香港 総経理のための監査入門
[監査入門] 会計事務所と監査人って違うんですか?
日本では会計士の監査が必要な会社は、全体の1%未満しかありません。そんな国から監査が100%必要となる香港・中国に進出してきていますので、「監査」という仕組み自体をよく理解している方のほうが少なくて当然です。そこで前回はまず、「そもそも監査とはなに?」という話からさせていただきました。それと同じように「会計事務所」という言葉も、よく使われる一方で具体的に説明することが難しい言葉かもしれません。この「会計事務所」という言葉は幅広い意味を持つため、使い勝手がいい半面、逆に混乱してしまうケースもよくあるのです。
日本に居ても、会計や税務に対する理解によって「会計事務所」のイメージにはばらつきがあります。これが会計や税務の制度自体が異なる香港・中国ともなると、「会計事務所」で提供しているサービス自体も国によって変わってくることになりますので、それぞれの「会計事務所」のイメージがさらにばらついても不思議ではありません。
例えば、日本本社から「現地会計事務所に相談して・・・」と指示がきたとします。ここで日本本社との間で「会計事務所」のイメージが一致していないと、お互い話がかみ合わなくて苦労することになります。日本本社としてみれば、「なぜ監査する会計事務所は別法人なんだ?外注するのか?」とか、「一つの会計事務所ですべてできないのか?日本だと全部やってくれるぞ。」とか、疑問にもつことが多々あるのですが、よく制度を理解してないと現地サイドでも的確に回答するのは難しいものです。
それではまず、日本で「会計事務所」と言った場合、一般的にはどんなイメージでしょう?だいたい税理士事務所を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?つまり、記帳や決算書作成、税務申告をやってくれる事務所、それが「会計事務所」のイメージかと思います。そして日本本社はこのイメージをもとに、指示を送ってくることが多いのです。ただし日本本社が上場会社だったりすると、「会計事務所」=「監査人」というイメージで指示することもありますが、これは少数派かもしれません。一方、香港・中国では「会計事務所」は監査も取り扱うところ、というイメージが強くなります。また、監査人が税務代理人も兼ねることが一般的です。
つまり、「会計事務所」のイメージを図にしてみると、日本と香港・中国ではそれぞれこんな感じかもしれませんね。
これで少なくとも、「会計事務所」という言葉は幅広い意味を持つんだな、ということがお分かりいただけたと思います。ただ、それでは一体、日本本社との間で話がかみ合わない部分というのはどこなのでしょうか?
実は、記帳代行作業まで「会計事務所」にお願いしている場合が要注意なんです。まずは前回の内容を少し思い出してください。監査する人にはどんな条件がありましたか?・・・答えの一つは、会社・経営者から完全に独立した第三者じゃないとダメ!でしたね。そうすると、記帳代行を行った会計事務所が自らその監査人になる、なんてことは、「監査」の条件を満たさなくなってしまうので、できないのです。従って、このような場合には、記帳代行会社となる「会計事務所」と監査人・税務代理人となる「会計事務所」は別にしなければなりません。つまり、「監査」がある分、「会計事務所」で提供しているサービスは日本の一般的イメージより多いのですが、記帳代行と監査は同じ会計事務所ではできないため、このような場合には一つの会計事務所による完全なワンストップサービスは出来ないのです。
さて御社の場合、日本本社がイメージしている「現地会計事務所」はどちらでしょうか?現地サイドとしては質問の内容に応じて「現地会計事務所」を使い分けなければなりません。海外に出ている以上、同じ言葉を使っていてもお互い違うイメージをもとに話しているということは、本件に限らずよくあることです。今回の話が少しでもそのようなミスコミュニケーションの解消に役立てば幸いです。