年度従業員平均月給の3倍以上となる場合、経済補償金の基準は従業員平均月給の3倍で支払い、年数は最高12年。 | |||
③2008年以前の経済補償金計算基数 | 第11条 経済補償金の計算基準は、企業の正常な生産状況下における労働者の労働契約解除前12ヶ月の平均月給を指す。 | 第47条 本条でいう月給とは、労働者の労働契約解除・終了前12ヶ月の平均給与を指す。 | 『弁法』廃止以前において2008年以前の経済補償金は労働者の労働契約解除前12ヶ月の平均月給または企業の月間平均給与のいずれか高い方を計算基数とする観点があった。 『弁法』廃止後、統一的に『労働契約法』第47条の労働者の労働契約解除・終了前12ヶ月の平均給与を計算基数とするようになる。 |
第6、8、9条により労働契約を解除する時、労働者の平均月給が企業の月間平均給与より低い場合、企業の月間平均給与によって支払う。 | |||
④ 労災外の傷病時の医療補助費 | 第6条 労働者が病気或いは労災外負傷になり、労働鑑定委員会を経て、元の業務に従事できず、企業が手配する他の業務にも従事できないと確認されたために労働契約を解除した場合、企業は当該企業での勤務年数によって、満1年毎に1ヶ月の給与を経済補償金として支払うと同時に、6ヶ月間の給与を下回らない医療補助費を支払わなければならない。重病または不治の病に罹る労働者には、医療補助費を増加して支払わなければならない。増加する部分はそれぞれ医療補助費の50%または100%を下回ってはならない。 | 弁法は廃止となるものの、『労働契約制度の実行に係る若干問題に関する通知』(原文、以下『通知』と呼称)第22条において、「6ヶ月間の給与を下回らない医療補助費を支払わなければならない」と規定されているため、今後企業が医療補助費を支払う必要が無くなるわけではない。 但し、重病または不治の病にかかる労働者に増加して支払う医療補助費の金額については『通知』には明確に規定されていない。今後、明確な規定が公布されると思われる。 |
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