中国 有備無患(備えあれば憂いなし)

[有備無患] 中国人従業員が急な入院、その時‥

中国での現地法人運営では、数々のトラブルが襲ってきます。予期せぬトラブルに対して臨機応変に対応する柔軟性は重要ですが、「備えあれば憂いなし!」事前に予想が出来ていれば、対応もスムーズにいくものです。今後3ヵ月に渡って、実際の事例を含めて皆様が出会うトラブルの実態や対処方法等を提案させて頂きたく思います。

さて、1回目の今回ですが、従業員の急な職場からの離脱に関してご紹介させて頂きます。

事例1.出納担当者が体調不良で出社できない

出納担当者が、急な体調不良により出社できない状態となる。銀行基本口座からの現金引出業務は出納担当者が行っており、且つ銀行への現金引出者登録も出納担当者のみとなっていたため、現金の引き出しが出来ず苦労する。

銀行での現金引き出しには、事前に銀行へ登録した担当者が、身分証明証を持参して窓口を訪問します。上記事例企業の場合、出納担当者のみが銀行に登録されていたため、総経理等が窓口を訪問しても現金引出が認められず、登録が完了するまでの二週間、細かい費用の支払いや従業員の費用精算に支障が生じました。

対策

出納担当者と銀行間の業務においては、必ず部門責任者等も予備に登録を行い、万が一の場合に備える必要があります。また、銀行での個別取引におけるIDやパスワード設定時には、出納担当者のみで保管するのではなく、会社全体で認識を行う必要があります。

◇病気休暇について

(1)病気療養中の給与

広東省の給与支給規定では、病気療養休暇中の給与について「当地最低給与基準の80%を下回ってはならない[1]」となっております。

(2)労働契約の解除

労働契約法やその他関連規定に基づいた一定の医療期間内においては、企業から労働契約を解除することはできません。労働契約の解除が認められない医療期間は以下のようになります。

現在の企業での勤務期間
5年未満 5年~10年 10年~15年 15年~20年 20年以上
就業期間

(前職も含む社会経験)

10年未満 3ヵ月 6ヵ月
10年以上 6ヵ月 9ヵ月 12ヵ月 18ヵ月 24ヵ月

事例2.会計担当者が妊娠中毒症で入院

会計担当者の妊娠により後任の採用活動中に、重度の妊娠中毒症により急な入院を余儀なくされる。会計処理は「就業資格証」の保有者が行う必要があるが、社内には資格保有者が存在しなかったため会計処理が滞る状況が発生した。

入院のタイミングが月初であり、前月度の会計処理が完了しておらず、且つ毎月15日の税務申告期限にも日が迫っていたため、会計担当者の退院を待つ日程的余裕もなく、最終的には外部会計事務所等の代行補助を受けることとなりました。

対策

(1)会計担当者の必要資格

中国の会計担当者は、「会計就業資格」を保有していることが義務付けられています。企業に複数の資格保有者が在籍していれば、急な事態にも対応を採ることが可能となるため、出納担当者や総務担当者等にも資格取得を進めることも宜しいかと思います。また、企業規模によっては、会計事務の外部委託も一考かと思われます。

(2)会計業務の必要データ

会計ソフトにはパスワードの設定を要求されることが多くあります。また、税務申告業務もインターネットを通じた申告が主流となり、企業IDやパスワードを以て納税処理を進める場面が多くあります。通常は会計担当者のみが扱う業務であるため、関係するIDやパスワードを会計担当者が単独で管理を行っている状況が多く見られますが、会社として保管することを考える必要があります。

(3)日頃の会計処理

退職等により会計担当者が交代する場面であっても、会社に会計制度が完備されており、且つ日頃の会計処理も会社会計制度に基づいて実行されていれば、同一会計事象に対する処理方法の相違という事態は起こりません。但し、会計処理を担当者独自の判断に任せて行っている場合、引継ぎの前後で異なる基準による会計処理が行われる可能性があり、企業経営実績の年度比較判断に誤りをもたらす可能性があります。

会社の会計制度を策定して、且つ当該制度に従った会計処理を実行させることが、いざという時のためにも重要となります。

◇ 中国の産休制度

中国では、「労働契約法」や「女性職員労働保護規定」等により、妊娠期間や授乳期間(出産後一年間)の女性職員に対する待遇に関して以下のように規定されています。

(1)産休期間

休暇名称 日数 備考
(通常の)出産休暇 90日 出産前15日+出産後75日

※ 出産前休暇取得が15日以下の場合、出産後に振り替えることができる

非若年出産休暇 15日 満23才以上での第一子出産
多胎出産休暇 15日 一人につき15日
難産休暇 15日 帝王切開等での出産
流産時 15日~30日 妊娠4ヵ月未満
42日 妊娠4か月以上

(2)妊娠、及び授乳期間の労働契約

妊娠期間や授乳期間中は、当該従業員との労働契約を解除することは禁止されています。また、上記期間中に契約期間が満期を迎える場合でも、授乳期間が終了するまでは労働契約は強制的に継続となります。また、妊娠や授乳期間中に基本給与を下げる等の行為も併せて禁止されています。

(3)産休中の給与支給

上記の産休期間中も、産休中の従業員への給与支給義務があります。また、給与は産休前と同様とする必要があるため、職能手当等を別途支給していた場合には当該手当部分も支給することになります。

なお、産休期間中の支給給与は、原則として社会保険の一つである「生育保険」より補助されることとなります。企業では通常通りに給与を払いますが、事後的に出産証明資料等を政府社会保険部門へ提出して生育保険享受の申請を行うことにより、支給した給与の補助を受けることができます。

※ 但し、保険の支給金額には限度額があるため、従業員の給与が限度額以上である場合には、差額を企業が負担することになります。

以 上

[1]市レベルで別途の規定がある場合があります。深セン市では、本人給与額の60%を下回ってはならないという条項が存在します。