中国
中国・雇用形態多様化のキーワード
現状、中国での日系企業などによる従業員の雇用にあたり、自社の従業員は主に正規社員であり、パートタイム(非全日制勤務)等の非正規雇用形態は少なく、製造業などで労務派遣会社と契約した派遣従業員の使用が一部見られる等、雇用形態は非常にシンプルです。労働契約書のひな形には、不定時労働制や総合勤務時間制といった勤務時間の基準が異なる契約条件があるものの、実務的にはこの届出が認められるのは限られた職位や職種となっています。昨今のコロナ禍の労働環境において、労働契約だけではない雇用関係が増加しており、柔軟な雇用関係を前提にした新政策も発布されており、就業機会の増加を促進すると同時に、多様化する雇用形態の下で働く人に対する社会保障の充実が目指されています。以下にいくつかのキーワードをご紹介します。
労務契約
企業と個人が、労働契約法に基づく労働契約ではなく、柔軟に勤務体制や報酬等を定めることができる「労務契約」を締結することがあります。これまで労務契約を適用することが一般的だったのは、従業員が定年年齢に達すると労働契約は終了となります※1が、その後企業が引き続き従業員と協議して勤務継続させる場合などでした。労務契約はその根拠法律となるのが労働契約法ではなく、民法や契約法となり、双方はより平等に、契約条件について協議し約定します。報酬も、労働契約法に基づく必要が無く、法定休暇、残業代、最低賃金、支払い周期等の制約を受けず、社会保険・住宅積立金の加入は非強制となります。契約解除時の離職補償(経済補償金)も双方の約定次第となります。
定年年齢について
中国の法定定年年齢は男性60歳、女性幹部55歳、女性労働者50歳と規定されていますが、特に女性従業員の退職年齢について、幹部であるかどうかの判断をどのように行うかについて、広東省の規定では、『雇用者が労働者と締結した労働契約を依拠とし、元の身分が労働者か幹部かを問わず、労働契約中に確定される現在の職位に準ずるものとし、現在の職場で1年以上勤務する場合、現在の職位によりその身分が労働者職位の者は50歳、管理職位の者は55歳とする』とされています※2。また、近年、女性の定年年齢統一と、男女の定年年齢の段階的引き上げが検討されていますが、“十四五”(第十四期5か年計画)の中で法定年齢の段階的引き上げ計画を4つの原則※3に基づき実施することが発表されています。
※1:労働契約法第四十四条の労働契約を終了する要件の一つとして、(二)労働者が基本養老保険を享受する待遇となる という条項があり、法定退職年齢に達することが養老保険享受の条件である。
※2:粤労薪[1999]114号
※3:「小歩調整」「弾性実施」「分類推進」「統一計画・全体考慮」
雇用のシェア(中国語原文:「共享用工」)
コロナ禍の各種製造業企業が労働者需要の一時的な変動に対応することができるよう、企業間の合作協議により人員余剰の企業が従業員との労働契約関係を維持したまま、人員不足の企業に一時的に労働力資源を融通し、従業員を勤務させることにより、労働者の就業安定化を図るものです。
グループ企業間で一時的に出向させ人事協力支援を行うケースや、工業団地内に設置されるマッチングのプラットフォームを通じて企業間の合作協議により従業員が一時的に出向勤務するケース等があるようです。関連規定※4が発布されており、次のような要点を含みます。
- 企業間のシェア雇用形態を奨励、支持する。
- 企業間で書面契約を締結し、定型の協議書を活用する。
- シェア雇用には従業員も同意することが前提であり、書面の変更協議を締結する。
- シェア雇用の名義で労務派遣を行うことはできない。シェア雇用は企業の雇用維持のために行う労働力資源のシェア行為であり、従業員派遣により利益を獲得する目的を有する労務派遣業務とは異なるものである。
- 労働者が出向先にて労災事故に遭った場合、雇用者は「労災保険条例」第43条第3項に基づき労災責任を負う。但し、雇用者と使用者は補償方法について協議できる。
- 労働者の労働報酬や社会保険、住宅積立金は雇用者より支払・納付する。会社間の協議に基づき労働報酬は使用者より負担することができる。
- シェア雇用の終了と従業員の返還について当事者の約定に準ずる。
※4:人社部「シェア雇用への指導とサービスをより良くすることに関する通知」人社庁発「2020」98号
フリーランス(中国語原文「霊活就業人員」)の社会保障
広東省人力資源と社会保障庁より発布された規定※5では、個人事業者、非全日制従業員※6、新就業形態人員(Eコマース、オンライン車両予約、オンラインフードデリバリー、クーリエ等、新業態プラットフォームで就業しているが、当該プラットフォーム企業と労働関係を構築していない個人)を「フリーランス」として定義し、社会保険加入を促進しています。関連規定の要点は以下の通りです。
- 過去においてはフリーランス対象の養老保険加入のみ可能だったが、今後は企業職員基本養老保険に個人として加入することができる。
- 今後は労災保険に加入することができる。
※5:広東省人社庁「広東省フリーランス服務管理弁法(試行)」 2020年9月1日施行
※6:労働契約法に定められた、時給による報酬を得、一日平均の勤務時間が4時間を超えず、毎週の勤務時間が24時間を超えない雇用形式で、給与支給は15日以内とされ、双方が随時契約を解除でき、企業には経済補償金の支払い義務が無い。
また、退職年齢に達した労働者などが勤務を続ける場合の労災のリスクが問題となっていましたが、労働契約以外の契約形態で勤務する特定の人員に対し労災保険の加入を可能とする規定が広東省では4月から実施されます※7。
- 8種の非労働関係特定人員※8は、労災保険に加入することができる。
- 加入するかどうかは雇用する企業が任意に決定することができる。
- 労災保険のみに加入、労災待遇の享受が可能となる。
※7:《退職年齢に達した労働者など特定人員の労災保険参加に関する弁法(試行)》、広東省人力資源と社会保障庁 広東省財政庁 国家税務総局広東省税務局 2021年4月1日施行
※8:8種の非労働関係の特定人員とは、退職年齢に達した従業員、4級以上の労災手当の受給者、実習生(在校生)、研修生、家政婦、村・社区の委員、新業態就業人員、法的ボランティア組織に募集され特定公益活動に従事するボランティアをいう。