中国 中国会計税務レポ
[中国会計税務レポ] 企業関連者間取引の特別調整 – 同時文書(3)
「BEPS(税源浸食と利益移転)」対応強化の一環として昨年6月に国家税務総局から公布された『関連者間取引申告と同時文書の管理に関する公告』(国家税務総局公告2016年42号。以下「42号公告」といいます。)について紹介しています。今回は同時文書のうち、ローカルファイルの概要を中心に紹介します。
1. 同時文書の準備
企業所得税法においては、関連者間取引の関連資料の提供を義務付けています。この関連資料を「同時文書(中国語表記は「同期資料」)」(注1)と称し、これを準備し、税務機関の求めに応じて提出しなければならないとしています。42号公告では、同時文書には
- マスターファイル(中国語表記は「主体文トウ」:トウはキヘンに当。以下同じ)
- ローカルファイル(本地文トウ)
- 特殊事項ファイル(特殊事項文トウ)
を含むとし、3種類の文書の準備を要求していますが、2号弁法では同時文書はローカルファイルのみとされていました。なお、同時文書の作成期限や開示内容などについても42号公告では修正が加えられています。
(注1) 『特別納税調整弁法(試行)』(国税発[2009]2号。以下「2号弁法」)の「第3章同時文書管理」において同時文書の準備義務とその内容が定められていましたが、42号公告の公布により廃止されました。
2. ローカルファイル
- 準備要件
- 有形資産の所有権の譲渡金額(注2)が2億元を超える
- 金融資産の譲渡金額あるいは無形資産の所有権の譲渡金額が1億元を超える
- その他の関連者間取引の合計金額が4000万元を超える
- 準備期限と提出期限
- 開示内容
ローカルファイルは関連者間取引金額が
場合に準備しなければならないとされています。
2号弁法では関連者間の売買金額とその他の取引金額を基準としていましたが、42号公告では金融資産・無形資産の譲渡取引金額の指標が新たに加わりました。また、2号弁法では、外資の持分が50%未満の場合に限って、国内取引のみを行っている企業に同時文書の準備を免除していましたが、42号公告では「関連者間取引が国内関連者との取引のみである場合」となり、持分割合の制限を撤廃するとともに、事前確認(APA)(注3)制度を利用する場合もローカルファイルの準備は不要としています。
(注2) 来料加工業務は年度輸出入通関申告価格により計算します。
(注3) APA( Advance Pricing Arrangement)、中国語表記は「預約定価安排」)。関連者間取引の価格設定の妥当性について事前に税務当局に確認を受ける制度。所轄税務局との協議による事前確認価格は、その通知を受けた日の属する納税年度から3年~5年適用されます。このAPA制度については2号弁法の6章に規定されていましたが、2016年10月に「事前確認管理の改善事項に関する公告」(国家税務総局公告[2016]64号)が公布されて廃止となり、その手続きが変更されています。
42号公告により、準備期限は該当年度の翌年5月31日から6月30日までに、提出期限は税務機関からの要求があった日から20日以内から30日以内にと、それぞれ延長されています。
ローカルファイルは2号弁法においても準備が求められていた文書であり、42号公告においても
- 企業の概要
- 関連関係
- 関連者取引
- 比較可能性分析
- 移転価格算定方法および使用
というその開示内容の枠組みには大きな変化はありませんが(注4)、42号公告ではその内容についてより詳細に規定され、開示を要求される情報が増えています。一方、マスターファイルに含まれる企業グループ組織構成や企業機能・リスク分析、連結財務諸表などはローカルファイルでは開示不要となっています。
(注4) 2号弁法では、開示内容を
- 組織構成
- 生産経営状況
- 関連取引状況
- 比較可能性分析
- 移転価格算定方法の選択および使用
の5項目に区分していました。