香港

2018年香港税務(改正)(第6号)条例に関する基準詳細及び日中との比較

既に別の記事でも触れていますが、2018年7月13日付で、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development、以下「OECD」)が広く公布している、企業の税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下「BEPS」)対策の最低基準を設置し、移転価格税制の基本原則を税務条例(第112章)の中で成文化した、2018年税務(改正)(第6号)条例が、香港政府の官報に掲載されました。

当該改正条例の下、香港居住者である、特定多国籍企業グループ(multinational enterprise group、以下「MNEグループ」)の最終親事業体(Ultimate Parent Entities、以下「UPE」)は、年間のグループ連結売上高が68億香港ドル以上である場合、各国税務当局間での関連する情報交換協定に基づいた情報交換の実施のため、その居住地の管轄税務局へ国別報告書を提出しなければなりません。

また、移転価格文書の一部として、特定の免除規定を設けられつつも当該免除基準を超える場合は、マスターファイル並びにローカルファイルの作成も必要となる可能性があります。

各項目適用される規定や会計年度など、此度は文章での説明だけではなく、日中との比較も踏まえ、下図の通り、表示しているのでご参考頂けると幸甚です。

概要

日本(OECD加盟) 中国 香港
【改正・対応済み】 マスターファイルと国別報告書の提出義務化、ローカルファイルの同時文書化(平成28 年度税制改正) 【改正・対応済み】中国はOECDパートナーとしてBEPS行動計画に参加し、OECD諸国と同様にBEPS行動計画に基づき移転価格に関する法規を改訂済み。2016年度から国別報告書、マスターファイル、ローカルファイルの移転価格文書の作成が義務付けられている。但し国別報告書は企業所得税確定申告書の添付書類。 2016年10月26日に香港はOECDのBEPS パッケージへの参加要請を受諾し、包括的な枠組みに参加する国・地域の一員として公表済み

国別報告書(CbCR)

項目 日本(OECD加盟) 中国 香港
適用開始時期 2016年4月1日以後開始会計年度 2016年度(2016年1月1日開始)以降の会計年度に適用 OECDのBEPS行動計画に従い、2018年1月1日から開始する会計年度に適用(早期任意提出も有)
提出義務者 連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍グループの最終親事業体等 企業年度関連取引報告書提出義務のある企業のうち、以下のもの

  • 多国籍グループの最終持株企業で前年度の連結売上高が55億元を上回る場合
  • 多国籍グループから国別報告の送信・報告企業として指定されている場合
提出基準は、OECDの推奨基準に従い、連結総収入金額が約68億香港ドル(7.5億ユーロ)以上である場合
提出時期 最終親事業体の会計年度終了の日の翌日から1年を経過する日 会計年度終了から5カ月以内(5月末) 企業所得税確定申告に添付する「企業年度関連取引報告表」の附表として作成する 2018年1月1日以降に開始する会計年度終了の日の 翌日から12カ月を経過する日、 もしくは税務局が指定する期日の早い方
使用言語 英語(要日本語訳) 中国語・英語(それぞれの言語の附表を作成) 英語
罰則等 罰則有 罰則有(税収徴収管理法及び企業所得税法の関連法規に委ねられる) 罰則有(会計事務所等の作成代行業者も対象)
多国間協定 2016年1月27日付け情報交換合 意への署名有 2016年5月に国別報告書の自動的情報交換に関する多国間協定(MCAA)に調印 2017年10月に国別報告書の交換に関する 覚書に署名、香港が包括的租税協定を 締結している国・地域が対象
根拠条文 租税特別措置法66条の4の4 関係者間取引申告と同時文書の管理に関する公告(国家税務総局公告2016年42号) 2018年税務(改正)(第6号)条例
提出・作成判定 連結総収入金額1000億円未満であれば提出義務無 以下の場合には作成が免除される

  • 最終持株企業が中国居住者である場合で、その情報が国家の安全に関わる場合には一部または全部の国別報告書の作成を免除
  • 国家間の情報提供で企業グループの国別報告書が入手できない場合には、中国子会社に直接提出を要求できるが、その企業グループが他の国の規定により国別報告書の作成義務がない場合
連結総収入金額68億香港ドル(7.5億ユーロ)未満であれば提出義務無

マスターファイル

項目 日本(OECD加盟) 中国 香港
適用開始時期 2016年4月1日以後開始会計年度 2016年度(2016年1月1日開始)以降の会計年度に適用 OECDのBEPS行動計画に従い、2018年4月1日から開始する会計年度に適用(早期任意提出も有)
作成・提出義務者 連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍グループの内国法人 以下のいずれかに該当する企業

  • 年度においてクロスボーダー取引が発生し、かつ当該企業の最終持株会社が既にマスターファイルを準備している
  • 年度関連者間取引総額が10億元を超える場合
A)次の3つの条件より2つ以上を満たさない事業体等

  1. 総年間売上が400百万香港ドル以下
  2. 総資産が300百万香港ドル以下
  3. 従業員が100名以下

もしくは、
B)次の4つの条件のうち1つでも満たさない事業体等 関連当事者間における:

  1. 資産取引(金融資産及び無形資産除く)が220百万香港ドル未満
  2. 金融資産取引が110百万香港ドル未満
  3. 無形資産取引が110百万香港ドル未満
  4. その他取引(サービス収入及びロイヤリティ収入など)が44百万香港ドル未満
作成・提出時期 最終親事業体の会計年度終了の日の翌日から1年を経過する日 最終持株企業の会計年度終了日より12か月以内に作成し、税務機関からの要求のあった日から30日以内に提出 2018年4月1日以降に開始する会計年度終了の日の 翌日から9カ月を経過する日、 もしくは税務局が指定する期日の早い方
使用言語 日本語または英語 中国語 英語(中国語でも可)
罰則等 罰則有 罰則有(税収徴収管理法及び企業所得税法の関連法規に委ねられる) IRO上で罰則有
根拠条文 租税特別措置法66条の4の5 関係者間取引申告と同時文書の管理に関する公告(国家税務総局公告2016年42号) 2018年税務(改正)(第6号)条例
提出・作成判定 連結総収入金額1000億円未満であれば提出義務無 日本の最終持株企業がマスターファイル作成不要でも、中国法人の関連者取引額が10億円を超える場合には作成義務あり 上記A)もしくはB)の条件のうち、いずれか1つを満たす場合は提出義務無

ローカルファイル

項目 日本(OECD加盟) 中国 香港
適用開始時期 2017年4月1日以後開始事業年度 2016年度(2016年1月1日開始)以降の会計年度に適用 OECDのBEPS行動計画に従い、2018年4月1日から開始する会計年度に適用(早期任意提出も有)
作成・提出義務者 国外関連取引を行った法人 ※一定(国外関連者との前期の取引金額が50億円未満、かつ無形資産取引金額が3億円未満)の場合には、同時文書化義務が免除される 年度関連取引金額が下記条件のいずれかに合致する企業

  • 有形資産の所有権譲渡金額が2億元を超える
  • 金融資産の譲渡金額又は無形資産の所有権の譲渡金額が1億元を超える
  • その他の関連者間取引の合計金額が4000万元を超える
A)次の3つの条件より2つ以上を満たさない事業体等 ①総年間売上が400百万香港ドル以下 ②総資産が300百万香港ドル以下 ③従業員が100名以下
もしくは、
B)次の4つの条件のうち1つでも満たさない事業体等 関連当事者間における: ①資産取引(金融資産及び無形資産除く)が220百万香港ドル未満 ②金融資産取引が110百万香港ドル未満 ③無形資産取引が110百万香港ドル未満 ④その他取引(サービス収入及びロイヤリティ収入など)が44百万香港ドル未満
作成・提出時期 同時文書化義務あり(確定申告書の提出期限までに作成) 当局の要求から45日以内に提出 当該年度の翌年6月30日までに作成し、税務機関からの要求があった日から30日以内に提出 2018年4月1日以降に開始する会計年度終了の日の 翌日から9カ月を経過する日、 もしくは税務局が指定する期日の早い方
使用言語 特段指定なし 中国語 英語(中国語でも可)
罰則等 推定課税及び同業者調査 罰則有(税収徴収管理法及び企業所得税法の関連法規に委ねられる) IRO上で罰則有
根拠条文 租税特別措置法66条の4⑥ 関係者間取引申告と同時文書の管理に関する公告(国家税務総局公告2016年42号) 2018年税務(改正)(第6号)条例
提出・作成判定 取引金額50億円以上の関連会社取引がある場合は提出義務有 事前確認制度(APA)を利用知る場合は作成不要 上記A)もしくはB)の条件のうち、いずれか1つを満たす場合は提出義務無
その他備考 特に無 以下の場合にはそれぞれ特殊ファイルの作成も義務化された

  • コストシェアリング協議を締結又は実施する場合
  • 過小資本に該当する場合
上記に関連する改正案は、2018年1月10日に立法会に提出され議論後、一部修正有、同年7月4日に承認され、同月13日に発効

弊グループでも移転価格税制に関連するサービスも承っておりますので、上記に該当する可能性がある、もしくは各基準に該当するかどうかの判断が難しいが、ご心配であるなど、何かございましたら、随時ご相談ください。