香港
香港におけるオフショア受動的所得非課税制度
目次
特定の外国源泉(オフショア受動的)所得
最新の国際税務基準においては、ある税管轄区域で優遇税制を享受する納税者は、その税管轄区域内で実質的な経済的実体を持ち、関連する所得及びその税管轄区域での実質的な経済活動との連動性を明確に確立する必要がある。クロスボーダー取引における租税回避と闘い、二重非課税を防止するための国際的な取組みを支援する目的で、香港は、欧州連合(European Union、以下「EU」)が公布したオフショア受動的所得非課税制度に関するガイダンスに従い、オフショア受動的所得非課税(Foreign-sourced Income Exemption、以下「FSIE」)制度を修正することを約束した。
2022年税務(改正)(特定の外国源泉所得に対する課税措置)法案(以下「修正法案」)が2022年10月28日に官報で公示され、2023年1月1日からの施行を目論みつつ、香港のFSIE制度に新たな枠組みを提供するために、2022年11月2日に立法会へ提出された。当該修正法案は、税務条例(第112章)(以下「IRO」)を修正し、特定のオフショア受動的所得を香港で発生した、または香港から派生したものとみなし、特定のオフショア受動的所得に対する二重課税の救済措置を規定することを目的としている。
対象となる収入
特定のオフショア受動的所得とは、香港以外の区域で発生した、または香港以外の区域から派生した次の所得のいずれかを指す:
- 利子収入
- 配当
- 株式持分の売却から生じる処分益(以下「譲渡益」)
- 知的財産権に派生する(Intellectual Properties、以下「IP」)収入
ただし、特定のオフショア受動的所得には、規制対象の金融機関として、規制対象の事業を行うことにより稼得する利子収入、配当及び譲渡益は含まれない。
規制対象の金融機関には以下が含まれる:
- 保険業条例(第41章)に準拠して認可された保険会社、ロイズまたは認定されたアンダーライター協会;
- 銀行業条例(第155章)の第2(1)条において定義されている認定機関; 並びに
- 証券及び先物条例(第571章)の第V部に準拠して認可され、同条例の附表5第1部で定義されている規制対象活動を行う事業体。
対象納税者
多国籍企業(Multinational Enterprise、以下「MNE」)グループが、積極的なタックスプランニング戦略を採用するインセンティブが大きくなり、その結果、税源浸食及び利益移転のリスクが高まることより、新しいFSIE制度は、MNEグループのメンバーのみを対象としている。当該修正法案は、次の通り定義解釈を列挙している:
単語 | 意味 |
---|---|
MNE事業体 | 多国籍企業グループもしくは多国籍企業グループに含まれる事業体である、またはその代理として活動する人格、並びにこれらに除外されない事業体 |
事業体 | 法人(自然人を除く)、またはパートナーシップや信託等の個別の財務元帳を作成し保有する取決め(組合) |
MNEグループ | グループの最終親会社の税管轄区域に所在もしくは設立されていない、少なくとも1つの事業体または恒久的施設を含むグループ |
グループ |
|
除外事業体
香港の既存の優遇税制の恩恵を受けるMNE事業体は、除外事業体と見なされ、新しいFSIE 制度の範囲から除外される。これは、優遇税制の実質的な活動要件が、新しいFSIE制度の経済的実体要件と大きく重複するという事実によるためである。
注: EUの最新の提言に照らし、香港政府は、除外事業体に関する修正法案を委員会段階の審議へ移行する予定である。当該委員会段階の修正法案の詳細については、「Bills Committee on Inland Revenue (Amendment) (Taxation on Specified Foreign-sourced Income) Bill 2022」を参照。
特定の国外源泉(オフショア受動的)所得の取扱い
みなし規定
新しいFSIE制度の下では、以下に該当する場合、特定のオフショア受動的所得は香港に源泉があるものとみなされ、法人利得税の課税対象となる:
a. 総収入や資産規模等に関係なく、香港で商取引、専門業の提供、もしくは事業を行っているMNE事業体が香港において所得を受け取っている場合; そして、
b. オフショア利子収入、配当並びに譲渡益に対しては、対象納税者が経済的実体要件(Economic Substance Requirement)満たしていない場合、一方で、IP収入に対しては、ネクサス要件(Nexus Requirement)を遵守していない場合、または、配当及び譲渡益に対し、資本参加免税要件(Participation Requirement)を満たしていない場合。
発生年度及び受領年度
特定のオフショア受動的所得がMNE事業体に対して発生しており、その査定年度(すなわち発生年度)において、経済的実体要件、資本参加免税要件もしくはネクサス要件(ケースバイケースで)が満たされている場合、当該所得に対する法人利得税が免除される。MNE事業体がこれら全ての適用除外規定に対し税制適格とならない場合、特定のオフショア受動的所得は、香港のMNE事業体が実際に対象となる所得を香港にて受領する査定年度(すなわち受領年度)において、法人利得税の課税対象となる。
源泉地主義課税との相互作用
利益の源泉地の決定は、経済的実体要件の導入によって影響を受けることはない。利益の源泉と経済的実体要件は別々に検討されるものであり、前者は引続き、IROの既存の規定及び判例に基づく広範な指針と原則に基づき、決定される。
IRO の他のみなし条項との相互作用
特定のオフショア受動的所得が、IRO第15条もしくは第15F条に基づき課税対象となる場合、その所得は新しいFSIE制度の対象外となる。
香港で受け取った収入
特定のオフショア受動的所得は、以下の場合に香港で受領したものとみなされる:
- 収益が香港に送金された、移転されたもしくは持ち込まれた場合;
- 収益が香港で行われる商取引、専門業または事業に関連し発生した負債を返済するために使用される場合; あるいは
- 収益が動産の購入に使用され、その動産が香港に持ち込まれた場合。当該収益は、当該動産が香港に持ち込まれた時点で受け取ったものと見なされる。
みなし規定の例外
MNE企業体が、特定の種類の所得に関し例外要件を満たしている場合、香港で受け取った特定のオフショア受動的所得は課税されない。関連する例外要件は次の通りである:
例外要件 | 特定のオフショア受動的所得 | |||
---|---|---|---|---|
利子収入 | 配当 | 譲渡益 | IP収入 | |
経済的実体要件 | ✓ | ✓ | ✓ | |
ネクサス要件 | ✓ | |||
資本参加免税要件 | ✓ | ✓ |
例外1: 経済的実体要件
MNE事業体が香港において受け取るオフショア利子収入、配当もしくは譲渡益は、その所得が発生する査定年度の経済的実体要件が満たされている場合、引き続き法人利得税が免除される。
(A) 純粋持ち株会社
意味 | 以下の事項のみを行うMNE事業体:
|
---|---|
経済的実体要件 | MNE事業体は以下の事項を行う必要がある:
|
特定の経済活動 | 他の事業体への出資の保有(資本参加)及び管理 |
(B) 非純粋持ち株会社
意味 | 純粋持ち株会社ではないMNE事業体 |
---|---|
経済的実体要件 | MNE事業体は以下の事項を行う必要がある:
事業の形態は業界によって異なるため、経済的実体要件の最小閾値を設定することは実行可能でも適切でもない。ケースバイケースで独自の事実及び状況に基づいて検討され、勘案される要素には次の項目がある:
|
特定の経済活動 | 事業体が取得、保有または処分する資産に関して必要な戦略的決定を行い; その資産に関する主なリスクを管理し引き受ける。 |
特定の経済活動のアウトソーシング
経済的実体要件により、MNE事業体は特定の経済活動の一部もしくはすべてを外部委託することが可能である。本文中におけるアウトソーシングには、第三者もしくはグループ事業体へのアウトソーシング、サービス契約の締結、または業務委託が含まれる。なお、特定の経済活動のアウトソーシングは、経済的実体要件を回避するために使用されるべきではない。
アウトソーシング要件
経済的実体要件を満たす目的で、MNE事業体は、次の要件を満たす場合、特定の経済活動を外部委託先の事業体にアウトソーシングすることが可能である:
- 特定の経済活動が外部委託された事業体によって香港で実施されている;
- MNE事業体は、アウトソーシングされた特定の経済活動が、香港の外部委託された事業体によって実行されることを確保するために適切かつ十分な監督を行っている;
- 外部委託された事業体は通常、移転価格規則の適用を条件として、遂行された特定の経済活動に対して、MNE企業体に手数料を請求している;
- 雇用されている資格を有する従業員の数と、香港の外部委託された事業体によって発生した運営費の額が、外部委託された事業体によって行われた特定の経済活動のレベルに見合っている; 並びに
- 外部委託先が複数の多国籍企業にサービスを提供している場合、二重カウントがあってはならない。
特定の経済活動が外部委託されている場合、事務所施設及び人的資源 (純粋持ち株会社の場合) に関連する適正テストが満たされているかどうか、または、適格な従業員及び運営費(非純粋持ち株会社の場合)に関連する適正テストが満たされているかどうか、を判断する際に、香港のサービスプロバイダーのリソースが考慮される。
MNE事業体は、サービスプロバイダーが使用するリソースの具体的な詳細を含め、税務申告書上で報告される情報の正確性に対し責任を負う。
外部委託活動に対する適切なモニタリング
アウトソーシングされた特定の経済活動を監督する場合、MNE事業体は、アウトソーシングされた事業体が、香港で関連する活動を実行する能力を持っていることを確認する必要がある。考慮すべき事項は次の通りである:
- アウトソーシングされた事業体が、MNE事業体のために行う特定の経済活動の性質とレベル;
- アウトソーシングされた事業体が、香港でアウトソーシングされた活動を遂行するために十分な数の従業員を雇用しているかどうか;
- アウトソーシングされた事業体が、香港でアウトソーシングされた活動を実行するために十分な金額の運営費を負担しているかどうか;
- アウトソーシングされた事業体がアウトソーシングされた活動に従事するための事務所施設を香港に持っているかどうか; 並びに
- 外部委託先がサービスを提供するMNE事業体の数。
例外2: ネクサス要件
外国を源泉とするIP収入に関しては、かかる収入が法人利得税から免除されるかどうかの範囲を決定するために、ネクサス要件が適用される。つまり、適格な知的財産から得られる所得の特定の部分(適格IP収入)は、法人利得税が免除され、その部分は「例外部分」と呼ばれる。
ネクサスの要件とは
ネクサス要件とは、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development、以下「OECD」)が、2015年に公布された税源浸食及び利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下「BEPS」)に取り組むための行動パッケージ(BEPS行動5報告書)の行動5の下で最低基準として採用したネクサスアプローチを指す。ネクサスアプローチは、OECDの有害な税慣行に関するフォーラム(OECD Forum on Harmful Tax Practices)によって採用され、個々の税管轄区域によって導入されたIP収入に対する優遇税制の有害性を評価している。BEPSに関する包括的枠組みの加盟国であり、IP課税制度を有するすべての税管轄区域は、ネクサスアプローチを採用するか、準拠していない制度を廃止している。
ネクサスアプローチでは、IP資産を開発するために納税者が負担した総支出の割合を適格支出として定義するネクサス比率に基づいて、適格IP資産からの収入のみが優遇税制の対象となる。研究開発(R&D)費の割合は、実質的な経済活動を表す指標であり、優遇税制を享受する収入と、その収入に貢献する支出との間に直接的な関連性があることを確認しようと設計されたものである。
新しいFSIE制度の下では、ネクサス要件に関連する規定は、BEPS行動5報告書の第4章に規定されている要件及びガイドラインへの準拠を最もよく確実に保証する方法で解釈される必要がある。
適格IP収入とは
適格IP収入とは、以下に関する適格な知的財産(IP資産)から得られる所得を指す:
a. IP資産の展示もしくは使用、または展示するもしくは使用する権利 (香港内外を問わず); あるいは、
b. IP資産の使用 (香港内外を問わず) に直接的もしくは間接的に関連する知識を提供する、または提供することを約束すること。
適格IP資産とは
「適格IP資産」とは、以下を指す:
- 専利条例(第514章)の下で付与された特許;
- 第514章の下で行われた特許出願;
- 版権条例(第528条)に基づくソフトウェア内に存在する著作権; あるいは
- 香港以外の如何なる場所の法律に基づいて付与、出願または存続する上記の知的財産権の何れか。
R&D比率とは
修正法案における「R&D比率」の定義は、BEPS行動5報告書で言及されているネクサス比率に基づいている。R&D比率は、次の算式に従って計算され、100%を上限としている:
F = QE × 130%QE + NE
公式中:
FはR&D比率を指し;
QEは適格IP収入が関連する適格IP資産に関して発生した適格R&D支出を指し;
NEは同じ適格IP資産に関して発生した非適格な支出を意味する。
R&D比率は、MNE事業体が受け取った適格IP収入の例外部分を計算するために使用される。これは、次の算式に従って決定される:
P = I × F
公式中:
Pは例外部分を指し;
Iは適格IP収入を指し;
Fは適格IP収入に適用されるR&D比率を意味する。
R&D比率を決定するためのR&D支出とは
所得に関連する適格IP資産に関するR&D比率を確認する目的で、R&D支出(設備投資を含む)は次のように分類される:
R&D費 | QE* | NE* |
---|---|---|
実施されたR&D活動 | ||
・MNE事業体による | ✓ | |
・非関連者による | ✓ | |
・香港居住者である関連者による | ||
- 香港内で | ✓ | |
- 香港外で | ✓ | |
・香港非居住者である関連者による | ✓ |
* QEには利子の支払い、如何なる土地や建物の支払い、または如何なる建物の改装、追加もしくは拡張及びIP資産の取得に対する支払いは含まれない。NEには、利子の支払い、如何なる土地や建物、または如何なる建物の改装、追加もしくは拡張に対する支払いは含まれない。
経過措置
経過措置として、MNE事業体は、適格支出と総支出が3 年間の移動平均に基づいて計算される比率を適用することが許可されている。これは、納税者がネクサスアプローチの一般原則に準拠しながら、追跡及び追跡要件に適応するための十分な時間を確保することを目的としている。3年間の移行期間の後、MNE事業体は、3年間の平均比率の使用からR&D比率への移行が必要となる。
2023年1月1日から2024/25年度の査定年度の基準期間の最終日までの期間中、適格IP収入がMNE事業体に発生し、そのMNE事業体がR&D支出を追跡及び追跡してR&D割合を計算するのに十分な記録を持っていない場合、当該経過措置の利用が可能である。
読者は、BEPS行動5報告書の付属書Aに記載されている追跡及び追跡のための経過措置の例を参照可能である。
外国源泉の適格IP収入に関して生じた損失
MNE事業体が、査定年度に法人利得税の課税対象となる適格IP収入を受け取り、その収入に関連する適格IP資産に関して損失を被った場合、損失の適格部分(適格IP収入の例外部分)は、その査定年度のMNE事業体の課税対象所得との相殺が許容される。相殺されなかった損失部分は、IROの第19C条に従って、その後の査定年度におけるMNE事業体の課税対象所得に対して、繰り越して相殺することができる。
特許出願の取下げ、放棄及び拒否の効果
第514章または香港以外の場所の法律の下、特許出願から得られた適格IP収入の例外部分は、ネクサス要件の運用の結果として査定年度に法人利得税を課されず、その後の査定年度において、特許出願が取り下げ、放棄もしくは拒否された場合、所得の除外された部分は、翌査定年度の香港で受け取った特定の外国所得として扱われ、法人利得税の対象となる。
例外3: 資本参加免税要件
資本参加免税要件は、香港で外国源泉の配当または譲渡益を受け取ったMNE事業体が免税を申請することを容易にするために、経済的実体要件に代わるものである。
資本参加免税要件の条件
- MNE事業体が香港居住者である、または香港非居住者である場合、外国源泉の配当もしくは譲渡益が帰属する恒久的施設を香港に有しており; かつ
- MNE事業体は、外国源泉の配当もしくは譲渡益が発生する直前の12ヶ月以上の期間、当該投資先企業の株式持分の5%以上を継続的に保有している。
資本参加免税措置の濫用を防止するために、特定の濫用防止規則を設けている。関連する規則は次の通りである:
スイッチオーバールール(課税条件あり)
- 特定のオフショア受動的所得が譲渡益である場合、資本参加免税措置は、その譲渡益が香港以外の区域(外国の税管轄区域)で同様の適格な課税対象となる場合にのみ適用される。
- 特定のオフショア受動的所得が配当である場合、資本参加免税措置は、次の金額のいずれかが外国の税管轄区域で同様の適格な課税対象となる場合にのみ適用される:
a. 配当; または
b. 配当が支払われる基礎となる利益 - 次の場合、上記合計額は外国の税管轄区域で同様の適格な課税対象と見なされる:
a. その合計額が、外国の税管轄区域において、法人利得税と実質的に同じ性質の税金(外国税)の対象となる; 並びに
b. その合計額に適用される税率(適用税率)が15%以上であること。 - 適用税率とは、事業所得としての合計額に外国税が適用される、外国の税管轄区域の法人税率を指す。その合計額が発生する時点で外国税が課税対象である場合、適用税率はその時点で適用される外国の税管轄区域の法人税率となる。その合計額が発生する課税期間に外国税が課税される場合、適用税率はその課税期間に適用される外国の税管轄区域の法人税率となる。
- 適用税率は、必ずしも外国の税管轄区域の法定税率であるとは限らない。特定のオフショア受動的所得が外国の税管轄区域で優遇税率の対象となる場合、適用税率はその所得に適用される優遇税率となる。特定のオフショア受動的所得が複数の税率で外国税の対象となる場合(例: 累進法人税率)、該当する税率は、その所得に適用される最も高い法人税率になる。
- 次の例は、課税対象条件がどのように適用されるかを示している:
状況 所得は税管轄区域Aで同様の適格な課税対象となるか? 外国源泉の配当は、税管轄区域Aで法人所得税が20%の法定税率で課される。 はい、その所得は税管轄区域Aでは法人利得税と同様の税が実際に課税され、適用される税率は15%を超えているため。 外国源泉の配当は、税管轄区域Aでは非課税である。税管轄区域Aの法定税率は20%である。 いいえ、税管轄区域Aではその所得に対して課税されないため。 外国源泉の譲渡益は、税管轄区域Aの優遇税制の下で、税管轄区域Aで10%の法人所得税が課される。税管轄区域Aの法定税率は20%である。 いいえ、税管轄区域Aで適用される税率(つまり、優遇税制の下で課される税率)は15% 未満であるため。 外国源泉の譲渡益500万香港ドルは、累進課税制度の下で税管轄区域Aの法人所得税が課せられる。この制度の下では、最初の200万香港ドルの所得は10%で課税され、残りは20% で課税される。 はい、その所得に適用される最高の法人所得税率が15%を超えているため。 - MNE事業体が資本参加免税要件を満たしているが、外国源泉の配当または香港で受け取った譲渡益に関する課税条件を満たしていない場合、当該収入に関して利用可能な税控除は、全額免除方式から税額控除方式に切り替えられる。言い換えれば、MNE事業体は、関連する収入に関係なく、引き続き法人利得税の対象となるものの、関連する収入及び基礎となる利益/収益に対して支払われた外国の法人所得税が控除される。
アンチハイブリッドミスマッチルール
特定のオフショア受動的所得が配当であり、香港以外の区域における配当の基礎となる利益に対して課税される場合、資本参加免税措置は、投資先企業の税額を計算する際に配当が控除できる範囲では適用されない。
主要目的ルール
- 税務局局長の意見として、取り決めを締結する主たる目的、または主たる目的の1つが、法人利得税の納付義務に係る税制上の優遇措置を取得することである場合、資本参加免税措置は適用されない。
- 経済的現実を反映する正当な商業的理由に基づいていない取り決めまたは一連の取り決めは、非正規と見なされる。
- 上記の「主たる目的の1つ」への言及は、税制上の優遇措置を取得することが、特定の取り決めの唯一もしくは主要な目的である必要はないことを意味する。取り決めには複数の主たる目的がある場合があり、たとえそれが主要な目的ではなかったとしても、そのうちの少なくとも1つが税務上の優遇措置を享受できれば十分である。以下を含む、関連するすべての事実及び状況が勘案される必要がある:
- 配当が支払われる基礎となる利益;
- 取り決めが構築された方法;
- 取り決めの条件;
- 取り決めが実行される方法;
- 取り決めが達成しようとした、もしくは達成した結果;
- 取り決めの非課税目的、及び非課税目的を達成できる代替方法;
- 取り決めの形式(すなわち、取り決めから生じる契約上の権利及び義務)並びに実質的内容(すなわち、実際的及び商業的な最終結果);
- 取り決めにおける各事業体の機能、資産及びリスク; そして、
- 同様の取り決めを締結する、独立した人格間で通常発生される契約上の権利と義務、並びに通常締結される商業的及び金銭的関係。
持分売却による損失
MNE事業体が香港以外の区域の別の事業体に対する持分を売却した際に被った損失は、香港で売却代金が受領された査定年度の課税所得と相殺可能となるケースがある。しかしながら、売却から得られた利益が香港で受領された場合に適用され、その利益は新しいFSIE制度の下で法人利得税の課税対象であることが、この規則適用の条件となる。
相殺されなかった損失額は、IROの第19C条に従い、その後の査定年度におけるMNE事業体の課税所得に対して、繰り越して相殺することができる。
当該損失は、関連する課税対象所得が、新しいFSIE制度の下で法人利得税の課税対象となる特定のオフショア受動的所得から得られる範囲でのみ相殺することができる。
特定の外国源泉(オフショア受動的)所得に係る課税所得の計算
特定のオフショア受動的所得が、香港で受領した査定年度に課税対象となる場合、当該所得の創出において発生した支出もしくは費用は、いずれの査定年度についても控除されていない限り、受領した査定年度に発生したものとして控除することが可能である。
特定のオフショア受動的所得の創出に関連する所得控除額もしくはバランシングチャージもまた、香港で当該所得が受領される査定年度のMNE事業体の課税所得を計算する際に考慮される。
二重課税の軽減措置
MNE事業体が、法人利得税の課税対象となる外国源泉所得を特定し、香港以外の区域において法人利得税と実質的に同じ性質の税金(類似する租税)を支払った場合に、その区域が香港との二重課税防止協定(Comprehensive Avoidance of Double Taxation Arrangement、以下「CDTA」)に署名しているかどうかに関係なく、二重課税の軽減措置を受ける権利がある。税額控除の上限は、支払われた外国税と同じ所得に対して支払われるはずだった法人利得税のうち、いずれか低い方となる。
CDTAに基づく税額控除
CDTAが締結された香港以外の区域(CDTA区域)で特定のオフショア受動的所得に対して支払われる同様の税金については、関連するCDTAに基づく二国間の税額控除が、MNE事業体が香港居住者である場合に付与される。
CDTA区域と非CDTA区域で支払われた外国税を一貫した取り扱いで調整するため、外国源泉の配当が支払われた基礎となる利益に関して、CDTA区域で支払われる同様の税金が二国間の税額控除として認められない場合、外国源泉の配当にかかる法人利得税に対する片務的税額控除として認められる可能性がある。
片務的税額控除
非CDTA区域の特定のオフショア受動的所得に対して支払われる同様の税金に対して、MNE事業体が香港居住者である場合、片務的税額控除が適用可能である。許可された税額控除は、関連する特定の国外源泉所得に対して支払われるべき法人利得税と相殺される。すなわち、香港で受け取った所得に対して片務的税額控除が提供される。また、特定のオフショア受動的所得が新しいFSIE制度の下で、法人利得税を免除されている場合、あるいは非CDTA区域で納付した税金が特定のフショア受動的所得と関係がない場合、当該税額控除は認められない。
特定のオフショア受動的所得が配当である場合、税額控除は、配当に対して支払われる外国税だけではなく、配当が支払われる被投資企業の基礎となる利益に対して支払われる外国税についても認められる。MNE事業体は、配当が分配される時点で被投資企業の株式持分を少なくとも10%保有していることを条件とし、当該措置を利用可能である。
経費として差引控除
MNE事業体が香港居住者ではない場合、香港において法人利得税が課される特定のオフショア受動的所得に対して支払われた外国税は、、IRO の第16条(1)(ca)に基づく費用控除として認められる可能性がある。
納税者の義務
MNE事業体は、次の事項を行う必要がある:
- 特定のオフショア受動的所得を、税務申告書及びその所得が発生した査定年度の所定のフォームで申告;
- 課税対象となる特定のオフショア受動的所得の金額を、その所得が香港で受領された査定年度の税務申告書及び所定のフォームで申告;
- 該当する査定年度の税務申告書が発行されていない場合、香港で当該所得が受領される査定年度の基準期間終了後4ヶ月以内に、法人利得税が課されることを税務局局長へ書面で通知;
- 第514章もしくは香港以外の区域の法律に基づいてなされた特許出願が撤回、放棄または拒否され、適格IP収入の例外部分が、査定年度の前年度における法人利得税の課税対象とはならないと見なされた場合、査定年度の基準期間終了後4ヶ月以内に書面で税務局局長へ通知; 並びに
- 特定のオフショア受動的所得に関連する取引、行為もしくは業務の記録を、それらの取引、行為もしくは業務の完遂後少なくとも7年間の満了日、あるいは香港で対象となる所得を受領した、または受領したと見なされてから7年間の満了日のうち、いずれか遅い方まで保管。
経済的実体要件の遵守に関する税務局局長の意見
新しいFSIE制度の実施に備え、税の明確性を確保するために、修正法案の官報公告後に経過措置が導入されている。新しい制度の影響を受けるMNE事業体は、経済的実体要件を満たしているか否かについて、税務局局長の意見を求める申請が可能である。修正法案の制定後、MNE事業体は、経済的実体要件の遵守について、事前裁定を取得することを奨励している。
特定のオフショア受動的所得に関する詳細情報
税務条例
- 修正法案
- よくある質問
新しいFSIE制度に関するよくある質問と回答は「New FSIE Regime – Frequently Asked Questions」を参照。 - 実例
新しいFSIE制度の実例は「Illustrative Examples」を参照。
OECDの資料
EUの資料
問い合わせ等
新しいFSIE 制度に関してご質問がある場合は、電話番号(852) 2594 1600またはメールtaxpf@ird.gov.hkまで問い合わせが可能である。
原文:Foreign-sourced Income Exemption、2022年11月11日更新