香港 源泉主義の名の下に

[香港の確定申告] 法人利得(所得)税の申告と計算について(2)

今回は、一般的に申告する必要がある所得、及び控除項目について解説していきます。まず、2010年9月時点での法人利得税率は16.5%(法人以外の事業税率は15%)となっています(前号表2参照)。世界中の税率と比較しても非常に低い税率を享受できる反面、経済協力開発機構(OECD, Organization for Economic Co-Operation and Development)の規定によるタックスヘイブン国・地域にこそ指定されていませんが、日本のタックスヘイブン対策税制の適用範囲に該当する地域となります。ここでは基本的な法人利得税計算を理解するために係わってくる益金算入・不算入項目、及び損金算入・不算入項目について解説していきますので、ご参考頂ければと存じます。

1. 課税対象所得の計算概念

課税対象所得、つまり益金算入項目となる要件は、「香港内で行った事業活動から、または香港が源泉と考えられる所得」とされています(詳しくは「源泉主義の名の下に」シリーズ参照)。これに対し、課税対象所得から免除される項目、つまり益金不算入項目(Exemption)については、要約すると表3のとおりとなっています。

※その他香港税務局が開示している特定長期債券に係る受取利息や売却益、及び投資信託等に係る利益についても非課税として扱われることとなっていますが、ここでは詳細については省略します。

2. 損金算入項目(Deductible Expenses)の概要

原則として、香港にて課税対象所得を稼得するために発生した経費については、常識の範囲内を逸脱していない限り損金算入が認められます。他国と比較すると非常にシンプルではありますが、下記のとおり、代表的な項目の注意点について列挙します。

(1) 接待交際費については、日本やアメリカのような損金算入限度額はありませんが、あくまで課税対象所得を稼得するために要したものに限られます。明らかに多額の接待交際費によって課税対象所得が調整されていると考えられる等、旅費交通費と合わせて、香港税務局よりよく指摘を受ける項目です。

(2) 貸倒引当金は、既に支払い期限が到来しており、かつある一定期間回収活動を行ったにもかかわらず、回収できないと判断できる不良債権が香港税務局によって認められた場合、損金算入できるとされています。従って、会計上貸倒引当金を計上したとしても、税務上否認される可能性もあります。その他債務に係る引当金については、既に発生している特定の債務に対するもので、ほぼ正確に金額を見積もることができる場合に損金算入できるとされていますが、偶発債務を含め、債務の原因となっている事実や事象が発生しているだけではなく、実際支払い金額が確定している場合のみ損金算入できます。

(3) 強制積立年金(MPF, Mandatory Provident Fund)は、原則としてすべての雇用主に対し、従業員のために加入が義務付けられており、従業員月給の最低5%相当額を雇用主及び従業員各々が拠出(強制積立)し、積み立てていくもので、雇用主としては、従業員給与総額の15%(任意積立がある場合)までを損金算入できます(因みに個人は年間12,000香港ドルを非課税で申告可能)。

(4) 香港政府指定の組織機関への寄付金は、100香港ドルから寄付金控除前の課税対象所得の35%を上限として損金算入できます(02/03年度までは10%、03/04から07/08年度までは25%が上限)。

(5) 商標権や特許権等の登録料は、これらの権利が香港にて課税対象所得を創出するために必要なものである場合、損金算入できます。また、そのような無形固定資産の購入原価についても、1991年4月18以降に発生したものに限り、かつ関連会社から譲渡されたものを除き、取得年度にて損金算入が可能です。

(6) 借入金支払利息
課税対象所得を創出するために使用される借入金から発生する支払利息は、損金算入可能ですが、オフショア取引(香港にて非課税)やキャピタルネイチャー取引(子会社投資や投資不動産その他)に関連するものについては否認されます。香港内外からの非金融機関からの借入金から発生する支払利息は、貸付側の受取利息が香港にて課税対象となっている限り、損金算入可能です。従って、日本(またはその他海外)の親会社からの借入金に対する支払利息は、原則損金不算入となります。なお、香港内外の金融機関からの借入金から発生する支払利息については、次の通り区分できます。

  • 該当する借入金の元本及び金利の全部もしくは一部を保証するため、関連当事者またはその代理人の預金を担保として差し入れている場合、その支払利息は全額損金不算入となります(金融機関側の受取利息が香港にて課税対象所得となっている場合は損金算入可能ですが、日本の親会社の預金担保を基に日本の銀行から借り入れを受けた場合、香港にてその受取利息が課税所得として処理されているとは考えにくく、理論的には損金不算入となる)。
  • 該当する借入金の元本及び金利の全部もしくは一部を保証するため、関連当事者またはその代理人の預金を担保として差し入れていない場合、その支払利息は全額損金算入となります(課税対象所得を稼得するために使用されていることが大前提)。

(7) 外国税額は、原則利益に課されたもの(所得税等)については損金不算入(租税条約にて取決めがある場合、外国税額控除の可能性あり)となりますが、収入に課された外国税額(消費税や営業税、その他源泉税等)については、外国税額控除はとれませんが、経費性が認められ、損金算入可能です。

(8) 有形固定資産の修繕修理や改良改装に係る費用
現状維持に係る機械設備や備品の修繕費(部品代等含む)については、発生時に損金算入され、改良目的で発生した経費については、減価償却の対象となります。商業用建物の改装で発生した経費については、5年間にわたって均等(20%)に損金算入が可能です。製造工程で使用される機械設備やコンピューターハードウェア及びソフトウェアは、特定固定資産(Prescribed Fixed Assets)とみなされ、それらの取得費用は取得年度に全額損金算入が認められます。08/09年度からは、環境保全型機械の取得費用についても、取得年度に全額損金算入が認められ、環境保全型装置の取得費用は、5年間にわたって均等に損金算入が認められています。

(9) 有形固定資産の減価償却費
減価償却資産は、産業用建物、商業用建物及び機械設備として区分規定されており、初年度特別償却(Initial Allowance)と年次償却(Annual Allowance)が次の通り認められています。

また、一方で課税対象所得を稼得するために発生した経費として認められない損金不算入項目(Non-deductible Items)もあり、上述していないものは表5の通りです。

以上、駆け足で要約解説しましたが、一般的に当てはまる項目は網羅されているかと存じます。10年9月現在、経済環境は以前より徐々に改善してきていると感じられるものの、各経済団体は更なる減税を含め、香港政府の支援策を要求しています。一地域に過ぎないとはいえ、低税率でも財政が整う経済環境を維持している香港の今後は、まだ可能性を秘めている感がします。租税回避等の策を講じることなく、官民どちらも潤うシステムは正に理想的ではないでしょうか。