香港 移転価格税制
香港政府が税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約発効への立法過程を開始
税務(税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多国間条約)命令が9月30日付で官報にて公布され、Negative Vetting(施行後審議)のため、10月19日に立法会に提出される予定である。当該命令により、香港は、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development、以下「OECD」)によって、税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下「BEPS」)対策パッケージを実施できるようになる。
BEPSとは、多国籍企業が各国の税制や国際課税ルールの相違やズレを利用して、実質的な経済活動がほとんどもしくは全く行われていない中で、低税率または非課税となる場所へ課税所得を人為的に移転する脱税・租税回避行為を指す。香港は、2016年6月にOECDに対し、BEPSパッケージの実施にコミットすることを示した。これに含まれる租税条約に関連する措置として、包括的二重課税防止条約/協定(Comprehensive Avoidance of Double Taxation Agreements/Arrangements、以下「CDTAs」)の濫用防止と、CDTAsに規定される紛争解決メカニズムの改善策が存在する。
OECDによって制定された税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多国間条約(Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent Base Erosion and Profit Shifting、別名「BEPS防止措置実施条約」、以下「MLI」)は、多国間にまたがる租税条約関連BEPS措置の、迅速かつ同調的に一貫した実施を確実にすることを目的としている。これにより、関連する租税条約の状況を断片的に修正するような、税管轄区域間における煩雑な二国間租税条約交渉を遂行する必要性を回避できる。2022年9月16日の時点で、香港を含む99の国や地域が当該MLIに加盟している。
2016年末頃、提唱されたBEPSパッケージの実施に関連する措置について公開協議会を開催した際、香港政府は、二国間租税条約を個別に修正する必要性を回避し、納税者に対して明確な課税の確実性を提供するため、当該MLI自体を修正し適用することを支持するフィードバックを受けた。
中国は2017年に当該MLIの署名国となり、2022年5月に当該MLIの批准書をOECDへ寄託した。中国中央人民政府は、香港特別行政区政府との協議の中で見解を求めた後、当該MLIの適用範囲を香港まで拡大した。当該MLIの条項は、中国国内の立法手続が完了した時点で、香港においても同時に発効する。
香港は、今後当該MLIの対象となる予定の条約/協定として、貿易相手国と署名締結した39のCDTAsを挙げている。香港が署名しているの残りの6つのCDTAsは、既にBEPS要件に準拠している条項が組込まれているため、ここでは含まれていない。対象となる租税条約/協定に関し、当該MLIの条項は、早ければ2023年4月1日(源泉徴収税の場合)に、または224年4月1日(その他の税項目の場合)に香港において発効する予定で、実際の発効日は、香港との租税条約/協定締結パートナー国による、当該MLIの立法過程並びにその他の関連手続の完了が条件となる。
当該MLIが、香港の個々のCDTAsに及ぼす影響について、利害関係者各位の理解を促すため、香港税務局は、当該MLIに基づいて、対象となるCDTAsが何時どのように修正されるかに係る情報をウェブサイト上で公開する予定である。