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「広東省高級人民法院の労働争議案件の審査における難解問題に関する回答」 についての解釈 (1)

2017年7月19日付で広東省高級人民法院は、「労働争議案件の審査における難解問題に関する回答」(以下『回答』と呼称)を広東省の各人民法院に通知・配布し、同年8月1日より実施開始となりました。これは広東省地域において、具体的な労働争議問題を審理する場合における23件の指導的な意見であり、労働争議案件の審理基準を統一するものとなりました。
今回は、『回答』の実施により企業における労使関係に生じる可能性のある影響について、4回にわたり解説していきます。第1回目は企業に密接に関係しているものについて抜粋して解釈を述べます。

1. 『回答』 第5条

問題: 労働者の要因で雇用者に損失を与えた場合、雇用者は労働契約を解除した後、損失の賠償責任を労働者に追及することは可能か。

回答: 労働者が、労働関係の継続期間中において、故意若しくは重大な過失により雇用者に直接的な経済損失を与えた場合、雇用者が労働関係を解除した後、労働者に一括賠償を請求することについて、裁判所は支持する。労働者が負担する賠償金はその過失程度等の具体的な状況に基づき確定し、且つ雇用者の負うべき経営リスクを労働者に転嫁してはならない。

解釈: 「労働契約法」第90条によれば、雇用者が労働者に要求できる損害賠償責任は、

  1. 労働者の労働契約の違法解除による損失
  2. 約定した秘密保持義務若しくは競業制限義務の違反による損失

の二つのみとなります。即ち、労働契約又は就業規則などに特に定めがない限り、労働者が労働関係継続期間中において故意又は重大な過失により雇用者に直接的な経済損失を与えた場合、労働契約の解除又は終了後、雇用者が労働者にその損失の賠償を要求することには法的な根拠がないと思われます。今回、『回答』第5条により、雇用者に賠償責任を追及する権利が付与されました。また、労働者が負うべき賠償範囲は過失程度に基づき確定されることとなりました。

2. 『回答』 第6条

問題: 労務派遣中の労働者は、残業代の支払について、派遣元企業と派遣先企業に連帯責任を負わせることは可能か。

回答: 「労働契約法」第62条には、残業代、業績ボーナスは派遣先企業より支給すると定められている。但し実務上、労働者の正常勤務時間及び給与と、残業時間及び残業代を明確に見分けることは困難である。労働者の合法的な権益を守るため、裁判所は、労務派遣争議案件中の労働報酬督促案件について、基本給と残業代を明確に区分できない場合、労働者が派遣先企業と派遣元企業に労働報酬の連帯支払責任を追及することを支持する。

解釈: 「労働契約法」92条には、労務派遣元企業が本法律に違反し、派遣労働者に損害を与えた場合、派遣元企業と派遣先企業は連帯賠償責任を負う、と定められておりますが、派遣先企業が法律通りに残業代を支払わない場合に、派遣先企業に対して連帯支払責任の追及ができるかどうかついては明確な規定がありませんでした。『回答』第6条は追求可能と明確に定めており、この問題を解決するものとなりました。

3. 『回答』 第7条

問題: 雇用者が、計画生育規定に違反した理由で労働者との労働契約を解除した場合、労働者は労働契約の違法解除による賠償金を要求することは可能か。

回答: 雇用者が、計画生育規定に違反した理由で労働者との労働契約を解除した場合、裁判所は、労働者が労働契約の違法解除により賠償金を要求することを支持する。但し労働契約、集団労働契約、就業規則等の社内規程に別途約定されている場合を除く。

解釈: 「労働契約法」には計画生育規定に違反した労働者と労働契約を解除できるという規定が無く、また、「女性従業員労働保護特別規定」や「広東省人口計画条例」等の規定にも定められていません。即ち、法律上は、計画生育法に違反した労働者は社会扶養費の納付などの法律責任を負いますが、その違法行為は労働関係とは直接関係のないものです。そのため雇用者が、計画生育法に違反したことを理由として、労働者と労働関係を解除するならば、法的な依拠が無く、違法解雇となります。但し雇用者が、有効な労働契約書、集団契約及び合法的な就業規則等の社内規程に「計画生育規定への違反行為は社内規程への厳重違反と見なし、労働契約の解除対象とする」と明確に定める場合、労働契約若しくは社内規程への厳重違反等の理由により、労働契約を解除することが可能です。

4. 『回答』 第8条

問題: 労働者が、雇用者に「労働契約法」第38条*1第1項の行為が存在したという理由により労働契約を解除する場合、離職時にその離職理由を明確に雇用者に告知すべきか。

回答: 労働者は「労働契約法」第38条第1項に基づき雇用会社と労働契約を解除する場合、離職時に強制解除の離職理由を明確に告知しなければならない。離職時、労働者が、労働契約の強制解除の理由は雇用会社が「労働契約法」第38条第1項の行為が有ったためであるということを告知せずに、離職後に上記強制解除の理由で経済補償金を要請する場合、裁判所は通常支持しない。

解釈: これまで「労働契約法」第38条*1第1項の理由で労働関係を解除する場合、事前告知の義務があるかどうかについて明確な規定がありませんでした。これまでは、

  1. 労働契約法の方針によれば、極端な場合のみ雇用者に事前に告知しなくても良い、即ち、一般状況としての第1項には事前告知義務がある
  2. 法律規定により義務付けられていない以上、労働者は告知義務がない、

という全く異なる二つの主な見方が存在していました。
今回『回答』第8条により、労働者が「労働契約法」第38条第1項の規定に基づき労働契約を解除する場合、離職前に雇用者に対して離職原因と理由を書面にて告知しなければならない、という労働者の告知義務が明確にされました。

注釈:
*1 「労働契約法」第38条 労働者が労働契約を直接解除できる状況
雇用者が次の各号に揚げる事由の一つに該当した場合、労働者は労働契約を解除することができる。
(1)雇用者が労働契約の規定通りに労働保護または労働条件を提供しなかった場合
(2)適時に労働報酬を全額で支給しなかった場合
(3)雇用者が法律に基づき労働者のための社会保険費用を納付しなかった場合
(4)雇用者の規則制度が法律法規の規定に違反し労働者の権益に損害を与えた場合
(5)本法第26条第一項に定められた状況により労働契約が無効になった場合
(6)法律、行政法規で定められている労働者が労働契約を解除することができるその他の状況
雇用者が暴力、威嚇または不法に人身の自由を制限するなどの手段で、労働者に労働を強制的に行わせるとき、または規則に違反して危険な作業を指示するもしくは強制して労働者の人身の安全を脅かす場合には、労働者は雇用者に事前に通知せずに、直ちに労働契約を解除することができる。

記事の内容は、2017年8月に執筆したものです。法規定の変更などにより、現在の状況と異なっている場合がありますのでご留意ください。